ちきゅう座会員で、顧問でもあります岩田昌征先生(千葉大学名誉教授)がこの度新著を上梓されました。岩田先生といえば、日本のバルカン問題の研究者として第一級の方であり、この書の「あとがき」にもありますように、1991年のクロアチア戦争勃発から2001年のマケドニア戦争までの旧ユーゴスラヴィア多民族戦争の期間、1998年を除いて、毎年現地に行かれて実地調査をされてきた地道な研究者としても知られています。
岩田先生の研究は、このようなご苦労の積み重ねと、その上に築かれた壮大な「岩田理論」との両面から評価されるべきものだと思います。先生ご自身は謙遜してこの本の副題に「日本異論派の言立て」とお書きになっていますが、実際には「岩田理論」がこのような現地での危険を伴う調査結果に基づいて構築された点を無視するわけにはいきません。
本書の内容は全部で14章から成っています。いずれもきわめて興味深い章ですが、ここでは恣意的に次の章建てのタイトルのみをご紹介したいと思います。
1.思想的総括の社会主義論―社会改革を照射する視座の確立へ向けて
3.自主管理社会主義期の諸民族主義
4.ユーゴスラヴィア内戦の歴史と現実
5.旧ユーゴスラヴィア多民族戦争の欧米的諸要因
6.旧ユーゴスラヴィア多民族戦争再論―語られざる諸事件
7.ボスニア・ヘルツェゴヴィナ多民族内戦の深層
8.バルカンにおける民族・歴史・文明の葛藤―今日のコソボ問題を考える
14.ロシア・東欧の階級形成闘争―弁護論と批判論
民族問題はマルクスの理論においても未だ完成には程遠い弱点であると、例えば故廣松渉先生も常々言われていました。その民族問題(今日では中東や旧ソ連領、中国各地にまで及んでいます)を考える好材料をこの本が提供してくれていると思いますので、ぜひ皆様方にお勧めしたいと思います。
岩田昌征著『二〇世紀崩壊とユーゴスラヴィア戦争―日本異論派の言立て』(御茶ノ水書房)2010年7月16日初版 定価4200円+税
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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