International Manufacturing Technology Show、略してIMTS、通称「シカゴショー」は偶数年にシカゴのマコーミックプレイス(McCormick Place)で開催される。日本の工作機械メーカが最も力を入れている展示会の一つで、どこも総力をあげて出展する。偶数年に東京で開かれる日本国際工作機械見本市(Japan International Machine TOol Fair )、略してJMTOFと奇数年にヨーロッパで開かれるEMOと合わせて、工作機械業界の三大展示会と呼ばれている。
<EMO>
EMOの正式名称が長ったらしいフランス語で、なかなか覚えられない。正式名称は、Exposition Mondiale de la Machine-Outilというらしいが、誰もそんな面倒なことは言わずにEMOと呼んでいる。欧州国際工作機械見本市という日本語訳もあるが、こっちも聞いたことがない。
七十年代にはいって、日本市場の閉塞感から多くのメーカが海外市場に活路を見出そうとしていた。東南アジアにも成長の兆しがあったが、即の成果を期待できるのは北米市場だった。ヨーロッパも工作機械の市場としては大きいが、地場のメーカも強く日本メーカが浸食するのは難しかった。
安定志向の経営方針と築きあげてきた頑強な機械という設計基準の呪縛が災いして、アメリカの工作機械市場が経営も技術も軽くて速い日本の工作機械メーカに浸食されていった。八十七年には貿易摩擦の一項目として工作機械が挙げられることになるが、七十年代末には、すでに日本メーカの草刈り場になり始めていた。競合相手はアメリカメーカではなく、日本メーカ同士の争いになっていた。
東京の展示会場も東京ビッグサイトと幕張メッセになって、晴海のような恥かしいものではなくなった。それでもマコーミックプレイスのメイン会場にははるかに及ばない。それは豊かなアメリカを象徴していた。高い天井にゆったりした小間割が作り出す空間には他の会場にはない独特のものがある。会場間の格差が小さい日本の展示会場からは想像できない。マーコ―ミックプレイスのメイン会場は野球でいえばメジャーリーグで、他の会場はマイナーリーグというほどの違いがある。
メイン会場に出展できることが、とりもなおさず業界でのメジャープレーヤ-であることを証明する。誰しもそこに出展したいと思ってはいるが、会場のスペースは決まっているから、どこかが落伍しない限り、いくら力があってもメイン会場には入れない。七十八年、すでにアメリカの老舗の大手が何社か消えてか消えかけて、メイン会場においても日本の工作機械メーカ同士がしのぎを削っていた。
日本メーカの誰もが主力機種と将来の戦略機種を出展していた。下準備の細々としたことはアメリカ支社に任せても、総力を挙げての出展だけに、各社とも社長以下、海外営業のトップから技術部長クラスに実務部隊。。。多いところでは総勢二十名三十名を超える人たちが現場に詰める。
どこも全力を挙げて出展なのだが、会社の勢いの差がそのまま展示にも会場にも反映する。急成長を続けている会社と停滞、衰退傾向にある会社では、会場にいる人たちの熱気に違いがある。成長著しい二社では、二代目の若社長が陣頭指揮をとって、派手なパーフォーマンスの展示をしていた。そこには日本人も多いが、それ以上にアメリカの代理店や、おそらく招待された大手客で賑わっていた。
それにひきかえ、自社の会場では手持無沙汰から、駐在員と出張者がいくつかのグループになって世間話をしていることが多かった。名門と言われた老舗の工作機械メーカだけに、アメリカ進出は早かったが、アメリカでも退潮は隠せなかった。
それでも、そこはシカゴショー、代理店も顔を出すし、懇意にしている客も顔をだす。顔をだしてくれるのはありがたいのだが、いかんせん、ろくに話題がない。目を見張る新技術もなければ、戦略的と位置付けている新機種も精彩がない。世間話に業界情報、そんなものでは間のもちようもない。社外の人たちへの機械の説明より、身内で話をしている時間の方が長い。
興味深いのだが、予定されている日本の人事異動なども展示会場で噂として聞こえてくる。日本を離れていた方が情報が早い。人の心理なのだろう、外にでると口が軽くなる。パートナーのマネージャから自社の社長が今季いっぱいで退任するという話を聞いて、日本から出張に来ていた部長も実務部隊も驚いた。
もう七十歳を超えたかという高齢の社長。資金に余裕のあるときに、新しい技術に投資せずに近隣の土地を買いあさって、潤沢な内部留保を抱えた優良企業を目指した。その延長線の経営しか考えられないのだろう、新技術の取り込みに遅れをとって、朽ちた名門というありがたくない世評を頂戴していた。
歳も歳だし、長旅で疲れているのは分かる。でも、展示会場に設けた来客用の椅子に座って居眠りをするのだけは止めて欲しい。小間のレイアウトがまずかった。居眠りしている社長が外から丸見えだった。
経理上がりの小官吏然とした社長、何をしたところで、ろくなことしかしないだろうし、変わったことをしようとしたところで、自分が作った社内力学で雲散霧消して終わる。何もできないのだから、無駄な時間と金をかけてシカゴまで来なくていい。本社の社長室でお茶でもすすっていればいいものを、わざわざシカゴくんだりまで恥をさらしにでてくるな、と居眠りしている足でも、つまづいたふりをして蹴飛ばしてやろうかと思った。
社長と面識のある代理店の社長が挨拶に来たはいいが、居眠りしているのを起こすのもなんだと思ったのか、苦笑いしながら、後でまた来ると言い残して出ていった。なかには冷やかし半分で、「あそこで居眠りしている年寄は誰なんだ?」と知ってて聞いてくるのがいる。「知ってるくせして、聞くな」と言ってはみたが、なんとも情けない。
陣頭指揮を執っている若社長に、居眠りこいている引退直前の社長。はなから戦にならない。負け戦承知でなんとかしなきゃってバタバタしたところで、社長に引き上げられた取り巻き連中から疎まれる。負け戦はしょうがないにしても、割に合わない戦はしたくない。たとえ「骨は拾ってやるから.。。。」と言われたところで、口先だけなのが分かっているから、奮起する気にもならない。それでも、せめて格好だけでもいいから、そのくらいの気概は見せて欲しかった。
老いさらばえた羊に率いられた負け犬集団とでもいったらいのか。それに気が付いてところで、何もできないか何もしようとしない役職連中。前線部隊の下っ端はたまったもんじゃない。まったく情けない。
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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