2017年5月7日の夜、仏大統領選挙決勝選で圧勝したエマニュエル・マクロンは、ルーブル美術館前の中庭に集まった支持者たちに、こう呼びかけた:「わたしは、フランスとヨーロッパを護っていきます。ヨーロッパと世界は、わたしたちを注意深く見守り、わたしたちが、あまりにも多くのところで脅かされている”啓蒙精神”を庇護していくであろうとの期待をかけています。」 そして、「わたしは、分断されたフランスを統一していきます」と約束した。
決勝選結果について
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大統領選決選投票の結果 (ソース:Wikipedia)
登録有権者数 47,568,588
エマニュエル・マクロン 20,753,798 (得票数) 66.10% (得票率)
マリネ・ル・ペン 10,644,118 (得票数) 33.90%(得票率)
有効投票数/ 率 31,397,916 / 88.51%
投票者数 / 投票率 35,467,172 / 74.56%
空白/無効投票数/率 4,069,256 / 11.47%
棄権者数/ 率 12,101,416 / 25.44%
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得票率66.1% (得票数 20,753,798)を得たマクロンだが、ここで圧勝であるからと楽観視してはならないファクターがある。それは、彼に投票したすべてのひとが彼の支持者であったとは限らないからである。
例えば、第一回投票で4位にランキングし、得票数およそ7百万 (得票率約20%)を獲得した左翼党のメランションの支持者を対象に行われた、決選投票前の調査について述べてみる。調査は、45万人のメランション支持者を対象に行われ、対象者に対して下記の質問がなされた:
①決選投票を棄権するつもりか?
②空白/無効投票するつもりか?
③それともマクロンに投票するつもりか?
45万人の対象者のうち質問に応答したのは24万3千人以上だったが、その結果は:
① 36.1%(87,818人)- 無効投票するつもり
② 34.8% (84,682 人) – マクロンに投票するつもり
③ 29% (70,628人)- 棄権するつもり
応答者の65%が、マクロンには投票しないつもりであるとの意思を表明したのだった。すなわち、メランション支持者の大半が、決選投票において、棄権するか無効投票するつもりであるとの意思表示をしたのである。
決選投票結果について、その他注目すべき事項は:
- 投票率「74.56%」は、ここ40年間における最低の投票率であるということ
- 有権者の棄権率が、1969年以来最高の25.44% (棄権者総数-約1200万人)であったということ
- 空白/無効投票をしたひとの数が、おそよ420万人(11.47%)にのぼったということ
- マクロンに投票した66.10% ( 約2,070万人)のうち、そのおよそ25% (約520万人)が、ル・ペ ンが大統領になるのを防ぐための手段として、マクロンに投票したという推定されていること
である。
マクロンに対するフランス労働者のレジスタンス
5月8日、マクロンの勝利が決定した次の日、7千人から一万人の人びとがパリに集まり、労働者組合主催の「反マクロン」の抗議デモに参加した。デモ参加者はマクロンが推進しようとしている自由経済政策が社会福祉事業のカットをもたらすものとの恐れている。
マクロンが労働者組合のチャレンジを受けるのは、これが初めてではない。2016年、オランド政府が提出した労働法改正案の撤回を要求する抗議デモがフランス全土で行われたときのエピソードがある:
当時、経済相だったマクロンは、フランス最大の労働者組合CGT (Confédération générale du travai)の組合員たちと対論していたのだが、その時、ひとりの組合員がマクロンに向かって「高価なスーツを着ているじゃないか!」と、彼をからかったのである。そこで、マクロンは素早く言い返した:「スーツを買えるようになるための一番よい方法は働くことだよ」と。この彼のコメントは、マクロンが経済的苦難とはまったく無縁の金持ちのエリートであるということを象徴していた。
もう一つは、大統領選決選投票に進むことが決定したマクロンが、4月26日、地元のアミアンを訪れ、海外移転で閉鎖される米家電・ワールプール工場の従業員と話を交わしたときのエピソードである:
工場は衣類乾燥機を主に生産しているが、来年の6月に、労働賃金がもっと安いポーランドに工場が移転されることが決まっている。その結果、290人の従業員が職を失うことになる。マクロンは工場の駐車場でピケットラインを張り解雇される不安を訴える従業員に話しかけた:「あなたたちが解雇されないようにします、などという空約束はできません。でも、あなたたちがワールプールで生産された衣類乾燥機を買えることができるようになるように必ずします」と。それに対して、一人の男性従業員は応えた:「ここにいる誰が衣類乾燥機を買えるような余裕があると言うのでしょうか?ここには、そんな余裕のある人間はひとりもいないのですよ。」
ブルジョワ出身のマクロンには、低賃金で働き毎日の生活がやっとであり、その仕事さえも失ってしまうような状況に陥ってしまった人びとの苦しみは到底理解できないものなのだろう。しかも、彼らが仕事を失う主因となっているのは、皮肉にも、マクロンが賛同しているグローバリゼーションなのだから。
マクロンの政策方針
*フランスの高い失業率(10%)を改善し、ヨーロッパの財政危機以来不景気状態が続いているフランス経済の成長をよみがえらせる
*フランス経済の中堅となっている300万以上の中小企業に優先権を与えるために労働法の改正を行う。現在の労働法においては雇用者が被雇用者を解雇することが難しく、雇用者が新しく労働者を雇うことを思いとどまらせている。
*労働市場を弾力化
*労働者組合および(労使間の)団体交渉を弱体化する
*ストライキをなくす
*社会福祉のカット
*保険医療/教育制度の民営化
*法人税を33~25 % 減税
*グローバリゼーションに賛成
*CETA、TTIPなどの自由貿易協定を歓迎する
マクロンは6月の国民議会 選挙で単独過半数を確保したい
安定した政権運営を可能にするため、マクロンは6月に行われる国民議会選挙で過半数の議席を得ることを目指している。国民議会の定数議席数は577で、マクロンは「前進!」党から577人の立候補者を出したいとの意図を持っているが、現在のところ立候補することが確定したのは450人のみである。
マクロンと古いワイン
あるひとがTwitterで「マクロンは、国家主義とポピュリズムに結局は力を与えることになった新自由主義を推し進めた’’新しい瓶に入った古いワイン’’として勝利した」と述べていた。’’新しい瓶に入った古いワイン’’の古いワインとは新自由主義と呼ばれるエスタブリッシュメントであり、新自由主義を堅持推進するEUのことを示唆しているとも言えるだろう。新しい瓶とは、フレッシュで、何か新しいアイディアに満ちているような印象を与えるマクロンの外装イメージを指しているのだろうか。
マクロンは、ヨーロッパ連合の堅持を断言する一方、「多くのフランス人が現在のEUのあり方に不満を持ち憤っています。人びとは自分たちの生活水準/状況が悪化していることを感じ、自分たちの子どもたちの将来について不安を抱き憂慮しています。私たちは、彼らの怒りの声に耳を傾けなければなりません。私たち若い世代には、ヨーロッパ人として、EUの改革に取り組んでいく義務があるのです」と、EU改革の必要性を訴えている。しかしながら彼は、具体的にEUの何を改革したいのか、はっきりと述べていない。彼のEU変革の訴えが単なるリップサービスで終わらないようにと願っている。
以上
《参照記事》
ガーディアン: https://www.theguardian.com/world/2017/may/07/emmanuel-macron-wins-french-presidency-marine-le-pen
Deutsche Wirtschafts Nachrichten: https://deutsche-wirtschafts-nachrichten.de/2017/05/09/frankreich-massen-demo-gegen-den-neuen-praesidenten-macron/
ニューヨークタイムズ:https://www.nytimes.com/2017/05/09/business/french-election-economy-macron.html
カウンターパンチ:http://www.counterpunch.org/2017/05/08/france-elects-its-banker/
Deutschlandfunk:http://www.deutschlandfunk.de/wirtschaft-bildung-sicherheit-was-auf-den-neuen.724.de.html?dram:article_id=385694
タイム:http://time.com/4389043/emmanuel-macron-france-president-en-marche/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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