明日の2018年5月5日は、カール・マルクスの生誕200周年記念日です。彼が生まれ育ったドイツ西部のトリーア市を中心に地元のラインラント・プファルツ州では州を挙げての記念事業が鳴り物入りで始まります。日本のメディアでもかなり報道されることになると思います。
まずは、中国政府からの贈り物として中国共産党の芸術家の手になるマルクスのかなり大きな立像がトリーアで5日に除幕されます。除幕までは顔の部分だけが公開されています。
本日除幕されるマルクス立像の頭部 dpa |
ところが、5月4日ドイツのペンクラブはトリーア市長に→公開書簡を送り「ノーベル文学賞を受賞しながら釈放されずに昨年獄中で死亡した作家の劉暁波の妻の劉霞氏が、未だに自宅に閉じ込められたままで行動に自由が認められていない状況がある限り、除幕はすべきではない。彼女に自由が与えられるまで除幕を待つべきである。これこそが国家権力の検閲などの言論弾圧に闘い続けたマルクスの意思であろう」という旨の非常に痛いところを突いた批判をしています(解説は別に後ほど)。
ドイツでは、すでに昨年末あたりから、例えば南ドイツ新聞が「カール・マルクス、スパースター」などの見出しで、彼の資本論を始め経済学批判から哲学に関する現代性についての論議が始まり、関連の書籍が数多く出版されています。
ソ連型社会主義の崩壊後も、世界史は資本主義が必然的、不可避的にもたらす負の問題を解決することがまだまだできてはいないので至極当然のことです。議論はまだまだ続くでしょう。
公共テレビも先日からマルクスの家族友人関係を軸にしたドラマや、彼が育った地元の歴史的背景を解説したドキュメントなどを放送して「人間マルクスとその時代背景」を先週から伝えています。
わたしが見たものの中で二つだけ紹介します。かなり質も高く勉強にもなりました。
いずれもドイツ語ですが、最初のものは今月27日までネットで見ることができるそうです:まずはArte の→「カール・マルクス ドイツの預言者」
もう一つはこれも地元公共テレビSWRのドキュメント→「カール・マルクス 故郷の時代」こちらは向こう一年間見れます。
しかし今日はいわばお祭り騒ぎとなりそうです。すでに先日朝日新聞が報道していましたが、地元の観光局が土産物としてマルクスの肖像を印刷した額面0ユーロの紙幣を発行。なんと3ユーロで売り出して飛ぶように売れているようです。シュピーゲル誌は電子版で「マルクスをだしにした資本蓄積だ」などと面白く伝えています。
マルクスのゼロユーロ紙幣 dpa |
本日取材に出かけた記者に一枚買ってきてほしいと頼んでおきましたが、手に入ればこの偽札のオリジナルを紹介しますね。
もっと面白いのが、この地方の名物モーゼルワインの宣伝です。地元紙から写真を借用しますが この女性はトリーア市の今年のワインの女王です。
ローマ時代の遺跡を背景に。トリーアのワインの女王 dpa |
報道によれば、昨年度トリーアを訪れた中国からの観光客は4万人で、今年はもっと多いのと見込まれています。そこで中国学を学んで中国と台湾に留学経験のある中国語が堪能なこの24歳の女性を本年度のワインの女王に選んだとのことです。
彼女は地元紙に「中国ではワインの美味しさがまだ広まっていないので。宣伝します」と張り切って述べたそうです。中国での人気にあやかった商魂に、マルクスもきっとびっくりしているでしょう。
さて、お祭り騒ぎは別にして上述のように、→数々の展示会などが企画されています。
その主な一つ、マルクスの生家はドイツ社会民主党のエーベルト財団が所有している「カール・マルクスの家・博物館」となっていますが、そこでの記念展覧会が開催されます。そして今日、史上初めて展示公開されるものがあります。
マルクスの椅子 dpa |
この椅子は亡命先のロンドンでカール・マルクスが使用していたもので、彼はこの椅子にかけたまま亡くなったと言い伝えられています。パリに住んでいる子孫が長く保存していたものを博物館が近年購入して丁寧に修復したと館長さんは説明していますが、やはりかなり傷んでいます。
そういえば今年は1848年の共産党宣言から170年になります。どうやらこの椅子からマルクスがスーパースターの妖怪となって立ち上がり、世界を再び徘徊しそうですね。
必然でしょう。
(余談ですが、この「必然」という言葉はドイツ語のnotwendigからの翻訳語かもしれません。名詞はNotwendigkeitは必然性。)
初出:梶村太一郎の「明日うらしま」2018.05.04より許可を得て転載
http://tkajimura.blogspot.jp/2018/05/blog-post_57.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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