またもや地位協定の壁 (日本の法で米軍兵士の犯罪を裁けない) 岩国基地米軍属交通事故の顛末

 9月7日岩国基地に勤務する米軍属が通勤途中に人を轢き死亡させました。亡くなられたのは米軍住宅の建築が計画されている愛宕山の地元、牛野谷地区で自治会長を務めていた「愛宕山を守る会」のメンバーで恩田美雄さんという方です。

 事故後、米軍属の女性は逮捕されましたが、「素直に話している」という理由で釈放されています。仮に、「素直に話して」いても日本人の市民であれば5時間後に釈放されたでしょうか。

 昨年の沖縄・トリイ通信所勤務の兵士は老人をひき殺し、老人の介抱及び警察に対する報告義務を無視し、事故車を修理工場に入れ、自分は基地内に逃げ込みました。事故の当事者であることが露見すると「何かにぶつかったという自覚はあるが人を轢き殺したという自覚はない」と言い逃れようとしたり、今年は米海軍所属の25歳の女性軍曹が酒を飲んだ後キャンプシュワブから乗用車型軽戦車ハンビーを運転して出て辺野古周辺の公道で軽車両に追突し、3人に怪我を与え事故報告もせずに車を捨てて逃走しキャンプシュワブに逃げ込んでしまいました。当然、沖縄県警に第一捜査権があるもののMPは身柄を引き渡さなかったり、証拠物件の提出を拒んだりしています。いつまでこのように事件・事故を起こした犯罪人を隠匿したり、地位協定を悪用・拡大解釈して日本側の裁判権を奪うのでしょうか。このような振る舞いは決して米軍の駐留にもいい結果は期待できないと思うのですが。

 今回は二つの住民団体が日本政府高官や岩国基地司令官に宛てた抗議文の中で主張しています。「『素直に話している』などの理由で、たった5時間で加害米軍属の身柄は釈放されてしまいました。本来であれば、人が一人亡くなっているのですから、加害米軍属の身柄を勾留し、日本の法律に則った十分な捜査が行われるべきです。にもかかわらず、身柄が釈放されたことに対し、正しい判断だったのだろうかを思わざるを得ません」

 全くその通りです。ここでも基地司令官は「公務であった」と地位協定を悪用しようとしています。基地外に住む軍属が通勤途中に起こした事故なのです。どのような公務があったというのでしょうか。通勤そのものが公務とでもいうのでしょうか。この発言にはレストランで食事するのも酒を飲むのも公務であり、その行為の最中に他人に危害を与えても「公務中であった」で済まされる危険性を含んでいます。この釈放には県警の米軍に対する阿りまで感じてしまいます。

 このような米軍兵士などの犯罪・事故は「日米地位協定」そのものや運用の仕方に欠陥があることは言うまでもありません。

 更に抗議文では、「恩田さんは、地元の『愛宕山を守る会』のメンバーとして、愛宕山に米軍住宅が建設されれば、今回のような事件事故が増える可能性があるという不安から反対の声をあげておられました。その恩田さんの不安が今回の 事故によって現実の事となってしまいました」と書いています。

 「海兵隊の一部がグアムへ移駐することは良いことだ。その分だけ犯罪が少なくなる

……。(だからセットになっている辺野古移転を実行しろ)」と米国の高官が日本に迫ったことがあります。米高官が自らの口で、米軍駐留は犯罪等の原因であることを認めているのです。日本政府はこの発言を重く見て、緊急に「日米地位協定」ひいては「日米(軍事)同盟」の見直しをするべきでは無いでしょうか。菅直人氏が「自分の政治生命より国民の平和と安寧を優先して考えるならば……」 ですが。更に驚く事には、この事故が報道されたのは中国地方に於いてのみです。大政翼賛会化した全国紙はこの事故(事件)を一行たりとも報道していません。私とて、友人のメイル転送が無ければ知り得なかったのです。「このような重要な問題は日本全国、辻うらうらまで詳報を届けなければならない」という気持ちで拙文を顧みず今回の「ちきゅう座」への投稿を決心した次第です。下のメイル等による情報を読んで頂ければより詳細が理解して頂けるかと思います。

 *************** 岩国からの情報 ***************

  今日9月7日、午前7:11、岩国の愛宕山地区の牛野谷で「愛宕山を守る会」のメ ンバーが米軍属の運転する車にはねられ、病院に運ばれましたが、午前 9:35に 病院で亡くなられました。米軍属(32才)は、午前7:35、現場で逮捕され、身柄は岩国警察署が拘束しています。ただ、基地外住宅に住んでいて、基地に向かうところで事故を起こしたようですが、事故直後に近くに居合わせた「愛宕山を守る会」や事故現場に居合わせた方々の話では「車の正面より右側にキズがいっていたので、おそらく道を渡ろうとしていたところを引かれたのではないか」ということです。ブレーキ痕も一切なかったそうです。しかも、20M近く飛ばされているのに、米軍属の人は車から出ようともせず、どこかに電話をしていたそうです。警察や救急には後続の車の運転手が連絡してくれたそうです。(今、わかったのは、後続車の運転手が、すぐに対向車を止め、対向車と一緒にYナンバーの車が逃げられないようにせき止めてくださったそうです)今日はちょうど、榛葉防衛副大臣が岩国市議会全員協議会に愛宕山の配置概要を示しにきたところでした。全員 協議会で冒頭から市長や市議が質問の最初に、今朝の事故について触れていました。すると、全員協議会が終わってすぐに榛葉防衛副大臣をはじめ防衛省、中国四国防衛局、中国四国防衛局岩国事務所の職員たちが大挙して被害者宅を訪問したようです。

 テレビのニュースによると、米軍岩国基地の司令官は謝罪するコメントを出したようです。

 愛宕山地域住民の11万人の反対署名を無視し、愛宕山に米軍住宅270戸の建設計画が示しされています。これに対し、愛宕山地域の人たちは、米軍住宅が来たら、こういう事故が増えるのではという不安を抱えておられ、「こんな事故はこれで最後にしないといけない!」と声をあげておられます。ぜひ、全国からの抗議の声をあげてください。

*************** 岩国からの続報 ***************

 昨日の米軍属による事故の続報です。今回の事件で、岩国から情報を発信することの重要性を感じさせられています。

 昨日は岩国署が米軍属の身柄をおさえていると報告しましたが、今朝のニュースで、昨日午前7:35に現場で現行犯逮捕された米軍属は岩国署に身柄を移されましたが、「素直に話している」という理由 で、5時間後の12時頃には釈放されたようです。そして、昨日はマスコミからの「公務外か公務内か?」という質問に答えなかった米軍が今日になって「公務内である」と回答したようです。今日、被害者のお通夜が行われました。(私は遠慮した方がいいというアドバイスだったので、出席は控えました)北澤防衛大臣、榛葉防衛副大臣、岡田外務大臣からの供花が飾られていたそうです。中国四国防衛局長、中国四国防衛局岩国事務所長、それから被疑者米軍属とその夫、米軍岩国基地広報官が参列していたそうです。一応、沖縄からのアドバイスで弁護士に岩国警察署にきちんと捜査をするようにと要請に言って戴きました。交通捜査課長が対応し、「釈放しても任意で取調は行っており、今後も日本人に対するのと同様の捜査を行う」と断言しました。身柄が米軍に移されてしまったからこそ、こちらとしても、きちんと日本の法律に則った対応がなされることを強く要請していかなければなりません。それから、昨日書き忘れましたが、被疑者米軍属は錦見の方から岩国基地へ向かっていたようなので、「基地外住宅」に住んでいる米軍属であると思われます。昨日の榛葉防衛副大臣の説明では、愛宕山と基地内に米軍住宅1060戸を建設予定ですが、米軍再編では4000人以上が岩国に移駐して来ることになっており、1060戸では足りないのではないか?他は「基地外住宅」になるのではないか?と心配している人もおられます。愛宕山に米軍住宅が建てられたり、「基地外住宅」が増えれば、このような事故が増えることになりかねないので、亡くなった方の意思を継ぐ意味でも愛宕山の米軍住宅化に反対をしていかなければなりません。とりいそぎ、岩国の「住民投票の成果を活かす岩国市民の会」「米兵の犯罪を許さない岩国市民の会」が抗議と要請書を出されたので、添付いたします。

・・・以下、抗議と要請文・・・

内閣総理大臣   菅 直人様

防衛大臣     北澤俊美様

外務大臣     岡田克也様

中国四国防衛局長 辰己昌良様

在日米軍岩国基地司令官 ジェームズ・スチュワート様

抗議と要請書

 2010年9月7日午前7:11、岩国市愛宕山地域の牛野谷3丁目 におい て、恩田美雄さんが米軍属の女性が運転する乗用車に轢かれ、病院に運ばれましたが、午前9:35に病院で亡くなりました。このような事故が起こったことに強い怒りを覚えています。

 岩国署は同日 午前7:35に加害米軍属を現行犯逮捕しているにもかかわらず、新聞報道によると同人が「素直に話している」などの理由で、たった5時間で加害米軍属の身柄は釈放されてしまいました。本来であれば、人が一人 亡くなっているのですから、加害米軍属の身柄を勾留し、日本の法律に則った十分な捜査が行われるべきです。にもかかわらず、身柄が釈放されたことに対し、正しい判断だったのだろうかを思わざるを得ません。今後、身柄が米軍に渡されたとしても、日本の法律に則った裁きを受けられるように、日本政府は加害米軍属の身柄が在日米軍岩国基地に勾留し続けることを要請してください。

 昨日は、榛葉加津也防衛副大臣が、地元住民であるの反対の声を無視 し、愛宕山に米軍住宅を建設する計画を岩国市議会全員協議会に説明をするために岩国に来ていました。全員協議会の席上で、福田市長や複数の市議から今回の事故に触れる発言が相次ぎましたが、

 その席で榛葉防衛副大臣は「遺憾である。」「お詫びしたい」と発言し、全員協議会の後、被害者宅を訪問しており、報道によれば米軍司令官が謝罪のコメントを発表したと報じられました。榛葉防衛副大臣は「再犯防止を徹底する」とも発言しましたが、その具体的 な施策は全く明らかにされていません。これまでにも何度も再犯防止を訴えてきましたが、米軍に綱紀粛正を要請するだけで、具体的な施策がとられなかったからこそ、このような事件が繰り返されてしまったのです。これまでにも岩国においても、米兵あるいは米軍属などの米軍関係者による事件事故は後を絶ちません。そのたびに、米軍岩国基地の司令官から謝罪の言葉はあっても、米兵の外出制限をかけたとしても、綱紀粛正だけではなんら解決することなく、同じような事件が続いています。

 恩田さんは、地元の「愛宕山を守る会」のメンバーとして、愛宕山に 米軍住宅が建設されれば、今回のような事件事故が増える可能性があるという不安から反対の声をあげておられました。その恩田さんの不安が今回の事故によって現実のものであることを明らかにしています。恩田さんの思いを引き継ぐためにも、二度とこのような事件を起こさないために も、愛宕山の米軍住宅化計画を白紙撤回してください。

 以上の理由から、以下のことを要請します。 

(1)今回の加害米軍属の身柄は、たったの5時間で釈放されてしまったことに抗議をします。引き続き、日本の法律にのっとって公正な裁きを受けさせてください。

(2) 加害米兵の立 場からではなく、被害者の立場に立った対応をしてください。

(3) 二度とこのような事件を起こさないように具体的な施策を示してください。

(4) このような事 件事故が増える可能性をはらんでいる愛宕山開発事業跡地の米軍住宅化計画を白紙撤回してください。

(5) 日米地位協定 の抜本的な見直しをしてください。

「米兵の犯罪を許さない岩国市民の会」

「住民投票の成果を活かす岩国市民の会」

 筆者が、「この件はその後如何に進展しているか」と思いインターネット・サーフィンを試みみると、そこでさらなる驚きに遭遇した。記事を転載する。

http://www.minato-yamaguchi.co.jp/yama/news/digest/2010/1030/7.html

遺族ら検審申し立て 岩国の交通死、米軍属女性不起訴で

2010年10月30日(土)掲載

 岩国市牛野谷町の市道で交通死亡事故を起こし、自動車運転過失致死容疑で書類送検された米軍岩国基地軍属の女性(32)=同市錦見=を山口地検岩国支部が不起訴処分にしたのは「誤った判断で速やかに被疑者を起訴すべきだ」と交通事故死した男性の遺族ら17人が29日、岩国検察審査会に審査申したてをした。

 申立代理人の弁護士によると、不起訴処分になった米軍関係者の起こした事件で検察審査会に審査申立をしたのは「初めてではないか」という。

 9月7日午前7時すぎ、出勤途中の軍属女性の運転する乗用車が近くの当時66歳の男性をはねて死亡させ、岩国署に現行犯逮捕(即日釈放)され、書類送検された。地検岩国支部は今月7日、不起訴処分にし、理由は「公にできない」とした。遺族と代理人が12日、同地検支部に理由を明らかにするよう求めたところ、米軍が女性は通勤途中だったことを理由に公務中とし、日米地位協定(第17条5項)に基づき、第1次裁判権が米国側にあるため十分に捜査することなく不起訴処分にしたことが判明した。

 代理人によると「遺族らは日米地位協定を盾に捜査してもらえなかった。不平等だ。事実を明らかにしたい」と、審査申立を決意したという。

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 記事冒頭でも述べましたが、どのような公務を持ち通勤していたのでしょうか。「公務である。公務の内容は軍事上の秘密であるので公開できない」と言えば犯罪すら隠蔽することが可能です。第一捜査権が米軍に移り、米軍が長時間かけて捜査(操作)をし、そのうちに被告が日本のイミグレを通らず日本からいなくなれば事件は解決するのでしょうか。また、「地位協定の問題は国の専権事項である」と言われそうな気がしています。何でしょう、この脱力感は。

 更に付け加えるならば、報道機関とは幇間と化した政治家の露払い

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1085:101109〕