『ポリティカ』(ベオグラード、2013年7月21日)に「私達は『民族主義者』であると非難される」なる記事があった。かの有名な旧ユーゴスラヴィアの反チトー主義者の異論家ミロヴァン・ジラスの息子、社会学者アレクサ・ジラスへのドゥシツァ・ミラノヴィチによるインタビューである。
ヨーロッパはバルカンの国セルビアの直面する地政学的諸問題が極東日本の同種問題の相似縮小形になっており、日本の今日的政治・経済・外交を考える上で参考になると思われるので、ここに要約・紹介する。
対西方関係について
私達セルビア人は、西方が長い間提供する教えを鵜呑みにして来たように思われる。西方からのムチを出来るだけ少なくし、ニンジンを出来るだけ多くするように、我国は外政上も内政上も配慮して来た。真のリベラル的思考と実のリベラル的政治は、諸大国がのたまう事を反復することでもへり下りすぎて従属することでもない。自分達の民族や国家をただ批判するだけのような知識人は、見掛けのリベラルにすぎない。
「もう一つのセルビア」論者は、あなたの軍事的中立主義と強いセルビア軍論を批判しているが……。
「もう一つのセルビア」論者は、私達がアメリカに敵対して戦争したと批判する。対セルビア空爆を支持したアメリカの最もファナティックな人達でさえアメリカへのセルビアによる軍事的脅威が存在したとは言っていなかった。「もう一つのセルビア」論者は、歴史的ニヒリストであり、国家を議会の、出版の自由の、司法の破壊者としてのみ考え、軍隊を社会貧困化の元凶としてのみ考える。西方が指図する所とは異なる私の経済論を集権的計画化、指令経済、そして抑圧への復帰であると決めつける。西方を批判するなんて、我国にとって無意味かつ有害であると見なす。
セルビアにとって何が本質的な問題か?
我国でも世界でも民族問題が支配的である。諸民族間の、諸エスニック集団間の、諸族間の、諸宗教間の、過去、現在、将来にわたる諸衝突が世界中の、旧ユーゴ中の最重要ニュースとなっている。
良き未来のために国家領土の一部をあきらめなさいと他者に助言することは簡単だが、それを簡単にやった実例は世界にない。
セルビアにおけるアルバニア人問題の解決はコソヴォ分割だけだ。コソヴォの3分の2を彼らに渡す。重要な修道院があり、住民の多数をセルビア人が占める3分の1を我々に残す。アルバニア人地域の教会等のセルビア文化遺産は、外国大使館に等しく自治権を持つ。この案は指導的セルビア知識人からの支持なく、激しい抵抗に会った。西方はコソヴォ問題でセルビアに対して不公平である。西方の我欲と恣意の故だ。彼等は私達に対して脅迫は実行するが、約束は実行しない。しかし、この問題で外交的・妥協的解決をはかる上で西方による仲裁、またロシア、中国、インド、ブラジルによるそれも必要だ。そうであれば、多くのセルビア人は、分割解決を歓迎しなくても、唯一可能なものとして承認するであろう。こうして、平和と和解がやって来る。
──岩田より一言。コソヴォ問題はセルビア人にとって、北方領土、尖閣列島、竹島が日本人にとって有する重みをはるかに超えた重みを有する。当該諸島に少数だが日本人が生活を営み、かつ法隆寺、東大寺、春日大社、金閣、銀閣等が厳存していると想像して欲しい。そんな土地をコソヴォ・アルバニア人国家の完全領土として承認しなさいと、コソヴォ・アルバニア人に味方してセルビアを78日間連日空爆した西方は迫るのである。しかしながら、西方を拒否できないセルビアは、西方への抵抗軸としてロシアや中国の名をあげる。更にはインド、ブラジルにさえ言及する。しかるに東方の経済大国日本、旧国際連盟理事国日本は全く忘れられている。これほどに戦後日本の同盟国中心外交は西方外交の真部分集合なのである。
私達は「民族主義者」であると非難される。国民と国家が強くなることを願う。だからと言って、民族的な不寛容と好戦的政策をとる者では全くない。
あなたはNATO加盟に反対し、その廃止を求めているが……。
冷戦期、NATOは、ソ連東欧の装甲軍団の突入から西欧を防衛すると言う明確な任務があった。一国への攻撃は全体への攻撃と見なされた。また、仮にソ連にその用意がなかったとしても、NATOは有用な軍事同盟であった。西欧の安心感と政治的安定に貢献した。同時に大規模攻勢作戦を実行する軍事編成が西欧になかったので、ソ連の側に恐怖や不安を惹き起こさなかった。今日、NATOの世界的意味ははるかに小さく、ヨーロッパにおけるアメリカの存在、東ヨーロッパとアジアへのアメリカの軍事プレゼンスの拡張用の意味が大きく、アメリカにとって有益である。アメリカの帝国主義的対外政策に正統性の幻影を与えるのに貢献している。NATOの主要目的の一つは、ロシアを軍事基地網で包囲することであるが、それはソ連時代への反民主的ノスタルジーを強め、ロシアの軍事支出を増大させている。
あなたは戦争を予測して、強い軍を求めるのか?
世界には益々多く戦争が起るだろうし、多分規模も大きくなるだろう。西方は、軍事衝突の可能性を小さくする国際制度や外交機制を発展させ得なかった。実の所、西方自身が好戦的となっており、西方帝国主義が復活している。中央ヨーロッパでは国境変更を要求する極右勢力が強くなっている。旧ユーゴスラビアで民族主義的過激主義が盛んであった80年代末と90年代初でさえ、ハンガリーやブルガリアの領土を求める声はなかったのだが。歴史は突然速度を増す。我国をおびやかす同盟が一夜にして結ばれないとは言えない。
西方、特にアメリカは、グローバルな勝利の中で、外交は実力によって保証されると語る。かかる西方のグローバルな勝利は長続きしないだろうし、全人類にとって暗い教訓を残すであろう。
父親のミロヴァン・ジラスについてどう思うか?
父親が生きておれば、エドワード・スノーデンに避難所を提供したはずだ。かつてダニエル・エルスバーグの釈放要求にサインしたのだ。セルビア大統領ニコリッチがアメリカの鋭い反撥を避けようとして、そうしないと決定したとすれば、大統領が何等かの演説でエドワード・スノーデンを称賛するように求めたはずだ。20世紀後半の老異論者が21世紀前半の若異論者を支援するのは、ごく自然のことだ。
──以上、安保九条体制あるいは九条安保の一括打破論者(絶対少数派)から見て興味深いセルビアの相対的少数派の政論を紹介した。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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