ウクライナ危機のインパクト:今、ドイツでは何が起こっているか?

はじめに

私は、ロシアのウクライナ侵略攻撃を強く非難し、一刻もはやく、ロシア・ウクライナ・ヨーロッパ諸国および米国が、武器応酬ではなく、真の”平和交渉”に踏み切ることを求める。

 

今日この頃

“  「いつも大衆と一緒に大声で叫べ」って、私は言うの。それが安全でいられる唯一の方法なのよ。(仮訳)

Always yell with the crowd, that‘s what I say.  It‘s the only way to be safe.

〈George Orwell ”1984” – ジョージ・オーウェル著 「一九八四年」から〉“

 

 「もうテレビを見るのやめたんだ。朝から晩まで戦争、戦争の話ばっかりで嫌になるよ」と、近所の青年が、こっそりと私に言った。

隣人(リタイヤーした緑の党所属の政治家)は、垣根越しの会話で、「同じ緑の党の仲間とウクライナ危機についての見解が合わないため、仲間は彼と一切口をきかなくなった」と、話していた。彼は、ロシアがウクライナ侵攻した主要因はNATOの拡大にあると考えている、いわゆる ”Putin-Versteher(プーチン理解者)” の一人である。

今や、世界の輿論が一致して ”プーチンは大悪人だ!”と一斉に叫び、プーチンに憤っているのだから、少しでもプーチンに対して理解を示すような人が批難の的となるのは当然のことだろう。

隣人は、こう嘆いていた:「むかし1968年学生運動で、僕と一緒に戦争反対・平和運動に参加した仲間は、ドイツがウクライナに武器供与し、EUがウクライナのために軍事兵器を購入していることに賛成しているんだよ。平和を推進するはずの緑の党が、今は、戦地に兵器供与することを支持する、好戦的な政党になってしまったんだ」と。

 

 

 戦争は平和? 【 War is peace  − George Orwell

“ 国の民衆が羊で、その国の羊飼いが彼らを誤導する国を憐れめ(仮訳)

Pity the nation whose people are sheep
And whose shepherds mislead them.

Lawrence FerlinghettiPity the Nationから〉“


《その1:ドイツ政府がウクライナへの兵器供与を決定》

2022年2月26日、ドイツ政府は、ウクライナに兵器供与することを決定したと発表した。ウクライナに供与される兵器は、1000挺の対戦車兵器、500挺の携帯式対空ミサイルシステムなど。

ショルツ首相は「プーチンの侵略行為に対する応答は、ウクライナへ兵器供与すること以外にない。我々は、ヨーロッパにおける平和が確保されるまで、事態をそのままにしておくようなことはしない」と述べた。

 

《その2:世論調査・回答者の78%がウクライナへの兵器供与に賛成》

ドイツのテレビ局RTLが委託したForsaの世論調査によると、回答者の78%がウクライナへ兵器供与することに賛成した、という。

《その3:カトリック教会司教が「ウクライナへの兵器供与は正当」との見解を表明》

2022年3月10日の”tagesschau” の報道によれば、カトリック教会の司教が、「ウクライナへの兵器供与は基本的に正当である」との見解を表明した、とのこと。また、プロテスタント教会も同様な見解を示している。

 

《その4:ショルツ首相がドイツ連邦軍のための特別基金の設置を宣言》

2022年2月27日、ショルツ首相は、連邦議会で演説を行い、ロシアの侵略戦争に反応して、ドイツ連邦軍の軍備拡張のために1000億ユーロ (約13兆円)の特別基金を設置する、と発表した。さらに、ショルツ首相は、ドイツは今後、年々、国内総生産の2%以上を防衛費に投資していく、と述べた。連邦議会はショルツ首相の演説にスタンディングオベーションで応えた

一方、兵器製造産業の株価が、うなぎ登りに上昇している。

 

 意見・表現の自由を享有する権利と検閲の境界線はどこに?

 

世界人権宣言 第19条

すべて人は、意見及び表現の自由を享有する権利を有する。この権利は、干渉を受けることなく自己の意見をもつ自由並びにあらゆる手段により、また、国境を越えると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む。

〈世界人権宣言(Universal Declaration of Human Right):1948年12月10日の第3回国際連合総会で採択された、すべての人民とすべての国が達成すべき基本的人権についての宣言〉     CC BY 2.0  世界人権宣言を手にするエレノア・ルーズベルト女史

 

 

 《その1:フランクフルト・ブックフェアがロシアのブースを出さないことを決定》

世界最大の書籍見本市であるドイツのフランクフルト・ブックフェアには、世界中からの出版社・マルチメディア業者が集まり書籍やソフトウェアーが展示され、国別ブースも出される。

2022年3月1日、フランクフルト・ブックフェアの責任者・ユルゲン・ブース氏が、今年10月に開催されるブックフェアにはロシアのブースを出さないことを決定したと発表した。

その背後には、ウクライナ書籍協会、リヴィウ国際ブックフォーラム、ウクライナ・ペンクラブ、キエフのブックアーセナルが、ロシアの著作物の全面的ボイコットを要求したことがある。ウクライナ側の”ロシア著作物のボイコット・アピール”を簡単に抄訳してみた:

“ 親愛なる文学界および出版協会の皆さま

我々は、ロシア側のナレーションを一般の文化的所産や、とくに書籍を通して広めることを禁止するように求めます。重大なアクションが、すでに、種々の分野の関係者によってとられました。その中には、欧州放送連合、ヨーロビジョン、Youtube、フェイスブックがあります。

ロシアのプロパガンダは、何百万人もの人々を誤導し、威圧し、分離させ、敵対心を扇動し、冷酷な独裁制の政権を推進しました。

しかし今、嘘が明らかになりました。

ロシアのプロパガンダは数多くの本に織り込まれ、それらを武器や戦争の口実へと変じました。…….

我々は要求します:

1)  貴国の書籍販売者を通して、ロシア人の著者・出版者の書籍がオンライン・オフラインで流通されることをストップすること

2)  ロシアの出版者から購買することをストップし、ロシアの出版者に販売権利を与えないこと

3) ロシア・ロシアの出版者・ロシアの文化センター・ロシアの著述家が、全ての国際書籍見本市および全ての文学フェスティヴァルに参加するのを停止すること

4)  現代のロシア人著述家の作品を外国語に翻訳する許可を解消すること

…………………

民主主義のための我々の闘いを支持してください! “

さて、上記のウクライナの書籍関係者の要求を読んで、彼らの要求は尤もだと思われる方は何人いらっしゃるだろうか?

《その2:ミュンヘン・フィルハーモニーがロシア人指揮者ゲルギエフ氏を解雇

2022年3月1日、ドイツ南部のミュンヘン市のディーター・ライター市長は、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の主席指揮者で、ロシア出身の著名指揮者ワレリー・ゲルギエフ氏を解雇した、と発表した。

プーチン大統領と親しいゲルギエフ氏はミュンヘン市に、ロシアのウクライナ軍事侵攻とプーチン大統領を非難するように、と要請されていたが、それを拒否したために解雇された。

ゲルギエフ氏は沈黙することを選んだのである。

反ロシア

写真:反ウクライナ戦争デモで”ロシア人は人殺し”のサインを掲げる女性

〔ソース:nachdenkseiten〕

T-onlineの報道によると、ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州の、あるレストランが彼らのホームページに次のようなステートメントをアップした、という:

“我々のレストランでは、ロシア人の客を望まない。

我々は、一般のロシア人には、ロシア政府の犯罪行為に対する責任はない、ということを知っている。

しかし、我々のスタンスを示す時が来ている。この事(訳注:ロシア人のレストラン立入禁止)は、我々のこどもたちが平和なヨーロッパで生活できることに寄与するものである。 “

その他、ロシア系の子どもたちが学校で、いじめにあっていることや、ミュンヘン大学病院で、教授(女性)がロシア人の患者の治療を拒んだ、とのニュースもある。

 

最後に

ドイツ東西統一の貢献者・大恩人であるノーベル平和賞受賞者・ゴルバチョフ氏が、ウクライナ侵攻を受け、2022年2月26日、声明を出した。朝日新聞が、そのゴルバチョフ財団による声明を掲載しているので、それをご紹介させていただく:

“「相互の尊重」「双方の利益」

2月24日に始まったウクライナでのロシアの軍事作戦に関連し、一刻も早い戦闘行為の停止と早急な平和交渉の開始が必要だと我々は表明する。

世界には人間の命より大切なものはなく、あるはずもない。

相互の尊重と、双方の利益の考慮に基づいた交渉と対話のみが、最も深刻な対立や問題を解決できる唯一の方法だ。

我々は、交渉プロセスの再開に向けたあらゆる努力を支持する。

声明は、相互尊重と、双方の利益の考慮に基づいた交渉・対話のみが唯一の解決法である、と強調している。

米国、EU、ヨーロッパ諸国によるウクライナへの武器援助は解決法ではなく、火に油を注ぐような、戦火を悪化させるだけの、非人道的で危険な政策である。武器援助で利益を得るのは軍事産業だけなのだ。こうした、好戦的な態度を煽る戦争ヒステリアが渦巻く中で、私たちは冷静に、「交渉し対話をせよ」と訴える、ゴルバチョフ氏の言葉を真摯に受けとめるべきではないだろうか。

以上

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye4894:220316〕