ガーディアン紙に日本の衆議院選挙がに関する記事があったので、それを抄訳してご紹介させて頂く。「安倍の圧倒的勝利で終わった衆議院選挙の後:これからの日本を待ち受けるものは?」と題された記事は、日本の政情に詳しい専門家たちが、衆議院選挙後の “これから”の日本について、それぞれ興味深い見解を述べている。
原文へのリンク: What now for Japan after Abe’s landslide election victory?
– なお、記事の中でテンプル大学のジェフ・キングストン氏が立憲民主党の枝野氏の躍進ぶりについて触れているが、枝野氏の秋葉原での選挙運動街頭演説模様が映された動画を見つけたので、それもご紹介させて頂く。耳を傾ける価値のあるスピーチだと思う:https://www.youtube.com/watch?v=r57wSHAYCYk
安倍の圧倒的勝利で終わった衆議院選挙の後:これからの日本を待ち受けるものは?
2017年10月23日
ジャスティン・マッカーリー記者/ガーディアン東京特派員
(抄訳:グローガー理恵)
⒈ 安倍の改憲の夢は掌中に
〈筆者: ジェフ・キングストン /東京・テンプル大学アジア研究学科 ディレクター 〉
政治の中心が右寄りにシフトした21世紀の日本において、リベラリズムは生命維持装置に依存している状態にある。しかし、枝野幸男の立憲民主党には火がついた。新党の出現は人々に熱狂的に迎えられた。枝野の選挙はシンデレラ物語なのである。
枝野は、憲法改正に対して、主義主張に基づき妥協をしないレジスタンスを示す代表者であり、ほとんどの国民が反対している「2015年に制定された安全保障関連法」の撤廃を支持している。
彼はまた、「アベノミクスは金持ちのための繁栄にあり、日本社会での格差をますます拡大させている原因となっている」との国民意識に挑み、それを活用していくことだろう。今や、枝野は日本のリベラリズムの松明持ちとなったのである。たとえ、今、その炎が ちらついているように見えても、彼の党は、安倍の欠点/欠陥を暴露するのに良い立場にある。
安倍は、憲法改正の夢は己れの掌中にあると見ている。現在の世論は改憲を支持していない が、もし彼が国会で改憲案を通過させて国民投票に臨むことになれば、国民を説得するために、ものすごいスケールの宣伝キャンペーンに乗り出すことだろう。
平壌や北京からのちょっとした助けを借りたりして〔*注〕、安倍が国民投票で勝つチャンスは、まずまずであると、私は賭けている。
〔*注〕:〖平壌や北京からのちょっとした助けを借りたりして〗:これはシニカルな言い回しで、平壌や北京から日本国民の不安を煽るような何らかの言動があれば、安倍の改憲案を推進する上でプラスになるということを示唆している。
⒉ 安倍に権限なしー圧倒的勝利にもかかわらず
〈 筆者:中野 晃一 (上智大学国際教養学部教授) 〉
日本の選挙制度には欠陥があり、そのため国会の議席数の分配と重要問題に関する一般世論との間 に大きな較差が生じている。今回の自民党の衆院選の圧勝には、この選挙制の欠陥が寄与したものと考えられる。従って、今回の安倍の圧勝が実際に憲法改正の国民投票に反映し、事実上、安倍に憲法改正の権限を与えることになるか、これは確かではない。今回のような低い投票率では、安倍と自民党が国民多数からの支持を受けているとは確言できない。自民党は今回の選挙においても、機能しない選挙制度のおかげで得をしたのである。
憲法の改正は国民の間に深い分断をもたらした非常に重大な問題である。ー 英国のEU離脱(Brexit)問題に類似している。これは、これまでの「誰が何を得るのか」といった利害をベースにした政治からアイデンティティ・ポリティックスへと移行する世界的なシフト(グローバル・シフト)のひとつである。米国におけるアイデンティティ・ポリティックスは移民問題であり妊娠中絶法問題である。英国ではEU (欧州連合)問題であり、日本では改憲問題である。日本国民は、「あなたたちは戦後の自由民主主義に満足しているのか?それとも、過去戦前の旧い日本とその価値観を復興させたいのか?」と問われているのである。
改憲は、とりわけ安倍にとって感情に深く訴える問題である。そうであるから安倍は、もうすでに集団的自衛権の行使容認の法を通過させたというのに、改憲について言及し続けるのである。彼がこれほど改憲に固執するの理由が、その他にあるというのだろうか?日本は今、経済問題や高齢社会問題といった、もっと差し迫った深刻な問題を抱えているのだ。
自民・公明連合政権の国会議席数は総議席数の3分の2以上を占める。しかし、少なくとも憲法の改正に関しては国民の意見が分断されていると言える。したがって、安倍が国民投票で単純多数を獲得するのか、決して明らかではない。英国が国民投票結果 ”Brexit” で示したように、国民投票においては必ずしも、政府の望むような結果が出るとは限らないのである。
以上
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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