イランを代表するごちそうといえば、チェロケバブである。サフランで黄色く色づけしたチェロ(お米=長粒米)を羊、鶏肉の焼肉(ケバブ)とともに食べる。とても美味である。日本人なら、これに冷たいビールがあれば最高と思うところだが、ユダヤ教徒、アルメニア教徒を除いて、アルコールが禁止されているイランでは、コーラとともに胃に流し込む。最初はなれなかったが、1週間もするとコーラなしには食事ができなくなり、アルコールの存在が頭から消えた。人間には適応力がある。
イランなどイスラム圏での食肉の嗜好は、①羊 ②鶏肉 ③牛肉という順番である。牛肉はそれほど好まれない。羊、鶏肉のケバブは肉の切り身を焼いたものと、ミンチにしたものと二種類ある。
中産階級のイラン人の食事は、朝と昼はナン(小麦粉からつくったパン)、紅茶、ヨーグルト、ジャム、たまご料理など。夕食は毎日食べられるわけではないが、チェロケバブがごちそうである。インドと異なり、香辛料の利いた料理はない。
イランは北部カスピ海沿岸のギーラン地方で稲作を行っている。乾燥地帯が多いイランで、ギーラン地方は例外的に湿潤な気候である。
小川や茅葺屋根の家もあり、その風景はどこか日本の昔の農村を想起させる。ギーラン地方はお米と茶の主要な産地になっている。だが、イランは国内で消費する米の半分を輸入に頼っている。輸入先はタイ、インド、バングラディシュなどである。
ところが、イランの米輸入がピンチに立たされている。米国の金融取引制裁の効果が出てきて、ドルを調達することがしだいに困難な情勢となり、代金の決済に支障が出ている。
2月8日の中東・エネルギー・フォーラムによると、「インドの米取扱い業者は、2012年2月7日、イランが昨年10月と11月に購入した20万トンのコメ代金の支払不履行を起こしたことから、インドからイランへの信用取引でのお米が供給停止に向かう見込みであることを明らかにした」という。
中東・エネルギー・フォーラムは、「イランがお米の輸入代金の支払いを不履行にしたことは、米欧による制裁が確実に影響を及ぼしつつある証左といえそうだ」と分析する。
すでに食料の価格高騰が庶民の生活に影響を及ぼしている。
イラン市民襲う経済制裁、生活困窮で「核問題よりパン」 ロイター報道
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE81K2CF20120206
金融制裁の影響は食料だけではない。イランは世界4位の産油国ながら、国内の石油製品精製能力が限られており、ガソリンの多くを輸入に頼る。ガソリン不足が懸念されることから、イラン政府はガソリンへの補助金の削減や消費に上限を設けることを実施している。
緊張が続く米国とイラン。軍事攻撃があるかないか、に目を奪われがちだが、米国による経済制裁が今後さらに浸透して、庶民生活を苦しめることも忘れてはならないだろう。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0770:120208〕