さすがにアメ車-はみ出し駐在記(7)

継続的に、あるいは頻繁にアメ車に乗ったことのある人なら笑い話で済ませるものから済ませないものまでなんらかの痛い目にあったことがあるだろう。あって当たり前、ない方が不思議というアメ車。何人か集まって話し始めたら、それこそ次から次へと出てきて何時終わるともつかないのではないかと思う。

 

フィールドサービスであちこち飛んでレンタカーで走り回っていればそりゃないだろうというのに遭遇する。幸い事故につながるようなトラブルはなかったが、そのときはどうしようって大慌て。後になってみれば笑い話、なんでもありのいい経験をさせてもらった。

 

米国支社はAvisとコーポレート契約していた。赴任当初、Avis以外のレンタカーは使ってはいけないものと思っていた。AvisはHertzやNationalと並んで余程小さなエアポートでなければどこに飛んでもある。当時Avisはクライスラーの車をメインとしていた。借りる車はIntermediate(中型車)。小型は疲れるし、大型は気が引ける。クライスラーの中型車、なんの特徴もないつまらない実用車。乗って楽しくないまでならいいのだが、なんとも乗り心地が悪い。建てつけが悪いとでもいうのか何から何まで違和感がある。機能は満足しているだろうと言われれば、確かにその通り。でも、やはりでもといいたくなる。座席一つとっても、特別なことをしなくてもいいからもうちょっと座り易い座席にくらいできるだろうと言いたくなる代物だった。全てにおいてクライスラーは避けたいと思うなかで、とりわけこれだけは好き嫌い抜きにして勘弁してくれというのがあった。

 

文句を言えば、どう言い返されるのかが分かっているだけに多少躊躇いがある。でも直接運転に関係することだけに言い返されたら、じゃあ、クライスラーは乗れませんと最後通告したくなる。典型的なモンゴロイドの体形?で脚が短いからアクセルやブレーキが遠いい。足で押すハイビームのスイッチにいたっては、多少のけぞらないと届かない。アクセルやブレーキにやっと届くようでは運転しにくいから座席を前に出すことになる。あだ名が骨とかガラだったくらいだから腹は出ていないというよりへこんでいた。それにもかかわらず多少余裕をもってアクセルやブレーキに届くまで座席を前に出すと、ハンドルが腹に当たりだす。腹に当たらない、足も届くあたりに座席を決めてはいいのだが、ハンドルが体に近すぎて腕をかがめての運転になる。クライスラーの設計基準がコーカソイドに合わせたもので、脚の短いモンゴロイドは乗るなということか、クライスラーにはそこまで考える知識がないということだと思う。同じアメ車でもフォードやGMでは脚が届かないというのはなかった。

 

先輩駐在員と一緒に出張に行ったらAvisには行かない。コーポレート契約を無視してフォード車の多いNationalを使っていた。ThunderbirdやCougarに乗りたくてのNationalだった。この同行出張でほっとした。それ以降はNationalに切り替えた。

 

それでもなにかの都合でクライスラーになってしまうことがあった。確ミネアポリスの近くだったと記憶しているがクライスラーのDusterかDiplomat(いずれも車種名)で往生した。出張には着替えや書類などが入ったバッグと工具箱の二つを持っていっていた。仕事を終えてモーテルに着いた。チェックインを済ませて、トランクからバッグをと思ってトランクのキーを回したがトランクが開かない。叩いたり押したりしたが開かない。キーを差し込んで右に左に回してキーをアンロックの位置にして、叩いて押して、力加減を強くしたり緩くしたり、いろいろやったが開かない。隣に車が入ってきて、あの東洋系はいったい何やってんだろうと変な目でみられた。泥棒と間違われるのもイヤなのでトランクが開かない。Nationalに文句言ってやると、言わなくてもいいことまで言って泥棒じゃないって。。。

 

田舎にゆくと気のいい人が多くなる。どれどれと何度もトランクを開けようとするが開かない。着替えなんかなくたっていいじゃないか。そのまま寝ちゃえと言って諦めて行ってしまった。洗面道具も何もなしはきつい。なんとしても開けなければとバタバタやってたら、パカーンと開いた。何なんだお前、今まで開かなかったのが何で急に開くんだ。バッグを取って閉めようしたら、今度は閉まらない。強くバンと締めたり、押し付けるようにしたがいくらやっても閉まらない。トランク開けたままにしておくわけにもゆかない。散々あれこれやって、諦めかけたら閉まった。何、閉まったのかと嬉しいより驚きだったが失敗したと後で思った。工具箱を出しておけばよかった。明日の朝、客先に戻ってトランク開かなかったら仕事にならない。でも、やっと閉まったトランクを、今開けるか?いやいや今晩のところはここまでで勘弁してくれ。

 

明朝下手にトランク開けて閉まらなかったら、開けたまま走ることになる。トランクを開けるのは客のパーキングについてから。。。開かないのではないかと心配しながら開けたら昨夜のことが嘘のようにフツーに開いた。工具箱出して閉めたら、フツーに閉まる。何だお前はとタイヤの一つも蹴飛ばしたくなった。

 

品質というのか信頼性というような言葉がかすれて社会問題の影に隠れてしまったアメ車のなかでもクライスラーはひどかった。そこまで行かなくてとても及第点におよばないのがフォード。七十年代後半から八十年代初頭、まだまだまともだった-三社比較でしかないが-のがGM。それでもアメ車はアメ車。数乗っているうちにはとんでもないのに当たる。

 

これは間違いなくボストンでのこと。オールズモービルのCutlass Supreme、当時中型車のベストセラー。アメ車の中で最も無難な車種と思われていた。走っていてギアシフトというのかポインターとギア位置が安定しないというのかなんかズレているように見えて気になっていた。オートマチック車だからギアシフトなどしない。三箇所しか使わない。D:ドライブ-前進、P:パーキングとR:リバース(バック)、DとPの間にN:ニュートラルがある。Dにポインターを合わせて運転してるのだが、ポインターがNの方にズレている。前を見て運転しているから右ひざ横にあるシフトはちらちらしか見れない。ちらちら見てるとなんかポインターがズレて動いているような気がする。T字型のシフトレバーもなんとなく感触がおかしい。

 

走りながらシフトレバーを握って、位置の遊びをみていたら、スルっという感じでシフトレバーが抜けて取れてしまった。慌てて差し込んで、もうポインターの位置なんかどうでもいい。ただそのまま走ってくれればいい。モーテルの駐車場までたどり着いて駐車場に頭から入れてほっとした。

 

ちょっと仕事で手間取って今日中にニューヨークには帰れない。ボストンでゆっくり寝て明朝早々に帰ればいい。ケンモアスクエアの近くのモーテルだったので近場のチャイニーズでも食って、。。。

朝、バックで車を出そうとしたら、シフトレバーをどこにしても前進しかしない。どうしてもバックできなかった。もうこれ以上前進するとパーキングのフェンスにぶつかるところまででやめた。

 

どこのエアポートか忘れてしまったが、何かコンベンションでもあったのだろう、レンタカー屋というレンタカー屋が客であふれていた。随分待たされて、やっとカウンターにたどり着いた。「出払ってしまって新車を下ろしてくるがムスタングでいいか?」「できれば新車はよしてくれ」「生産ラインの最終検査はしたくない」「検査費用もらってもお断りしたいんだが」「新車のMustangしかない」だったら聞くな。出てきたのは新車の匂いがするピカピカのMustang。新車も悪くないなと思いながらもトラブルの匂いにビクビクしながら運転した。座席を前に出したらドアについている窓を開け閉めするハンドルが座席の横にきて手が入らない。基本的にはコーカソイド仕様。脚が短すぎる。運転に最小限必要なところしかさわらない。ドアが落ちるようなことはないだろうが、方向指示のライトがつかないくらいのことはいつでも起きかねない。

 

後から駐在に来た同僚がシェボレーのCamaroを買った。格好が気になる工場出の若い独身者にはうってつけの廉価なスポーティ車。ポンティアックのFirebirdと見た目はほとんど変わらないが価格は違う。Firebirdは安くても七千ドルは下らない。Camaroなら六千ドルそこそこで買える。この千ドルの違いは大きい。GMのなかのクラス分けが見える。一番下の大衆市場向けのシェボレー、その一つ上にポンティアック。一番下で看板も軽いのだろう。シェボレー、品質も軽い。買って半年もしないうちにラジエーターに穴が開いて水漏れ。誰も完璧はないが、日本車でこのトラブルはちょっと考えられない。

 

笑い話で終わって事故にまで至るトラブルがなかっただけも幸運なのだろう。アメ車に乗るのは思わぬトラブルに遭遇する可能性と同義語だと思ったほうがいい。その可能性、宝くじよりはるかに確立が高い。日本ではちょっと想像できないない経験をさせて頂けるアメ車に感謝。あれこれやれば、ちょっとやそっとのことでは驚かなくなる。

 

注:

自動社メーカのディビジョンは煩雑を避けるため必要でない限り省略した。

参考のため当時の三社のディビジョンと上にあげた車種の関係を書いておく。

GM:キャディラック、ビュィック、オールズモービル(Cutlass Supreme)、ポンティアック(Firebird)、シェボレー(Camaro)

フォード:フォード(Thunderbird)とリンカーン・マーキュリー(Cougar)

クライスラー:クライスラー、ダッジ(Diplomat)、プリマス(Duster)

 

Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集

 

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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