ただの口利き屋じゃないか

著者: 藤澤豊 ふじさわゆたか : ビジネス傭兵
タグ:

YouTubeに出てくる広告が煩わしい。それなりに予算をかけてつくった広告でもうっとうしいのに、学芸会の延長線のようなコマーシャルを見せられると、知的水準を疑いたくなる。粗雑で品のない広告なんか疑念を生むだけだから、ちょっと考えた方がいいんじゃないのと余計なひと言も言いたくなる。

Chrome拡張のAdBlockはかけているが、そのうちYouTubeの方もなにか手を打ってやろうと思っている。ただ、そんなろくでもない広告を見るのも巷の風を感じるためのコストかもという思いもあって、当分流しておくつもりでいる。かたりもタタキもカスリも「ビジネス」という世相を反映してか、新手も含めて仲介業花盛りの感がある。
まっとうなお仕事を例にあげて申し訳ないが、旅行代理店を考えてみれば分かりやすい。パッケージ商品の企画や広告宣伝などで付加価値を付けているのはわかるが、サービスの主要構成要素をみていけば、移動手段も宿泊施設も食事所も何も話を通す(今はそれもデータ転送)だけで何を提供するわけでもない。
それは不動産屋でも人材紹介も同じことで、していることは需要と供給の橋渡し。かつては人と人の直接のふれあいや関係もあったが、いまはネットでデータが送られるだけで、こう言っては失礼になりかねないが、なかには危なっかしいマッチングサイトのように事務所もなければ店舗もないところもあるだろう。後々のサービスがあるとも思えない売りっぱなしのサービス業とそこに委託先がぶら下がっているだけの営業体制。なにかあったとき、どこが責任をとるのかがはっきりしない「カンパニー」という都合のいい組織で、実作業もサービスも委託先に丸投げでカスリだけはしっかりという、はやりの言葉でいればビジネスモデルなるものが幅をきかせているんじゃないかと心配になる。
こんなことをいうと、お前は分かってないとお叱りを受けそうだが、製造業を渡り歩いてきた古希を過ぎたジジイにはそうとしか見えない。

実体験から一つあげておく。ある日、名前だけはどこかで聞いたことのあるヘッドハンターのなんとかというアメリカ人から、どこで聞いたのかしらないが、プライベートのアドレスにメールが入った。
「S社の自動車関係のマネージャの募集だがどうだろう」
S社はドイツの巨大な重電エンジニアリング会社で、アメリカの制御機器メーカの一員だったとき鉄鋼案件でコテンパにやられた苦い思い出がある。数年前にはドライブ系の仕事でS社指定の医院で健康診断までさせられて、ほぼ採用が決まったこともあったし、知らない相手じゃない。でも自動車部品までやっていたとは知らなかった。ホームページで確認したら、おまけのようなビジネスにしかみえない。そんな部隊の仕事なんかで連絡をしてくるなと思いながら、ヘッドハンターに自動車関係の内容を聞いたが、ああだのこうだのならべるだけで、まったく何も知らない。バカバカしくなって翌日にはヘッドハンターに断りのメールを返して、入ってくるメールをスルーした。メールの返信がないから、こんどは電話をかけてくる。口から出まかせだろうが、先方が是非会いたいと言ってるから、面接に行ってもらえないかと煩い。まあ、面接に行けば、聞かれる以上に訊いて、何を思って何をしようとしているか聞けるしで、冷やかしに出かけることにした。マーケティングにとって面接は業界構造や地勢図とそこに棲息している企業の動向を掴むまたとない機会となっていることに気がついている面接担当者には会ったことがない。

ドイツの本社から来たマネージャに日本支社の人事のマネージャが待っていた。ドイツ人のマネージャが言うには、全世界に展開している日系自動車メーカとその関連会社にS社の全ての事業体のビジネスを統括するポジションだという。自動車部品は畑違いだが、そんな話なら全体像も描けるし、日本のT社についてなら、合弁会社の社員だったこともあって、内実までそこそこ知っている。
あんた、自分が言っていることわかってんのかと思いながら、
「そのポジション、できるヤツはいない。もし任せてくれというのがいたら、そいつは仕事を知らないか、仕事のできないヤツだと思ったほうがいい」
「四つの解決しようのない問題がある。分かってんのか?」「どう解決するのか考えをお聞かせ願いたい…」
コンサルタントの話というより、ここまで具体的に込み入った話なんかできるヤツはそうそういない。例をあげた実務の話が続いて、話についてこれない人事が口を挟もうとしたら、「お前は黙ってろ。ここにいてもしょうがないから席に戻ってもいいぞ」とつっけんどんに言い放った。
その後三回も呼ばれて、そのたびに白板に図を描きながら、主要事業部が抱えているであろう問題について話して解決案の案まで提案した。
「この仕事受けてもいいけど、やれる自信はない。それでもというなら請けてもいい」と話をしているうちに、一時間でいいから社長と話をしてもれないかと言いだした。そのときすでにGEからオファーが来ていた。オファーを片手に小一時間市場について社長室で話して驚いた。彼ほど開明的で市場状況にあかるいドイツ人は会ったことがなかった。
日本の自動車産業を放ってはおけないというのはわかるが、長い付き合いのドイツの自動車メーカや製造設備メーカに競合する日本企業の後押しなんか、本気になってしようとする部隊なんか存在を許されるわけがない。お手盛りまでがせいぜいなんだから、それなりの人材を当たってくれとは、さすがに言いかねた。

ヘッドハンターはメールと電話で連絡してくるだけで、S社に一度も顔も出さなかった。何か報告しなければならない立場でもない。そんなヤツどうなったって知ったこっちゃない。しっかりサポートしてくれるヘッドハンターもいないことはないが、ガキの使い以下のヘッドハンターが多すぎる、というかほとんどがそうじゃないかと思っている。
ヘッドハンター、ああだのこうだのゴタクを並べて偉そうに仕切っているつもりかもしれないが、やってることは需要と供給の橋渡しで、言ってみればただの口利き屋でしかない。会社や組織はあったところで、たいした支援をしてくれるわけじゃない。担当者としては、今に生きるしかない。当然のこととして気になるのは、話が決まったときのコミッションだけだろう。半年後には違うところで違う仕事をしているかもしれない業界なんだから。
2022/8/22
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion12317:220824〕