さいたま地裁ワンセグ判決の功罪

著者: 醍醐聡 : 東京大学名誉教授
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2016927

  以下は、日本ジャーナリスト会議の機関紙『ジャーナリスト』(2016925日号)に寄稿した小論である。同紙編集部の了解を得たので、このブログに転載する。

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さいたま地裁ワンセグ判決の功罪

対象拡大に歯止め
 826日、さいたま地裁はワンセグ機能付きの携帯電話の所有者は放送法641項がいうNHKの「放送を受信できる受信設備を設置した者」に該当しないから、NHKと受信契約を締結する義務はない、という判決を言い渡した。となると、ワンセグ機能付きの携帯電話の所有者には受信料を支払う義務はないことになる。
 その理由としてさいたま地裁は放送法214号で「設置」と「携帯」が区別されている事実を顧みず、「設置」には「携帯」を含むというNHKの主張には文理解釈上、相当の無理があると判示した。

 NHKの籾井会長は会長就任以来、テレビ放送のインターネット配信とネット配信からの受信料徴収に意欲を燃やしてきた。石原進・経営委員長も913日、これに同調する考えを示した。
 こうなると、受信料の徴収対象は、ゆくゆくは、ドイツの放送負担金と同じように、受信機の「設置」という前提を離れ、全世帯にまで広がっていく可能性がある。この意味で、今回のさいたま地裁判決は受信端末の多様化を理由に、受信料の徴収対象を一気に拡大しようとするNHKの思惑に待ったをかける意味を持つ。

NHKは準国家機関?
 しかし、その反面で今回のさいたま地裁判決には受信契約論から見て、見過ごせない危険な判断が含まれている。それは判決が「設置」の中に「携帯」も含まれるとするNHKの主張を退ける際の次のような判断に現れている。
 つまり、判決は、NHKの受信料も財政法3条が定めた「国が国権にもとづいて収納する課徴金等」に該当するから、憲法84条が定めた課税要件明確主義が適用される。にもかかわらず、「設置」の中に「携帯」も含まれるとするNHKの主張はこうした課税要件明確主義に反するというのである。
 このようなさいたま地裁の判断は憲法尊重の姿勢を具体化したものと評価できなくはない。

 しかし、内閣総理大臣が任命した経営委員が受信契約の条項について議決権を有しており、総務大臣の認可を根拠にして受信料の徴収権を有する以上、NHKは国家機関に準じた性格を持つと判決が言い及ぶに至っては、判決を憲法擁護の姿勢と評して手放しに肯定するわけにはいかない。

 それどころか、このような司法判断がまかり通ると、NHK受信契約は双務的なものから片務的なものへと変質する。つまり、NHKが放送法にもとづく自立した放送を行うのと見合いで、視聴者は受信料を支払うという関係は退けられ、受信「契約」は名ばかりで、実質はNHKに受信料徴収権を認めるだけの片務的なものへ変質する。そうなると、受信料はかぎりなく税金に変質する。

 双務的な受信契約を介して、視聴者がNHKの放送や経営(会長選考を含む)を監視し、建設的な批判、提言を行う道を塞ぐようなさいたま地裁判決には厳しい視線と批判を向ける必要がある。

初出:醍醐聡のブログから許可を得て転載

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/

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