イアン・トーマス・アッシュ氏作 ドキュメンタリー映画「A2-B-C」が急遽上映中止に

日本に在住するアメリカ人のフィルムメーカー、イアン・トーマス・アッシュ氏が製作したドキュメンタリー・フィルム「A2-B-C」については「ちきゅう座」でご紹介させて戴きました。

https://chikyuza.net/archives/42430 (終わりのない原発事故の惨事)

「A2-B-C」予告編へのリンク:

https://www.youtube.com/watch?v=ZD9yGONdEUY

 

 

その後、ふとした切っ掛けで、私は「A2-B-C」のドイツ語字幕作成のお手伝いをさせて戴くことになり、イアンさんとはメールを通してコミュニケーションするようになりました。 彼とメール交換しながら私が感じたことは、彼が誠実な青年である、ということでした。 彼は、多忙なスケジュールにもかかわらず、こちらから送ったメールには必ず返事を下さいました。

 

字幕翻訳は一月の末になって出来上がり、それを送付した際、私はイアンさんに訊いてみました:

「ドイツ語の字幕は出来上がったことですし、ドイツのテレビ局にアプローチして『A2-B-C』を放映するようにしたら、もっと多くのドイツ人にフクシマの現実を知ってもらえるのでは?」と。

 

それに対するイアンさんの返答はこうでした:

「A2-B-C」の中で自分たちの苦境を訴えられているお母さん達は、映画に出たということでバックラッシュを受けることを非常に心配していますので、テレビ局で放映したりDVDを作ったりすることには問題があります。 「A2-B-C」が海外のテレビ局で放映されれば、それがYoutubeにアップされネットで映画を観ることができるようになる、そのことをお母さんたちは最も恐れているのです。 実際に、「A2-B-C」に出演したために、手ひどい扱いを受けたり嫌がらせにあったお母さんたちが何人かいるのです。

 

イアンさんにとって、ドキュメンタリーをできるだけ多くの人々に観てもらい、フクシマの惨状を知ってほしいと願う気持ちは山々なのだけれども、まず何よりも映画に出演したお母さんたちや子供たちを守ること、これがイアンさんのプライオリティーなのである、と私は理解しました。

 

その間、日本の方から頂いた情報で「A2-B-C」が日本の各地で上映されていることを知り、嬉しく思っていました。 しかし、一週間ほど前のことですが、イアンさんのブログを久しぶりに訪れ、最新アップされた記事を読んでみて驚きました。 「A2-B-C」の上映を引き受けていた配給会社が一方的に上映中止を決定してきたというのです:http://ianthomasash.blogspot.de/

記事は、「Censorship? Self-Censorship? 検閲? 自己検閲?」と題されてありました。

 

自己検閲(self-censorship)という言葉は、イアンさんが私にあてたメールの中でも使われていた表現でした:

「恐れの雰囲気がフクシマを覆っていて、そのためフクシマの住民は自分たちが正しいと思っていても、そのことを公然と躊躇なく話すことができなくなっています。 人々のこのような態度が、いつの間にか自己自身を検閲するというような結果を導くことになり、自己検閲(self-censorship)が広まっていきます。 これは現在の状況において非常に危険なことです」と。

 

 

 

すなわち、記事「Censorship? Self-Censorship? 検閲? 自己検閲?」は、イアンさんが非常に恐れていたことが実際に起こってしまったのだということを示唆していたのでした。

 

 

*  *  *  *  *

 

 

その記事を和訳したものが、レイバーネットに掲載されていますので、それを転載してご紹介させて戴きます:

 

出典:レイバーネットhttp://www.labornetjp.org/news/2015/0322ian

 

子どもたちの甲状腺問題はタブーなのか?~映画『A2-B-C』急遽上映中止に

*ブログで「検閲」を訴えるイアン監督

 

 

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<イアン・トーマス・アッシュ監督の314日付けブログ記事>
http://ianthomasash.blogspot.ca/2015/03/censorship-self-censorship.html

検閲?自己検閲?

配給会社都合により、急遽『A2-B-C』上映中止せざるを得なくなってしまいました。

福島に住む子どもたちについての私のドキュメンタリー『A2-B-C』の日本の配給会社 http://www.a2-b-c.com/ が、この作品のすべての上映を中止しました。さらに、契約期間が2年以上残っているにもかかわらず、日本での配給契約はキャンセルされてしまいました。

この決定が、どこまで実際の検閲の結果なのか、どこまで自己検閲によるものなのか、私にはよくわかりません。将来的に検閲の問題が起こる恐れがあ るということによる自己検閲なのではないか、という気がします。もしそうなら、秘密保護法の恐ろしい、広範囲に及ぶ影響の一例ということになります。この 法律の影響を感じさせるのには、施行することは必要ではありません。この法律があるというだけで、人々は自己検閲をして、法案を作った連中が思い描いてい たとおりの弾圧を自らに対してするのです。

言論の自由は?

福島で起こっていることについて、うそのない、オープンな議論をすることは、もう不可能です。そして、『A2-B-C』の国内での上映が全部キャンセルされてしまったことは、日本の言論の自由を蝕んでいる病の症状でしかありません。

配給会社は、この週末に予定されていた全国5箇所(佐賀、伊豆、大阪、長野、三重)での上映会は実施することを認めました。しかし、3月16日以 降に予定されていた上映は全部キャンセルされました。昨日、私が飛行機で移動している間に、配給会社は、キャンセルにした全部の上映会の主催者に連絡を とってしまいました。

316日以降『A2-B-C』上映全て中止になりました。

私は、今日の長野での2回の上映に参加することにしていましたが、配給会社からは、その場で初めて、上映中止についての公のお知らせをするように 言われました。上映会の参加者の中にいた2,3人のジャーナリストをよんで、Q&Aの時間を、急遽記者会見にします。この文章をブログにアップし ている今、手が震えています。私のこの映画が日本で上映される最後の機会となる今日の、ここ長野での上映では、上映後のトークが2回ありますが、その一回 目のトークのために、これから舞台に出て行こうとしているところです。

自分がトークで何を言うかわかりません。でも、私を黙らせようとする企みがあっても、それは、私にますます大きな声を上げさせる結果になるだけのことだ、ということは、確信を持って言うことができます。

*翻訳=レイバーネット国際部・和田智子

 

 

転載おわり

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2941:150327〕