学術会議法が葬られ、政府管理の“学術会議法”が成立
日本学術会議を特殊法人化する法律(日本学術会議法)が6月11日、自民、公明両党と日本維新の会などの賛成で参院本会議で成立した。これで、これまで政府から独立した立場にいた、学者・研究者の集まりである日本学術会議は、政府のコントロール下に置かれることになった。自民党政権は、これまで、日本国憲法が保障する基本的な原則を次々と破壊してきたが、今回はついに「学問の自由」までも打ち壊すに至った。
自民党政権が、「国の特別機関」であった日本学術会議を「特殊法人」に移行させる最大の狙いは、ひとえに日本学術会議を政府の管理下に置きたい、ということにあったと私は思う。
それには、学術会議が、1950年、1967年、2017年の3回にわたって「戦争を目的とする科学研究には絶対に従わない」旨の声明を発してきたことが大きく影響していると私は考える。学術会議としては、1949年の創立にあたって、それまでの日本の科学者が戦争に協力したことを強く反省し、学問を平和の礎とすることを誓ったから、戦争にはもう二度と加担しない、との態度をずっと取り続けてきたわけである。
これに対し、自民党政権は着々と軍備拡大を続けてきた。決定的な転機は、安倍政権による「集団的自衛権の行使」容認だった。それまでの自民党政権は「専守防衛」を国是としてきたが、安倍政権は2015年に「安保法制」を国会で成立させ、それによって、条件付きではあるが、日本が他国の軍隊と共同して戦うことができる「集団的自衛権の行使」を可能にしたのだった。
こうした軍備拡大をさらに増強・拡大したのが岸田政権である。岸田政権は2022年に「安保3文書」を閣議決定したが、その内容は①敵基地先制攻撃能力を保持する②2023年から5年間で防衛費を43兆円にする③防衛費の対GDP(国内総生産)を2%とする、といったものだった。そればかりでない。この「安保3文書」によって、従来の「武器輸出3原則」は停止され、武器輸出や武器の外国との共同開発が可能になった。最近は、自衛隊と近隣諸国の軍隊との共同訓練が盛んだ。
こうしたことを可能にした「安保3文書」が、国会決議を経ずに閣議決定だけでまかり通るとは、驚くべきことだ。が、反対運動は起こらなかった。
それはともかくとして、ここまで軍拡を進めてきた自民党政権にとって、「戦争を目的とする科学研究には従わない」との声明を掲げる日本学術会議は「許せない存在」と映ったのではないか。自民党政権としては、これから武器の開発に注力してゆかなくてはならない。それには科学者の協力を得なくてはならない。なのに、日本学術会議は――というわけだ。そこから、学術会議を政府管理下に置かねば、との発想が出てきたのだろう、と私は思う。
新しい日本学術会議法を見ると、第2条で「その運営における自主性及び自立性に常に配慮しなければならない」としながらも、「監事は、会員以外の者から、内閣総理大臣が任命する」(第23条)、「会議は、毎事業年度の終了後、……当該各号に定める事項について、……自ら点検及び評価を行わなければならない」(第44条)、「日本学術会議評価委員は、会員その他内閣府令で定める者以外の者であって、……内閣総理大臣が任命する」(第51条)といった文面が続く。
こうした規定を見れば、新しい日本学術会議は決して政府から独立した組織でなく、むしろ、政府の管理下にある組織と分かる。政府から好ましくないとみられている学者・研究者はまず会員に選ばれないだろう。坂井学・内閣府特命担当相は6月10日の参院内閣委員会の審議で、「日本学術会議の法案は学術会議の独立性を高めるもので、外部らの介入を強めるものではない」と述べたが、法案を丹念に読めば、よくもそんなことを言えたものだ、と思えてくる。
日本国憲法第23条には「学問の自由は、これを保障する」とある。同憲法の3大原則は「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」とされる。「学問の自由」は基本的人権の1つであるから、憲法第23条は日本国憲法を支えている重要な柱の1つと言っていいだろう。その柱が倒された。そう思えてならない。
すでに述べた自民党政権による「集団的自衛権」の容認と、やはり自民党政権による「安保3文書」がもたらした敵基地先制攻撃能力の保持は、共に憲法第9条(戦争の放棄、軍備及び交戦権の否認)違反だろう。しかるに、自民党政権は「解釈改憲」によって、これらの軍拡を押し進めてきた。日本国憲法を支える柱は、すでに打倒されたに等しい。日本学術会議の特殊法人化はこれに次ぐ日本国憲法への大打撃と言えるのではないか。
初出:「リベラル21」2025.6.13より許可を得て転載
http://lib21.blog96.fc2.com/blog-category-2.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye5971:250613〕