エクソンモービル、日本の石油下流事業から事実上撤退へ

利益率の低さや製油所の設備制約が原因か

 注目されるニュースが飛び込んだ。
 世界最大の国際石油資本、エクソンモービルが日本での事業をさらに縮小する。1月29日の日経電子版の報道によると、石油精製・販売会社である東燃ゼネラルの株式の約30%、極東石油株式の50%を売却。販売は日本の全事業というから、「エクソンモービル、日本の下流事業から事実上撤退」と報道されても違和感はない内容である。

 エクソンモービルはJX日鉱日石エネルギー(ENEOSブランドのSSを展開し、旧日本石油が主導権を持つ)に次ぐ2位グループの石油元売りだが、日本における下流事業の利益率の低さや、燃料油市場が飽和して、成長が期待できないことから、10年以上前から日本での事業資産(アセット)を減らしてきた。今回、決定的な段階に入った。

 エクソンモービル有限会社は、エクソンモービルが100%出資する、日本における事業統括会社である。エクソンモービル有限会社が日本での石油精製と製品販売の中心的な実働部隊である東燃ゼネラルの株式の50・02%を所有して、支配してきた。このほか三井石油と合弁(50%ずつ出資)で極東石油を系列に置いている。
 エクソンモービル系のガソリンスタンド(和製英語、米語ではガス・ステーション、業界用語はSS=サービス・ステーション)のロゴは「Esso」「Mobile」「ゼネラル」。系列のSS数では、JX日鉱日石ネネルギー(SS数1万2149)、出光興産(SS数4148)に次いで3位(SS数4042)。石油製品の中心であるガソリンの販売量では2位グループに属する。

 エクソンモービルは、前身のスタンダードオイル(1870年に設立されたロックフェラー系石油企業)時代から日本に進出。その歴史は118年に及ぶ。戦後はアラムコ(現在はサウジアラムコという名称の国営石油会社に変身)などを通じて日本に原油を供給してきた。

 そうした長い日本との関わりを持つエクソンモービルだが、近年、中国に抜かれるまで、世界2位の石油消費市場であった、日本での石油精製・販売事業の拡大には消極的で、むしろ自社のアセット(資産)を縮小して、これまでの投資を配当や資産売却という形で、回収する政策を続けてきた。

 石油事業は石油・ガスを開発する上流事業と、下流事業に二分される。下流事業は、原油を製品に変える石油精製事業、精製によってできた石油製品を販売する事業から構成される。

 エクソンモービルは上流から下流まで手掛ける一貫企業だが、利益のほとんどは上流事業から出ている。近年の原油高により上流事業の利益が拡大している。ところが、日本では下流事業のみを手掛けているので、高いROE(自己資本利益率)を誇るエクソンモービルの基準からみれば、「低採算事業」という位置づけだった。
 日本の石油市場が世界2位だった時期でも、エクソンモービルの営業利益に占める日本市場の割合は数%前後しかなかった。

 エクソンモービル アニュアルレポート
http://ir.exxonmobil.com/phoenix.zhtml?c=115024&p=irol-reportsAnnual

 しかも、日本の石油製品市場は2001年をピークに、人口構成の変化(少子高齢化)や省エネにより、縮小傾向にある。

 エクソンモービルにすれば、成長が期待できない日本のアセットを引き上げて、成長する中国やベトナムなどに投資するほうが合理的である。

 さらに、エクソンモービル系の東燃ゼネラルに特有の石油精製所の設備構成がある。日本は揮発成分の少ない重質油が多い中東産原油の依存度が高い。
 そのため製油所も中東産重質油に対応した設備構成になっている。すなわち重質油から白油(ガソリン、軽油、灯油)を極限まで絞る重質油分解装置、接触分解装置などの設備が充実している。

 その代表がJX日鉱日石エネルギー(その中でも特に旧日本鉱業=JOMO)や昭和シェル石油(シェル、サウジアラムコが大株主)、富士石油である。

 ところが、エクソンモービル系の東燃ゼネラルは、エクソンモービルの原油調達力が高かったせいか、軽質原油から無理をせず白油を生産する設備体系である。このため近年の世界的な軽質原油需要の高まりから、軽質油と重質油との価格格差が広がり、コスト高になる傾向があった。

 さらに追い打ちをかけたのが、経済産業省による規制強化である。

 経産省が石油業界に新たな規制
 東燃・コスモの製油所廃止必至
http://diamond.jp/articles/-/8500

 経済産業の規制を満たすために重質油分解装置などを装備すれば、その投資規模は数千億円規模になると推定される。

 経済産業省の狙いは、エネルギー確保を大義名分にしたJX日鉱日石エネルギーなどの「支援」に見える。

 エクソンモービルは、こうした追加投資に乗り気ではなかった。もともと上流事業に比べて利益率が低く、成長が期待できない日本での下流事業のアセット拡大は避けたいところ。

 こうした流れを見て、ますます嫌気がさしたか、エクソンモービルは日本におけるさらなるアセット縮小に踏み切った。
 エクソン、東燃ゼネラルに国内販売事業を売却、精製と一括
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819696E0EAE2E1E48DE0EAE2E3E0E2E3E09F9FEAE2E2E2

 日本における石油業界で携わる人々は、エクソンモービルが日本における下流事業縮小を続けていることを見聞していた。

 しかし、エクソンモービルは、「日本から撤退」という報道にはナーバスに反応している。

 エクソンモービル有限会社のリリース 
http://www.exxonmobil.com/Japan-Japanese/PA/Files/EMJ_announcement_0104.pdf

 しかし、売却後もエクソンモービルに残る東燃ゼネラル株式が、今後もずっと保有されるとは考えにくい。方向はやはり、「日本における下流事業からの撤退」と推測される。

 最後に蛇足になるが、筆者はクルマを運転する。いろいろなSSで給油するが、軽質原油に依存する割合の高い元売りのガソリンの質が良いのではないか、という感触がある。反対に重質原油から設備によって極限までガソリンを絞っている元売りのガソリンには、運転していて、「今一歩かな」と思うことがある。もちろんオクタン価など品質は日本のJIS基準の範囲に収まっているが。

 エクソンモービル系とコスモ石油は、無理をせず軽質原油からガソリンを得ているせいか、筆者には「質」が良いと感じられる。だが、この両社とも日本の原油調達の特性と規制によって、国内で「負け組」になりつつあるのが、皮肉なところである。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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