日本の歴史や針路に大きな影響を与えているアメリカの政策には、表に現れない隠された部分がいろいろある。過去の史料の公開だけではなく、ウイキリークスやスノーデン・ファイルなどは現代の暗部への手がかりを示した。どこの国でも情報の統制は進んでいるが、ネットには隠されている暗部の解明を目指す努力もあって、大手メディアの報道とのバランスを与えてくれる。
そうしたalternative media で注目される一つがPaul Craig Roberts のサイトである。
http://www.paulcraigroberts.org/
Roberts は著名な政治経済学者で、レーガン政権時代に財務次官補としてサプライサイド経済学による新自由主義政策の推進で貢献し、国防総省や商務省への助言にも関わった。有力紙に評論を寄せるジャーナリストとしても知られていた。ところがブッシュ政権の政策を強く批判し、以後はアメリカ政府の政策に批判的な論評を続けている。9・11事件の公式の説明は物理的にありえないと批判、あるいはイスラエルをユダヤ人の国家と見るのは間違いで多くのユダヤ人が支持していないと指摘したことなどはその例である。経済の分野では専門の見識に立った分析と政策批判を展開、アメリカの自由企業資本主義はすべてをむしりとると論じ、外交政策の現実を分析して、アメリカの戦争屋が世界の覇権を目指して平和を脅かしていると警告している。経済と政治とを総合した分析が多い。サイトには、他のメディアからのインタビュー記事の転載やゲストの論文も収載、毎日のように更新される。大手のメディが取り上げない世界の論評にも目を向ける。ロシアのメディアの記事も載り、その信頼性の評価は難しいが、見方のバランスの意義はあるだろう。
2011年にRoberts は「陰謀理論」はもはや陰謀に拠って説明される事柄のことではなく、政府の説明やそのメディアの情報提供に一致しないどんな説明や、事実さえも意味するようになったと記した。政府の仕組みを熟知しての発言だけに切実である。最近のスピーチでは、アメリカ有力紙の政府への従属を例を挙げて批判し、ジャーナリストにとって真実だけが国家であると語っている。現在の懸念はウクライナをめぐるロシア非難の世論形成で、イラク戦争前に似ているという。
次にカナダの活発な批判的活動の例を挙げよう。
Centre for Research on Globalization はモントリオールにある独立した調査とメディアの組織で、Website・出版・ネットTVで情報を提供している。2001年の9・11事件の2日前に設立された。社会、経済、戦略、環境などの分野を対象とし、偽情報の時代に語られない真実を追求することを目指す。発行しているEジャーナルGlobalreserch はアメリカ・NATO・イスラエルの政策の隠された側面を最も鋭く告発するサイトで、英語だけでなく、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、ドイツ語でも読めるようになった。
http://www.globalresearch.ca/
センターを代表するのはオタワ大学の Chossudovsky (カナダ外務省での勤務経験を持つ)で、自身もしばしば執筆する。同センターのメンバーはじめ、多くの寄稿があり、他からの転載も多い。
このセンターは9・11事件への疑問、クリントン政権によるボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争へのアルカイダ系武装勢力の利用、アメリカとNATOによる「アラブの春」への介入、シリア内紛介入工作、イスラム国とアメリカとの関係等々、衝撃的な指摘を続けてきた。目下の焦点はやはりウクライナ問題についてのアメリカ・NATOによる軍事的解決への圧力とロシア国境に沿った米軍の展開である。
一般紙を読みなれた目には本当かという戸惑いも起きる。レポート・論評の信頼度には差があり、多くのデータに基づいた確かな考察もあれば、状況からの憶測と思われるものもある。隠された事実の情報にソースの明記を求めるのは難しい。読者が検証できないものは、他のソースの断片とつき合わせて、整合性から判断していくしかない。書き手、読み手の双方のバイアスを自覚した上で、大手メディアのバイアスと対置してその意義を評価していけばよいのだろう。
目をヨーロッパに転じれば、ドイツの Spiegel 誌のように、独自の情報と視点を示している大手メディアもあり、そこからアメリカの戦略からの自立を模索するヨーロッパの姿も見える(http://www.spiegel.de/)。日本では大手メディアへの信用が高く、疑う方が危険と見られやすい。Robertsの指摘は日本についてはどうなのだろうか。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion5656:150907〕