ちきゅう座会員による新著出版の紹介

 ずいぶん以前に出版予告を紹介させていただいたことがあった。その後、諸般の事情から出版が遅れ遅れになり、やっとこの度出版にこぎつけた次第、読者の方々および早くから原稿を準備下さった著者の先生方に心からお詫び申し上げたい。

 「栗木安延記念論集」と銘打った本書の内容は、大変欲張ったものになっている。正確な表題は以下のとおりである。

『危機の時代を観る―現状・歴史・思想』―die Festschrift fuer Kuriki Yasunobu

 「現状・歴史・思想」と追記されているように今日の混迷した社会をさまざまな視角から洗い出し、考えてみたいという意欲的なものである。そしてこのことは、故栗木安延教授の意志でもあった。栗木先生は大学を退いた後に、自前で社会問題の研究所を設立し、学問研究のみならず、社会運動団体との交流をも視野において現実とかかわり、真に理論と実践との統一を図りたいと考えておられた。この先生の意志を少しでも現実化したいというのが、この書を企画した意図であった。

 論者も実に多様な専門家から成っている。しかも斯界の大家から、無名の活動家までが論稿を寄せている。栗木先生の生前の幅広い人脈の表れであろう。以下目次を掲載し、紹介に代えさせて頂く。出版は今月の20日になる。出版社は社会評論社。A5判の二段組み、400ページを超える大部の本である。ぜひお手にとって考える素材にしていただきたいと願う次第である。

まえがき 編者(加藤哲郎、日山紀彦、合澤 清)

Ⅰ.現状批判

第1章    高橋祐吉 現代日本における「労働の世界」の構図

第2章    栗木黛子 現代日本の社旗保障・社会福祉政策

第3章    加藤哲郎 格差と貧困の情報戦―戦後日本の社会政策とシンボル操作

第4章    土肥 誠 パックス・アメリカーナの維持とアメリカの情報政策

第5章    鎌倉孝夫 朝鮮民主主義人民共和国への主体的関わり

Ⅱ.歴史的分析

第1章    伊藤 晃 戦前企業人の天皇主義

第2章    玉木海修 『立正安国論』に於ける信仰と統治に関する一考察

第3章    白根澤正士「冬戦争」研究序説―フィンランド軍の戦術と欧州安全保障の断面を焦点に

第4章    水田 洋 アイアランド反乱とグラーズゴウ大学―ウィリアム・スティール・ディクスンの場合

第5章    岡田一郎 構造改革論前史としての1950年代

Ⅲ.思想的起点

第1章    田中正司 経験批判論としての実在論の展開―アダム・スミスの認識論の枠組み模索未定稿ノート

第2章    竹村喜一郎 ヘーゲル『法哲学』の今日的意義―フリードマンの自由把握批判と克服の指標として

第3章    合澤 清 歴史の転換期とヘーゲル

第4章    日山紀彦 弁証法的「人間―社会―国家」観に関する覚え書き

第5章    佐藤公俊 ビアトリス・ポッターとハーバート・スペンサー―ビアトリスの社会病理学についての「論争」をめぐって

あとがき 合澤 清

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion012:100611〕