ウクライナ紛争:元NATO軍事委員会議長・ハラルド・クヤート退役将軍に訊く 『今こそが 断たれた交渉を再開する適切な時機となるだろう』

はじめに

主流メディアでは決して取り上げられることのない、ドイツ軍人・ハラルド・クヤート氏のインタビュー記事がスイスのメディア”Zeitgeschehen im Fokus”に掲載されているので、そこから抜粋したものを和訳してご紹介させていただく。 職業軍人としてウクライナ紛争について見識のあるハラルド・クヤート氏は、「私は常に、この戦争は防がなければならないし、防ぐことができただろうという考えをもっていました」と、述べている。

さらにクヤート氏は、2022年3月に行われたイスタンブール和平交渉で、ロシアとウクライナは合意に達し調印する準備があったのだが、ウクライナが西側諸国に調印するのを阻止されたために、和平交渉が成り立たなかったことについて言及している。ウクライナ紛争は、西側の和平阻止介入がなかったとしたら、去年の3月に終結していたはずだったのである!

”Zeitgeschehen im Fokus”のインタビューは、去年の9月に発生したノルドストリーム・パイプラインの爆破事件についても触れている。 このインタビューが行われた時点(2023年1月18日)では、まだ調査報道家・シーモア・ハーシュ氏の大スクープ記事米国はいかにしてノルドストリーム・パイプラインを破壊したのか?は公表されていなかったのだが、興味深いことに、クヤート氏は、このパイプライン・サボタージュ事件について、こう述べている:「完全に確信できることは:太陽が照れば、真実が照らし出されるということです。」

すなわち、クヤート氏は「誰がガスパイプラインを爆破したのか、必ず明らかになるときが来る」と確信していたのである。

インタビュー記事(独語)へのリンク:https://zeitgeschehen-im-fokus.ch/de/newspaper-ausgabe/nr-1-vom-18-januar-2023.html

*訳注】訳文を読みやすくする意味で、《 》内に、それぞれのインタビュー内容に沿ったシノプシスを加えさせていただきました。

ハラルド・クヤート(Harald Kujat)氏について

1942年3月1日生まれのハラルド・クヤット( Harald Kujat)将軍(退役)は、ドイツの軍人。ドイツ連邦空軍に所属し、ドイツ連邦軍の総監などを務め、NATO軍事委員会の議長としてNATOの最高軍事責任者を務めた。同時に、統合参謀本部のNATO・ロシア理事会および欧州・大西洋パートナーシップ理事会の議長も務めた。

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ウクライナ紛争:今こそが 断たれた交渉を再開する適切な時機となるだろう

『武器供与は戦争を無意味に長引かせることを意味する』

2023年1月18日

【スイスのメディア  ”Zeitgeschehen im Fokus(注目の時事問題)から】

インタビュアー:Zeitgeschehen im Fokus のトーマス・カイザー(Thomas Kaiser)氏

インタビューされる人: ハラルド・クヤート(Harald Kujat) 将軍(退役)

写真:ハラルド・クヤート氏 [Source:Zeitgeschehen im Fokus]

《メインストリーム・メディアの報道について》

トーマス・カイザー:我々のメインストリーム・メディアのウクライナについての報道をどのように評価しますか?

ハラルド・クヤート:ウクライナ戦争は、軍事的紛争だけではなく、経済戦争であり情報戦でもあります。この情報戦において、自分の知識能力では検証することも評価することもできない情報や論拠を自分のものとして適用するとすれば、戦争の参加者となる可能性があります。また部分的には、道徳的もしくはイデオロギー的な動機も重要になってきます。

とりわけ、ドイツでは、メディアにおいて圧倒的に、安全保障政策や戦略に関する知識や経験を持たない”専門家たち”が話す機会を与えられていて、彼らと同じようなレベルの専門知識をもった他の”専門家たち”の刊行物から引用した見解を述べていることが問題になっています。明らかに、これはドイツ政府への政治的圧力にもなります。ある兵器システムの供給についての議論では、多くのメディアが自ら政治を行おうとする意図があることを明らさまに示しています。

このような展開について違和感を覚えるのは、私が長年、とりわけ、NATO-ロシア-評議会やNATO-ウクライナ-参謀本部委員会の議長などを務め、NATOで仕事をしてきたせいかもしれません。とくに私が怒りを覚えるのは、ドイツの安全保障上の利益や、戦争の拡大とエスカレーションによるわが国への危険性にほとんど注意が払われていないことです。これは、責任感不足、もしくは、旧式な言い方をすれば、もっとも愛国心のない姿勢によって生じたものです。この紛争のキープレイヤーのひとつである米国では、ウクライナ戦争の取り扱いについての見解がかなり分かれていて論争を醸し出していますが、それでも常に国益によって導かれています。

《ドイツ海軍のシェーンバッハ海軍総監について》

トーマス・カイザー: あなたは、2022年初頭にウクライナの国境情勢がどんどん悪化していたとき、当時のドイツ海軍のカイ=アヒム・シェーンバッハ海軍総監【*訳注1】について発言し、ある意味で彼をバックアップしていましたね。シェーンバッハ氏は、ロシアとのエスカレーションを緊急に警告し、西側がプーチンの自尊心を傷つけたことを非難し、対等に交渉しなければならないと述べました。

ハラルド・クヤート:私は、この件については何も言わず、不適当な攻撃から彼を守ろうとしました。しかし、私は常にこの戦争は防がなければならないし、防ぐことができただろうという考えをもっていました。また、私は202112月に、これについて公言しています。そして、2022年の1月初旬には、どのようにして交渉で、すべての側にとって受諾できる結果を得ることができるかについての提言を発表しました。残念ながら、そういう事にはなりませんでしたが。 もしかしたら、いつの日か、「誰がこの戦争を望んだのか、誰がこの戦争を防ぎたくなかったのか、誰がこの戦争を防ぐことができなかったのか」と、問われることになるかもしれません。

《現在のウクライナにおける展開とイスタンブール和平交渉について》

トーマス・カイザー: 現在のウクライナにおける展開をどのように評価しますか?

ハラルド・クヤート: 戦争が長引けば長引くほど、交渉による和平の実現は難しくなります。2022年9月30日にロシアがウクライナの4つの地域 [訳注:東部のドネツク州とルハンシク州、南部のヘルソン州、南東部のザポロージェ州]を併合したことは元にもどすことが困難な展開の一例です。ですから、(2022年)3月にイスタンブールで行われた交渉が、大きな進捗を遂げウクライナにとってかなり前向きな結果が得られたにもかかわらず、打ちきられてしまったことを非常に残念に思います。イスタンブール交渉で、ロシアは、軍を2月23日までの、すなわちウクライナへの攻撃が始まる前の位置に撤退させる準備があると発表していたのです。今は、交渉の前提として、完全な撤退が何度も繰り返し要求されているのです。

トーマス・カイザー: それでウクライナは  [*訳注:イスタンブールの交渉で] 代償として何を提供したのでしょうか?

ハラルド・クヤート:ウクライナは、NATOへの加盟を断念して外国からの軍や軍事施設の駐在を許可しないことを約束しました。その見返りとして、ウクライナは自分たちが選択した国から安全保障を得ることになっていました。占領された領土の将来は15年以内に、明白な軍事力放棄のもと、外交的に解決することになっていたのです。

トーマス・カイザー: 何万人もの命を救い、ウクライナ人の国の破壊を免れたであろう条約が、なぜ実現しなかったのでしょうか?

ハラルド・クヤート:信頼できる情報によりますと、(2022年)49日、当時のボリス・ジョンソン英国首相がキエフに介入して調印を妨げたということです。その理由というのが、西側は戦争終結の準備ができていないというものでした。

トーマス・カイザー:誠意を持つ市民にはまったく見当もつかない言語道断なことが、そこで繰り広げられていられていたのですね。 イスタンブールの交渉は、今にも合意が成立しそうであったことは、よく知られていましたが、ある日突然、この交渉については何も聞かなくなりました。

ハラルド・クヤート: 例えば、(2022年)3月中旬、英紙ファイナンシャル・タイムズが(イスタンブール交渉の)進捗状況を報道していました。ドイツでもこれに関連した記事を掲載した新聞があります。 しかし、なぜ交渉が決裂したのかは伝えられませんでした。 2022921日、プーチンが部分的動員を発表した際に、20223月のイスタンブール交渉でウクライナがロシアの提案にポジティヴに応じたことに、初めて公式に言及しました。 「しかし」とプーチンは言葉を入れて、「平和的解決は西側諸国にとって都合が悪かったので、西側諸国は事実、キエフにすべての合意事項を破壊するように命じた」と述べました。

トーマス・カイザー: 実際、我々の報道陣はそのことについて沈黙しています。

ハラルド・クヤート: それとは対照的なアメリカのメディアがあります。 ”Foreign Affairs” “Responsible Statecraft“ という高名な雑誌が、非常にインフォーマティヴな論評を公表しています。”Foreign Affairs“に掲載された論評は、ホワイトハウス国家安全保障会議の元高官スタッフであるフィオナ・ヒル氏によって著されたものです。 彼女はとても有能であり完全に信頼できます。非常に詳しい情報はすでに2022年5月2日に親政府系メディアの ”Ukrainska Pravda“ にも掲載されました。

トーマス・カイザー: この言語道断なことに関する情報を、もっとお持ちでしょうか?

ハラルド・クヤート: 条約案の主な内容は3月29日のウクライナ政府による提案に基づいたものであることが分かっています。一方、このことについては米国の多くのメディアが報道しました。 しかしながら私は、ドイツのメディアというものが、自ら情報源へのアクセスが可能でも、この問題を進んで取り上げたくなかった、ということを学ばざるを得ませんでした。

《ドイツの安全保障政策の先見力と戦略的判断の欠如について》

トーマス・カイザー:あなたは、ある記事の中で「わが国の安全保障政策の先見力と戦略的判断の欠如は恥ずべきことだ」との見解を述べられていました。これは具体的にどういうことを意味しているのでしょうか?

ハラルド・クヤート:連邦軍のあり方を例として挙げてみましょう。2011年、連邦軍改革、いわゆる連邦軍の再編成/再オリエンテーションが行われました。再オリエンテーションとは、憲法で定められた自国防衛やNATO同盟国防衛の任務から対外的任務へと移行することを意味します。これを正当化する理由として挙げられたのが、ドイツとNATO同盟国に対する非核攻撃のリスクはないということでした。

軍隊の規模、構造、装備、軍備、訓練は、外国での任務に向けられたものでした。とくに連邦政府と議会が自ら、個々のケースについて決定することができるため、自国と同盟国を防衛する能力のある軍隊は(訳注:外国での)安定化作戦にもかかわることができるのです。

一方、国と同盟国の防衛の場合が生じるかどうかを決めるのは侵略者なので、別であるということです。当時の状況評価は、とにかく間違っていました。 

なぜなら、米国による弾道弾迎撃ミサイル制限条約 (ABM条約)の一方的な破棄が、2002年にすでに、ロシアとの関係における戦略的な転換点を生み出していたからです。政治的転機は2008年のブカレストでのNATO首脳会議で、ジョージ・W・ブッシュ米大統領がウクライナとグルジアのNATO加盟誘致を推し進めようとした時でした。彼がそれに失敗すると、そのような場合の慣例として、これらの国の(ウクライナとグルジアの)曖昧な将来の加盟見通しがコミュニケに含まれました。

 

トーマス・カイザー: ロシアと米国間におけるこのような展開が原因となって、現在の危機と結びついていると思われますか?

ハラルド・クヤート: ウクライナ戦争によってロシアとNATOが対立するリスクは誰の目にも明らかであるにもかかわらず、ドイツ連邦軍は、武器と軍備をウクライナに提供するために、そう、事実上、武器・軍備を解体して利用可能な部分を使うようにして、さらに武装解除を続けているのです。何人かの政治家は、ウクライナで我々の自由が守られているのだという無意味な主張を唱えて、これを正当化さえしています。

 

《この戦争の主役は米国とロシアの二者》

トーマス・カイザー:なぜ、あなたにとって、この主張は無意味なのでしょうか?スイス外務省の最高責任者であるイグナツィオ・カシス氏自身も含めて、皆が、そのように主張していますが。

ハラルド・クヤート: ウクライナは自由のため、主権のため、国の領土保全のために戦っています。 しかし、この戦争の主役はロシアと米国の二者なのです。また、ウクライナは米国の地政学的利益のためにも戦っています。 なぜなら、米国の公然の狙いは、ロシアを政治的、経済的、軍事的に弱体化させて、世界的強国として米国の覇権を脅かす立場にある唯一の国・地政学的ライバルである中国に注意を向けることができるようにすることなのです。

さらに、我々の自由のためにウクライナだけを戦場に放っておいて、流血を長引かせ、国の破壊を増大させる武器を供給するだけだとは、もっとも不道徳なことではないでしょうか。いいえ、この戦争は我々の自由とは関係のないものなのです。なぜ、戦争が起こって、もうとっくに終結することができたであろう戦争が、いまだに続いているのか ー 核心的な問題はまったく別なものです。

 

《核心的問題とは?》

トーマス・カイザー: 核心的問題とは何だと思われますか?

ハラルド・クヤート: ロシアは地政学的ライバルである米国が、ロシアの安全を脅かすような地政学的優位性を得ることを防ぎたいのです。米国によって主導されているNATOにウクライナが加盟すること、米軍の駐留、軍事インフラの移動、NATOの合同演習などを通じてです。また、米国製のNATOの弾道ミサイル防衛システムがポーランドとルーマニアに配備されたこともロシアにとっては目の上のたん瘤なのです。なぜならロシアは、アメリカがこれらの発射設備からロシアの大陸間戦略システムも破壊し、そうすることによって核戦略のバランスを危険に晒すことができると確信しているからです。

さらにウクライナが、ドンバス地域のロシア語話者に対して、2015年までに、ドンバス地域の自治権を拡大するという憲法の改正を通して 、EUの標準である少数民族の権利を付与することを約束した、ミンスク第2合意も重要な役割を担っています。 一方、米国とNATOが、ロシアのウクライナ攻撃以前に、これらの問題について真剣に交渉する用意があったのかどうか、今では疑問視されています。

 

トーマス・カイザー: ヴィルフリート・シャルナグル【*訳注2】は、すでに2015年、彼の著書「Am Abgrund (奈落の底で)」の中で、西側の政策は信じられないほど挑発的であり、EUNATOが針路変更しなければ、大惨事に至るかもしれないと極めて明確に述べています。

ハラルド・クヤート: そう、これは予期せねばならないことです。戦争が長引けば長引くほど、拡大またはエスカレートするリスクが高くなります。

 

トーマス・カイザー: この事は、すでにキューバ危機で経験しましたね。

ハラルド・クヤート: キューバ危機は、これに匹敵する状況でした。

 

《マルダー歩兵戦闘車とその他の兵器の供与について》

トーマス・カイザー: マルダー歩兵戦闘車をウクライナへ供与することが決定されましたが、どのように評価されますか?

写真:マルダー歩兵戦闘車〈パブリックドメイン〉

ハラルド・クヤート:兵器システムには、技術的な特性に基づいた長所と短所があり ー 兵士の訓練レベルや、それぞれの機能枠組みの条件に依ってー 特定の使用価値があります。諸兵科連合【*訳注3】では、異なった兵器システムが共通の指揮システムや情報システムで共同作用し、ひとつのシステムの弱点が他のシステムの強みで補われることになります。

操作する人の訓練レベルが低い場合、もしくは、ある兵器システムが、ひとつの機能的連関において他のシステムと一緒に使われない場合、あるいは操作条件が難しい場合には、使用価値が低くなります。

それで、早期に排除されたり、敵の手に渡ってしまうような危険性さえもあるのです。これが、ウクライナ戦争で使用されることになる欧米の近代兵器システムの現状です。(2022年)12月、ロシアは鹵獲[ろかく]した西側の兵器の技術的・操作戦術的なパラメータを評価する大規模なプログラムを開始しました。これによって、自国の作戦指揮と兵器効果の効力が高まることになるということです。

さらに、根本的に手段-目的-関係の疑問が提起されます。いかなる目的のために欧米の兵器は役立っているのか? ゼレンスキーはウクライナの戦闘の戦略目標を何度も変更しました。現在、ウクライナはクリミアを含むロシアに占領された全領土を奪還する目標を追求しています。

ドイツ首相は、我々は、ウクライナが必要とする限り、ウクライナを支援すると言っています。すなわち、このウクライナが追求する目標においても、ウクライナを支援するということです。一方、米国は単に「これは、2022年2月24日以来ロシアによって占領された領土を奪還することについてです」と強調しています。

したがって、欧米の武器供与の策がウクライナの意図する目標を果たすのに適合しているかどうか、問われる必要があります。この問いには質的な面と量的な面があります。 米国は、自衛のための武器以外の武器、諸兵科連合を可能にするような武器、そして何よりも核エスカレーションを誘発するような武器を供給していません。これらはバイデン大統領の3つのノーです。

《どのようにしてウクライナは軍事的目標を達成するのか?》

トーマス・カイザー: どのようにしてウクライナは彼らの軍事的目標を達成するつもりなのでしょうか?

ハラルド・クヤート: ウクライナの参謀総長・サルシーニ将軍は最近、「ロシア軍を(2022年)2月24日の攻撃以前の位置に撃退させるには、300両の戦車、600から700両の歩兵戦闘車、500門の榴弾砲が必要だ」と述べました。 しかしながら、彼が受け取ったもの(訳注:兵器)では「より大きな作戦」は可能ではありません。ここ数ヶ月間におけるウクライナ側の大きな損失に鑑みますと、まだウクライナ軍がこれらの兵器システムを使用するための任務に適した十分な数の兵士を配置することができるのか疑問です。

いずれにしても、サルーシニ将軍の発言は、なぜ欧米の武器供与がウクライナの軍事的目標を達成させることができずに、ただ戦争を長引かせるのみであるということを明白にしています。のみならず、ロシアはいつでも独自のエスカレーションで西側のエスカレーションを上回ることができます。

ドイツの議論では、こうした 関連性が理解されなかったり、無視されたりしています。

《ミンスク合意を巡るメルケル元首相の告白について》

トーマス・カイザー: さらにもうひとつの出来事について話したいと思っています。メルケル首相があるインタビューの中で……..

ハラルド・クヤート: はい、彼女の言うことははっきりしていますね。 彼女は、ウクライナの時間稼ぎのためにミンスクII協定を交渉しただけであると。 そしてウクライナも、軍事武装のためにこの時期を利用しました。この事はフランスのオランド前大統領によっても確認されています。

トーマス・カイザー: ウクライナの前大統領、ペトロ・ポロシェンコも同じ事を言いました。

写真20141017: Russian President Vladimir Putin, left, in talks with UkrainianPresident Petro Poroshenko, right, and German Chancellor Angela Merkel and French President François Hollande. (Kremlin.ru, CC BY 4.0, Wikimedia Commons)

ハラルド・クヤート: ロシアは当然のことながら、これを欺瞞と呼んでいます。メルケル首相は、ロシアが意図的に騙されたと追認しています。これを(訳注:メルケル首相の追認を)どのように評価するかは、その人の自由ですが、それは(訳注:ウクライナの時間稼ぎのためのミンスク合意は)露骨な背信行為であり、政治的な予測可能性の問題です。しかし、ウクライナ政府がーこの意図的な欺瞞を知りながらー戦争が始まる数日前に、この合意を履行することを拒否したことが、この戦争の引き金の一つとなったことを議論によって葬り去ることはできません。

ドイツ政府は、国連決議の中で、合意された対応措置の全体パッケージを実施することを約束していました。その上、メルケル首相はノルマンディー形式の他の参加者とともに、あらためてミンスク合意の実施をはっきりと約束するとの決議宣言に署名したのです。

トーマス・カイザー: これは国際法違反ではないでしょうか?

ハロルド・クヤート: そうです。これは明らかに国際法違反です。この被害は甚大です。最初から戦争をしたくて、今もしたくてしょうがない人たちが、プーチンとは交渉できないという立場をとっているのです。 彼は(プーチンは)どちらにしても合意を守らないということです。 しかし今になって、国際的な合意を守らないのは我々だということが明らかになりました。

《ロシアからのガス輸入について》

トーマス・カイザー: 私が持っている情報によりますと、ロシアは契約を守っていますし、その上、今の戦争中もガスの供給を続けていました。しかし、ベアボック独外相は「ロシアのガスはもういらない!」と声高々に宣言しました。その結果として、ロシアは供給量を減らしてきました。そういうことですよね?

ハラルド・クヤート:そうです。我々はロシアのガスはもういらないと言ったのです。エネルギー危機、経済不況など、すべての波及効果はドイツ政府の決定による結果であり、ロシア政府の決定によるものではありません。

トーマス・カイザー: しかし、ニュースを聞いたり見たりしますとここスイスでも そうですが、エネルギー危機はプーチンがウクライナに対して戦争すると決定したからだと言っています。

ハラルド・クヤート: 過去に2回、ウクライナが原因となって、ガス供給が困難になったことがありました。 このことについて我々は正直であるべきです。ロシアは供給を続けたでしょうが、ロシアがウクライナを攻撃したので、我々は、もうロシアからのガスを欲しくないということなのです。そこで疑問がわきます: 「誰が実際にノルドストリーム2を爆破したのだろうか?」という疑問です。

トーマス・カイザー: パイプライン爆破についての判断評価をお持ちですか?

ハラルド・クヤート: いいえ。もしあるとすれば、それは単なる推測になってしまうでしょう。 よくあるように、間接的事実はあるのですが、証拠はありません。 いずれにしても公になっているものは何もないのです。しかし完全に確信できることは:太陽が照れば、真実が照らし出されるということです。

ー翻訳終わりー

以上

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* 訳注1】ドイツ海軍のカイ=アヒム・シェーンバッハ(Kay-Achim Schönbach海軍総監:ドイツの海軍軍人。2021年3月から2022年までドイツ海軍海軍総監。

2022年1月21日、シェーンバッハ総監は、ロシアとウクライナの国境で緊張が高まる中、ニューデリーのシンクタンクManohar Parrikar Institute for Defense Studies and Analyses(MP-IDSA)で行った講演で、欧米諸国が主張するロシアがウクライナに侵攻しようとしているとの考えは「ナンセンス」であり、ウクライナがクリミアを取り戻すことは決してできないだろうと述べた。さらに、ウラジーミル・プーチンは「尊敬を望んでいるし、おそらく尊敬にも値する」、ウクライナはNATOに加盟する準備ができておらず、グルジアは要件を満たしているが、同国を同盟に認めるのは「賢明」ではないと付け加えた。

これに対し、ウクライナ外務省はキエフのドイツ大使を呼び出してシェーンバッハの発言に抗議し、ドイツ政府も提督の発言はドイツの立場を反映したものではないと表明した。2022122日、シェーンバッハは「これ以上ドイツ海軍、とりわけドイツ連邦共和国に損害を与えないために」指揮官を辞任した。(Source: Wikipedia)

*訳注2】ヴィルフリート・シャルナグル(Wilfried Scharnagl19381026日~20181016):ドイツのジャーナリスト、書籍作家、CSU(キリスト教社会同盟)の政治家。1964年からCSU全国指導部、CSU党機関紙『バイエルンクーリエ』のスタッフを務め、1977年から2001年まで同紙の編集長を務めた。(Source:Wikipedia)

*訳注3】諸兵科連合 (しょへいかれんごう)独語ーGefecht der verbundenen Waffen 英語ーCombined arms: 軍隊内の異なる兵科(兵種)同士が戦闘を実施するにあたって、相互に欠けている能力を補完するために組まれる単位や形態についての戦闘教義。(Source: Wikipedia

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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