ウクライナ左翼のオリガルヒ(財閥)独裁批判

 露烏戦争下のウクライナ野党の状況に関して、ウクライナ左翼諸勢力同盟議長マクシム・ゴリャダルがベオグラードの日刊紙『ポリティカ』(2022年12月22日、p.18)に論説「オリガルヒ独裁がウクライナに樹立されつつある」を発表している。ウクライナ左翼諸勢力同盟なる政治組織は、2021年12月に、「新社会主義を求めて」を党名として定めたと言う。
 レフトが緑(グリーン)化し、ライトが赤(レッド)化していると言われるヨーロッパにおいて、レフトが再び赤(レッド)化する試みの一つかも知れない。
 私は、この同盟について、議長のゴリャダルについて全く無知である。『ポリティカ』紙を信用して、以下に彼の論説の要約を紹介するのみ。

 ――ウクライナ政府は、自由と民主主義の守護者であると外国世論に向けて爆弾的声明を発するその背後で、国内では全速力で独裁レジームを導入している。戦斗が始まる前の2年間に、大統領は、彼の統制下にある国家テレビ委員会と安保国防委員会の決定によって全国テレビ7局を閉鎖した。「罪状」は、政権に反対する政治家達に言論のチャンスを与えたことだ。法律に規定された裁判所の決定も無しにそうした。同じ頃、有力な独立インターネット配信への妨害も亦始まっていた。
 今年2月の戦斗開始以後秋になって、ウクライナのすべての反対党―左翼諸勢力同盟を含む―が活動禁止になった。ウクライナ司法体系が大統領府(室)に完全屈服している結果である。大統領命令で何人かの憲法裁判所裁判官(長官を含む)と最高裁判事が解任された。数日前にキエフ管区行政裁判所が整理された。そこの判事達が大統領府(室)の召使いになる事を欲しなかったからだ。捜査機関、警察、検察、特務のトップにはもっぱら大統領指定者が就く。反対派の議員達は、議員資格を奪われる。
 世俗国家がウクライナ正教会修道院の大規模捜査を実施。議会にウクライナ正教会禁止法が提出されるだろう。
 以前からオリガルヒ(財閥、オリガルフの複数形)集団が国富の大部分を掌握。大マスコミ、執行権力、治安機関、議員の大部分。国会派閥の全てや高級官僚全員の夫々にあれこれのオリガルヒ(財閥)が憑いている。戦争の嵐の中で、軍事補給、人道援助、国際支援、公共料金、課税等をオリガルヒのチャンスにしている。オリガルヒ独裁への残存障害が戦争によって取り除かれる。
 現存のウクライナ・レジームは、権力完全横領の道を進む。――

 この論説は、戦時体制下の民主主義制限の批判にとどまらず、その制限が超巨大私有財産家グループによる全面的社会支配の強化拡大に連動する事を警鐘する。たしかに、左翼的視角であり、露烏戦争論には珍しい。
 私=岩田のような露烏問題素人の印象では、プーチン体制の、粗野な、原始的な、洗練されざるウクライナ版がゼレンスキー・レジームであるように読める。
 しかしながら、これとは異なった側面もある。ここで私=岩田が「ちきゅう座」「評論・紹介・意見」欄(令和4年・2022年12月20日)に発表した論考「オデーサ(オデッサ)市長 交渉を語る――戦争終結に向けて」https://chikyuza.net/archives/124212
で指摘した事実、ウクライナ最高司令部、すなわちゼレンスキー大統領が長く自分の後盾であった最大オリガルフのイゴール・コロモイスキー等の所有する戦略的5大企業を国有化、大統領とオリガルヒ間に亀裂が見え始めた事実に関しては、左翼諸勢力同盟議長は全く触れていない。
 私=岩田の勝手な推量にすぎないが、かつてプーチン大統領が、粗野な、原始的な、洗練されざるエリツィン大統領時代風ロシア・オリガルヒ専横にたたかひを仕掛け、オリガルヒ集団を分裂させ、プーチン政治に忠誠を誓う部分のみを許容・包容した範例にならって、ウクライナのゼレンスキ―大統領も亦政治的に行動し始めたのかも知れない。
 ウクライナの左翼諸勢力同盟がロシアにおけるオリガルヒと国政の関係を如何に観ているかは、残念ながら、ゴリャダル議長の論説から知り得ない。

                  令和5年正月10日(火)

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion12720:230113〕