国会議員の皆様へ
日本からお便り申し上げます。フランス国民議会で、今晩、核に関する厳しい問題を扱
うと聞いたところです。とりわけ福島での事故について話をするとうかがいました。ま
ずは、この問題を取り上げてくださることにお礼を申し上げます。福島のことは日本で
は誰も知っていますが、フランスでは誰も聞きたがらない問題でしょう。そこでお願い
があります。私に少しばかり希望を与えてください。これから手短に日本のことについ
て書きますので、どうぞ会議の前にお読みになってください。
福島の現状は恐ろしいものです。まったく出口が見つかりません。毎日、400トンの
地下水は、事故をおこした福島第一原発の土台に染みこみ、その結果、3つの原子炉を
冷やす冷却水と接触し、汚染されています。3つの原子炉はメルトダウンをおこしたた
めに放射線量があまりにも高く、誰も近寄ることができません。地下水は、タービン建
屋にも入り込んでいます。毎日、作業員はポンプでこの汚染水を外に排出し、一部フィ
ルターでろ過します。といっても、フィルターは放射能を取り除くには不十分です。な
ぜならば、汚染水には、120種の核種が存在しているからです。それらの核種をすべ
て除去する手段はありません。その後、汚染水は、仮設タンクに蓄えられますが、タン
クを新たに設置する場所はもうすぐなくなります。汚染水は海に捨てるにはあまりにも
放射能で汚染されています。そして海洋汚染もこれまでにないほどの汚染の値を示して
います。
今から約2週間前の5月13日、東京電力は、福島の地元の漁業組合の代表の方と会い
ました。東電は、最近講じた対策がうまくいくと組合の人たちを説得したかったのです
。その対策とは、原発の上流にある12の井戸で地下水をくみ上げて回収するという試
みで、1日あたり100トンの地下水をくみ上げることになります。そしてくみ上げた
水を海に流せば、原子炉と接触することで汚染される地下水の量は「たったの300ト
ンになる」というのが東電の言い分です。
最近マスコミを通じて福島原発で働く何人かのエンジニアが、「明日、来週、来月、い
ったい何が起こるか皆目見当がつかない」と言いました。彼らの関心は、すでに保管さ
れている39万トンの汚染水にすべて注がれており、それに毎日400トンずつ新たな
汚染水が加わってきます。つまり、汚染水があふれないようにするためには、いつもた
った1時間の猶予しかないのです。エンジニアの一人は、「もし新たな事故が起こった
ならば、それには対処できません。」と言っていました。確かにこんな事故現場では新
たな事故が起こりうると考えるのが普通です。しかも、地震がいまだに続いているので
すからなおさらです。わたしはそれをきいて「助けて!」と叫びたくなりました。誰か
良識のある人が日本に来て、この大殺戮をやめさせてくれませんか?今既に危険が迫っ
ているのに、原発再稼働をしようとしているこの狂った決断をやめさせてくれませんか
?
このような状況にもかかわらず、6月末には、MOX燃料がフランスから日本の原発に対
して送られてきます。その原発は西日本にある高浜原発で、2012年2月以来停止し
ています。フランスの議員の方々は知らないと思いますが、日本では現在48ある原発
のうちのたった2基しか稼働していません。48基というのは、福島第一原発の6基は
数に入れていません。2012年5月から7月頭まで日本ではたった一基も原子炉が稼
働していなかったのです。3月11日の大地震以降、原発は、メンテナンスやその他の
問題でどんどん停止していきました。そして、2012年7月頭まで誰も再稼働しよう
と言いださなかったのです。しかし、2012年7月、人々が脱原発をもとめているの
もかかわらず、また近隣の火力発電所を止めてまで、大飯原発で2基が強引にも再稼働
されました。原発がなくても電気は足りていたのです。それ以来、すでに1年がたとう
としています。今日なお、日本全土ではたった2基しか稼働されていません。
このような狂った状況を止めて、早急にも解決策を見つけるためにあらゆる手段講じな
ければいけないにもかかわらず、日本政府は、原発から10kmから20kmの避難地
域に福島の人々が帰還するように奨励しています。誰が、制御不能となった原子炉のそ
ばに戻りたいでしょうか?誰が、いつまでもつかわからない汚染水タンクのそばにもど
りたいと思うでしょうか?誰が、使用済み燃料を2000トンも抱え、不安定な状態に
ある燃料プールのそばに帰りたいでしょうか?このような状態なのに、原発で働く人を
見つけるのはますます難しくなっています。東電は、ブラジルにまで求人広告をだした
り、ホームレスを雇ったりしています。
今日、11の警戒区域が、新たな3つの地域に再編成されます。一つの地域は年間50
ミリシーベルトをこえるので依然として立ち入り禁止区域となります。もうひとつは、
そこまで汚染されていないので、これから3年以内に帰還できると住民に約束した地域
です。そこの線量は年間20から50ミリシーベルトです。3番目の地域は、「帰還準
備区域」と呼ばれ、年間20ミリシーベルトです。ご存知かと思いますが、フランスで
の原発作業者の年間許容量は20ミリシーベルトです。そして、一般市民の許容線量は
、年間1ミリシーベルトです。これは、国連の人権委員会も提唱していることです。
日本の新たな原子力規制委員会は、きちんとし監査が行われなかったことや虚偽を理由
に、いくつかの原発の再稼働の許可をしないという決断を下しました。というのも、日
本の多くの原発が活断層の上に建設されているのです。
フランスの国会議員の皆さん、このような大殺戮をやめさせてください。オランド大統
領に原発をやめるよう説得してください。このままでは原発に殺されてしまいます。は
やく、はやく、はやく何かしてください。もし必要ならば、在日フランス人である私の
経験を使ってくださってかまいません。私がこの目で見たことを使ってください。これ
まで誰もききたくなかったことでしょう、でも、私たち皆の運命がかかっているのです
。
2012年末にファビウス外務大臣と東京で話す機会がありましたが、ファビウス大臣
は、私にこう言いました。「これまでは、私もみなと同じように、原発をあっという間
には止められないと思っていました、福島の事故が起こるまではそう思っていました。
でも日本はすべての原発をとめました。」と。確かに日本ではあっという間に原発を止
めたのです。54基もあったのに!フランスでは58基の原発があります。
どうぞ考えてください。日本のため、世界のために。日本のような悲劇が起きれば、北
半球は壊滅的な状態になります。来る世代のことを考えてください。お願いします。
私自身何回か福島の立ち入り禁止区域に行きました。その時のことは、写真を展示した
り、シンポジウムで報告をしたりしています。人間の愚かさ、一部の人々の傲慢さ、人
間のことよりも目の前の利益に動かされる人々について話をしています。
国会議員の皆さん、ここまで読んでくださりどうもありがとうございます。私は6月7
日から13日までフランスに滞在し、3つのシンポジウムで福島について話をします。
どうぞいつでも私の話を聞きにいらしてください。
東京にて
2013年5月30日
ジャニック・マーニュ
大学教員、在日34年
ヨーロッパ緑の党 (第11選挙区候補)