露烏戦争に関してウクライナ国内の、交渉による終戦を説く意見を読んだ。ここに紹介する。ベオグラードの日刊紙『ポリティカ』(2022年12月7日、p.2)記事「オデッサ市長包囲縮まる」である。
オデッサ市長ゲンナディ・トルハノフは、8月末にイタリア紙『コリイェラデラセラ』に戦争終結のために交渉が必要だと語った。要点は以下の如くのようだ。
――プーチンはオデッサに執着している。ハリコフのように爆撃する事を欲していない。丸ごと欲している。私はペシミストではない。最後に勝利すると信じている。しかし、戦争は長く困難だ。プーチンは北からオデッサを包囲して、プリドネイェストロヴリイェと連結する為だ。勿論、私は1991年国境を回復したいと夢見る。けれども、一歩一歩話し合わねばならない、着実に妥協を追及し、直接対決を避けねばならない。――
ゲンナディ・トルハノフは、ソ連時代や帝政ロシア時代の記念碑・記念像の撤去に反対している珍なる市長であると言う。オデッサの創設者エカテリーナ2世や名将アレクサンダル・スヴォーロフの碑・像の撤去を求めて、ウクライナ大統領サイトへ2万5千通もの請願が寄せられている。大統領ゼレンスキーは、請願の趣旨が実現されるように、すなわちソ連時代と帝政時代の記念碑・像から公共空間を浄化するように、オデッサ市議会に訴えた。議会の多数決でエカテリーナ像とスヴォーロフ像は、オデッサの芸術博物館に保管されることになった。
ゲンナディ・トルハノフの戦争終結交渉論に関しては、ウクライナ大統領府(室)長顧問ミハイル・ポドリャクは、断固拒否し、軍事闘争あるのみとする。
大統領ゼレンスキーはすでに10月、公安機関にオデッサ市長を「点検」するように命令を出していた。
12月5日(月)、ロシアのロケットがオデッサのエネルギー関連インフラを攻撃し(トルハノフの予測とは反対に:岩田)、大停電が発生した同日、ウクライナの反腐敗闘争国家局の一斉手入れが全市で行われた。オデッサ市長室が捜索され、また市長と密接な二人の実業家が逮捕された。
この記事の記者ビリャナ・ミトリノヴィチ・ラシェヴィチは、市長在任中の腐敗が証拠立てられて、収監される見通しを結論とする。
本論の趣旨、すなわち終戦に向けた話し合い提案とは若干離れるが、同記者は、『ポリティカ』(2022年11月10-11日、p.3)に長文の記事「コロモイスキーをバイデンの所へ連れて行く道筋」を書いている。
それによると、ウクライナ最高司令部は、11月6日、最大オリガルフのイゴール・コロモイスキーを先頭にするオリガルヒ(オリガルフの複数形)が所有する5大企業を国有化した。これは、通常の法的手続きを経ていない国有化であって、大統領府(室)がこの決定を準備した。ゼレンスキー大統領を俳優時代から金銭的にも政治的にも支え続けて来た大立物コロモイスキーの頭越しに行われた。記事のバイデン云々は、バイデンの息子ハンターにかかわる事でアメリカ政治の問題でもあり、ここでは触れない。
私=岩田は、ウクライナ最高司令部が5大戦略会社接収を決定し、国防省内にこれら諸企業の検査委員会が設置されたと言う事実は、ウクライナの主要オリガルヒも亦、オデッサ市長ほど公然ではないにせよ、対露終戦交渉をはかり始めた事への制裁であるかも知れない、と推量する。ナショナリズム、NATO戦略、「民主主義」、そして戦争の論理に忠実なゼレンスキー大統領と私的所有、巨富追及、政治操縦、世界市民的資本の論理に従うウクライナ・オリガルヒとの間に亀裂が生じているのであろうか。
ソ連の党社会主義体制崩壊後、ロシアでもウクライナでも、党社会主義の強行的工業化の成果を振り込め詐欺的知能を駆使した少数集団=オリガルヒが私有化プロセスで盗奪して、超大資産家に成り上がった。超格差社会かつ不安不信の競争社会、すなわち戦争に引きずり込まれやすい社会状況の成立。露宇戦争は、両国のオリガルヒ間の抗争でもあり、その渦中に両国の勤労生活者常民が無理遣り引きずり込まれたようなものだ。トルハノフもオリガルヒ集団の末端に位する者――つまり、腐敗の証拠は容易に見付かる――であろうが、戦争の無益無意味をあえて声に出す勇気があった。両国にかかる人物がどんどん出て欲しい。
令和4年12月18日(土)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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