カダフィ大佐はリビア南部に潜伏。トリポリで殉教せず、隣国ニジェールに亡命する途上。最終亡命地はブルキナファソ?反政府側、NATOと取引成立か

著者: 浅川 修史 あさかわ・しゅうし : 在野研究者
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 トリポリでの銃撃戦の末に殉教するか、あるいは反政府側に捕まって処刑されるか、と見られていたカダフィ大佐。その行方について世界中の関心が高い。中東・エネルギーフォーラム(幹事 畑中美樹紙)は南の隣国ニジェールを経由して、最終的には西アフリカの国ブルキナファソに亡命するのではないかと観測している。すでにカダフィ大佐の先遣隊がニジェールに入った。ニジェール政府やブルキナファソ政府も受け入れに前向きだ。

 カダフィ大佐の妻や子息の一部はアルジェリアに亡命したと報道されている。カダフィ大佐の後継者と目されていた有能な息子、セーイフ・イスラム氏もニジェールに向かっている。カダフィ大佐はアフリカでの勢力拡大を目的に資金援助してきた。AU(アフリカ連合)もカダフィ大佐が援助してきた。これまでの投資がニジェール、ブルキナファソで実ったようだ。

 NATO軍が制空権を持つリビアでカダフィ大佐の勢力が、ニジェールを経てブルキナファソに亡命するには、反政府側、NATO軍と何らかの取引が成立したと見るべきだ。その中心にはカダフィ政権打倒に積極的な役割を果たしたフランスがいる。

以下 中東・エネルギー・フォーラムの記事から
 
1 南部国境から隣接アフリカ諸国への脱出を目指すと思われるカダフィ大佐と子息たち(9月6日時点)

<総 論>

 カダフィ大佐はリビア南部に潜伏しニジェールへの国外逃亡の機会をうかがっているようだ。子息たちも既にバニ・ワリードを後にし、カダフィ大佐と合流しているか、或いは合流を目指して南進しているものと思われる。カダフィ大佐や子息たちは、ニジェールを経て、一族の亡命の受け入れを表明しているブルキナファソを目指していると推察される。

 その先遣隊ともいうべきカダフィ大佐の治安責任者マンスール・ダオ氏を含むリビア人約15人が、国境地帯での数日間に亘るニジェール政府との協議の末、ニジェール入りし首都ニアメに向かっている。9月6日のロイター通信は、フランス軍関係者の話として、1)カダフィ大佐とセーイフ・イスラム氏が、ブルキャナファソに向かう途中で、これら軍当局者と合流することを検討している可能性がある、ともしている。

 バニ・ワリードやシルト、セブハ等のカダフィ政権支持派の掌握する都市・町・村は、降伏期限である9月10日(土)ぎりぎりまで条件闘争を繰り返し、カダフィ一族の安全な逃亡を側面支援するものと思われる。

<依然続けられる交渉の努力>

 反政府派のジャラル・アル・ドゥガリ国防相代行は、2011年9月5日、国民評議会のジャリル・エルガラル報道委員会委員長によれば、カダフィ政権支持派とのバニ・ワリードでの交渉は依然続いていると語った。反政府派はバニ・ワリードの東方及び西方約100kmの地点に陣取り封鎖しているが、バニ・ワリードから北部へ向かう道路は脱出者のために開放している。

 バニ・ワリードでの主席交渉者のアブドゥラ・カンシル氏は、2011年9月4日の時点で、バニ・ワリードから約60kmの検問所で、1)自分は現下のところ何も申し出ることがなくなっている、2)我々側からの交渉は終了した、3)国民評議会が9月4日に提示した全ての提案が拒否されてしまった、4)カダフィ政権支持派は交渉したくないと言っている。5)彼らは移動する全ての者を脅している、6)彼らは高いビルの屋上やオリーブ畑の中に狙撃手を配置している、7)我々は最後の最後まで多くの妥協をしたのだが、と語りカダフィ政権支持派との交渉が決裂したことを明らかにしていた。

 反政府軍のアブドゥルラフマン・ブシン報道担当官は、同日、カダフィ政権支持派とのシルトでの交渉も続いていることを明らかにした。因みに、国民評議会のアブドゥル・ジャリール議長は、カダフィ政権支持派との交渉は9月10日(土)の期限ぎりぎりまで続けられることを明らかにしている。

<カダフィ支持派が威嚇中のバニ・ワリード市内>

バニ・ワリードでの主席交渉者のアブドゥラ・カンシル氏は、2011年9月5日、カダフィ政権支持派が掌握中のバニ・ワリード市内の状況について次のように説明した。

①  死を覚悟する60人から100人の狙撃手が、多くの人の支援を得ながらバニ・ワリードの中央部を占拠し市民を虐殺すると脅している。

②  我々はバニ・ワリードの旅団に降伏し自らの命を大切にするよう説得を試みると共に、身の安全と公正な裁判を保障した。

③  だが彼らはこれを拒否し、戦うと言っている。

④  彼らは同市でこれまで蛮行を繰り返してきたので拘束されることを恐れている。

⑤  仮に彼らが死ぬようなことになれば多くの市民も巻沿いで死亡するだろう。

⑥  我々は特に5000人から1万人が暮らす市中心部での虐殺を恐れている。

⑦  ワルファラ部族の指導者たちを含めて多くの人は降伏したがっている。

⑧  同部族の指導者もリビア国民であり革命に参加したがっている。

⑨  バニ・ワリードの住民は、2011年5月28日に反政府で立ち上がった弁護士、技師、その他が大量虐殺にあった事件を覚えており怖がっている。

 さらに、バニ・ワリード郊外に陣取るイスマイル・アル・ギタニ司令官は、今後について次のように語っている。

①  ワルファラ部族が呼び入れるまで我々は市内に入らない。

②  誰も撃たれないことを望んでいる。

③  我々も武器類を使用したくない。

④  但し、カダフィ政権支持派が撃ってくれば、勿論、我々も撃ちかえす。
<まだ国内にいるカダフィ大佐と南に向かったセーイフ氏>

 カダフィ政権のムーサ・イブラヒム報道官は、2011年9月2日の時点でロイター通信に電話をかけ、1)カダフィ大佐は多くの人に守られながら安全な場所にいる、2)カダフィ大佐が正確にどこにいるのかは知らない、3)バニ・ワリードが降伏することはない、4)自分はセーイフ・イスラム氏と共にトリポリ南郊で移動を続けていると述べ、カダフィ大佐が健在であることを強調していた。

 同報道官は9月5日にも、シリアのTV局アッライで、1)カダフィ大佐はリビア国内におり元気にしている、2)同大佐は国民評議会の手の届かない場所にいる、と語り南部地域に潜んでいることを示唆した。さらに同報道官は、子息のセーイフ・イスラム氏についてもバニ・ワリードから南へ逃走していることを仄めかすように、1)リビア国内にいる、2)移動を続けている、と述べている。

 バニ・ワリードでの主席交渉者のアブドゥラ・カンシル氏は、2011年9月5日、次のように語り、ムーサ・イブラヒム報道官の動向は監視下にあることを明らかにした。

①  ムーサ・イブラヒム報道官は、バニ・ワリードの地元のラジオを使ってアル・カイダやNATOによる侵攻があると脅すことで、地元民の投降を防止している。

②  同報道官は内戦中の大半をトリポリのリクソス・ホテルで過ごしたが、今や水や電力も乏しいという極めて悪い状態に置かれている。

③  同報道官は今やネズミである。こうした言葉を使って申し訳ないが、その言い方が状況を言い当てている。

 また同氏は、セーイフ・イスラム氏は9月3日(土)にベニ・ワリードを脱出した模様であることも明らかにした。同氏によれば、セーイフ氏は脱出前にカダフィ政権支持派に対して戦い続け決して降伏するなと告げていたと語る。

 何故セーイフ氏が包囲中のバニ・ワリードから抜け出せたのかと問われた同氏は、彼らは蛇であり何でも出来るのだと答えている。

 2 <ニジェール入りしたカダフィ大佐の治安責任者>

 ニジェール政府高官は、2011年9月4日、カダフィ大佐の治安責任者マンスール・ダオ氏を含むリビア人約15人が、国境地帯での数日間に亘るニジェール政府との協議の末、ニジェール入りしたことを明らかにした。同高官はロイター通信に次のように語っている。因みに、ニジェールは国民評議会をリビアの代表として承認している。

①  カダフィ大佐の治安責任者の一人であるマンスール・ダオ氏を含む約15人のリビア人が約1週間前にニジェールとの国境にやって来た。

②  ニジェール政府当局は彼らに入国の許可を与え、彼らは9月4日、アガデス入りした。

③  彼らは首都ニアメに向かう予定である。

 マンスール・ダオ氏を含むリビア人約15人のアガデス入りに際しては、カダフィ大佐と強い繋がりを持つことで知られるニジェール公正運動のアラリー・アランボ(Agaly Alambo)指導者が同行した。

 尚、9月6日付のロイター通信は、フランス軍とニジェール軍の関係者の話として、1)リビア軍の装甲車両200~250台が9月5日夜、ニジェールのアガデス入りした、2)車両には、リビア南部の軍当局者らが搭乗していた、3)彼らはニジェール入りする前にアルジェリアを通過した模様である、と伝えている。

 さらに、同通信は、フランス軍関係者の話として、1)カダフィ大佐とセーイフ・イスラム氏が、ブルキャナファソに向かう途中で、これら軍当局者と合流することを検討している可能性がある、ともしている。周知のように、ブルキャナファソは、カダフィ一族の亡命を受け入れることを明らかにしている。

高まってきたカダフィ大佐及び一族のブルキナファソへの亡命の可能性(日本時間9月6日22時時点)

<フランスがお膳立てしたブルキナファソ亡命?>

 フランス外務省の報道官は、2011年9月6日、リビアの大規模な車列がニジェールの都市アガデス入りしたとの報道を確認しなかった。しかし、同国の消息筋は、フランス政府が国民評議会とカダフィ大佐との取引を手配したのではないかと見ている。少なくともNATOの偵察機がリビアの上空を飛行している状況下では、何らかの事前の取引なしに大きな車列が国境を越えることは出来ないと思われる。

 リビアの車列がニジェール入りしたとの報道について問われた国民評議会のジャラル・アル・ガラル報道官は、9月6日、自分は依然何も確認できないでいると答えるに留まった(ロイター通信 2011年9月6日)。消息筋は、このリビアの車列は恐らくリビア・ニジェール国境を直接越えたのではなく、一旦アルジェリア領に入ってからニジェール入りしたものと見ている。尚、一連の報道を整理すれば、リビアの車列の動きは次のようになる。

 9月4日 :ニジェール入り(恐らく、アルジェリア領内を経て)

  5日夜:ニジェール北部の都市アルリットを経て西南の都市アガデス入り

  6日朝:ニジェールの首都ニアメを目指してアガデスを出発
 

 フランス軍事筋は、リビア南部軍のアリ・ハナ将軍がリビア国境からそれほど離れていないニジェール領内にいると言われたと語っている(同上)。同筋によれば、カダフィ大佐とセーイフ・イスラム氏がアリ・ハナ将軍と落ち合い、先にニジェール入りした先遣隊を追いかけてブルキナファソに亡命する段取りではないかと見られている。フランスの植民地であったブルキナファソは、カダフィ政権から巨額の支援を受けてきたことでも知られる。ブルキナファソは国民評議会をリビアの代表と既に認めているが、他方で、8月24日にはイイペネ・ジブリル・バソレット外相が、自国は国際刑事機構への署名国だがカダフィ大佐が望めば亡命は可能であると発言していた。また、カダフィ大佐と同じように軍事クーデターで権力を奪取したブルキナファソのコンパオレ大統領は24年に亘り同国を統治している。

<車列を守るのはトゥアレグ族>

 リビアの大規模な車列は、9月6日の朝、トゥアレグ族の戦闘員に付き添われながらアガデスを後にし、首都ニアメへと向かった。アガデスで民間紙アガデス・インフォを発行するオーナーのアブドゥライェ・ハルーナ氏は、次のように語る(AP通信 2011年9月6日)。

①  自分は9月5日に数十台のピックアップ・トラックの集団がアルリットを経てアガデスに到着するのを目撃した。

②  9月6日の火曜日の朝、彼らは約600マイル(965km)離れた首都ニアメへと出立した。

③  車列の先頭には、トゥアレグ族のリッサ・アブ・ブーラ指導者(生粋のニジェール人)がいた(注:同人は約10年前、失敗に終わったトゥアレグ族の独立戦争を率いたことで知られる。その後、同人はリビアへの避難を求め、カダフィ大佐のために戦ってきたと言われる)。

④  トゥアレグ族のリッサ・アブ・ブーラ指導者に付き添われるカダフィ派兵は重装備であった。
 
 カダフィ大佐は人口の大半がトゥアレグ族であるニジェールのアガデスのような都市では人気が高い。理由は、カダフィ大佐が気前よくトゥアレグ族を援助し、また自治を求めた戦争でもトゥアレグ族を支援したことが彼らの記憶に強く残っているからだ。尚、カダフィ大佐は、2009年、ニジェール政府と反政府勢力(「正義(または公正)のためのニジェール運動」の間に立って調停を行い和平合意につなげた実績も持つ。

 ブルキナファソ政府の治安関係の高官は「リビアの車列が自国に向かっているのかどうか聞かされていない」(同上)とコメントしている。また、ベルナルド・ヴァレロ仏外務省報道官も「我々には貴方たちが持っている以上の情報はなく車列の動向を監視しているところだ」と記者団に説明している。

<ニジェール入りの車列は金・現金を保有と語る国民評議会>

 リビアの国民評議会の政治・国際問題委員会のファシス・バジャ委員長は、2011年9月6日、ロイター通信に、「昨晩遅く、金やユーロ、米ドルを持った10台の車両が、ニジェールのトゥアレグ族の支援を得てジュフラからニジェール入りした」(ロイター通信 2011年9月6日)と語り、ようやくリビアの車列がニジェール入りしたことを確認した。

 国民評議会のアブデル・ハーフィズ・ゴーガ官房長官も、同日、リビア中央銀行シルト支店から持ち出した現金を持った車列がニジェール入りしたことを確認している。
 
 尚、ブルキナファソの大統領府筋は、2011年9月6日、カダフィ大佐による差し迫った亡命の計画や、カダフィ大佐の側近が西アフリカの国家に入ったとの話は知らないとしている。但し、詳細は明らかにしていないものの、ニジェール軍事筋はリビアの車列が同国入りしたことは確認している。

(9月6日、記)

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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