ロシア、中国、アメリカ、EU諸国、イギリス、インドネシア、トルコ等でコロナ・ワクチン接種が国民的規模で始まった。治療薬が開発されるまでに人類がコロナ・ウィルスに対して出来る唯一の積極的対応である。
我が祖国日本ではワクチン接種はまだ始まっていない。ようやく2月末だと言う。ところが、バルカン半島の小国、人口7百万余のセルビアですでに去年12月24日にそれは始まっていた。年末の十日間、殆ど連日コロナ・ワクチン関係のニュースが日刊紙『ポリティカ』の紙面を飾る。EU諸国より数日早く始まったワクチン接種にセルビア前進党政権は誇らかな気分をかくしていない。以下に『ポリティカ』紙の報道を要点のみ紹介する。
――大統領ヴゥチチは12月20日に次のような発表をした。翌日か翌々日、アメリカのファイザー・ワクチンがベオグラードにとどく。75歳以上の老人に使用する。ロシアのワクチンは、セルビア国内での生産が検討されている。中国のワクチンは、品質も良いし、価格もベターである。――(『ポリティカ』2020年12月21日)
――22日午前、ファイザー・ビヨンテク・ワクチンの第一陣4875回分が二コラ・テスラ空港に到着した。バルカンでは最初だ。老人ホームの入居者と医療従事者のために先ず使う。――(2020年12月23日)
――来年一月中にワクチン大量接種を予定(1月15日、75歳以上の老人に接種開始:岩田補足)。ワクチンの安全性を人々に納得してもらうため、首相(女)アナ・ブルナビチがはじめにワクチン接種を受ける。――(2020年12月24日)
――アナ・ブルナビチ首相がワクチン注射を受ける姿が第一面トップに大々的に報じられている。セルビアは、ヨーロッパでは英国に次いで最初にワクチンを入手。ファイザー・ワクチンは、来年1月に7万8千回分、2月に9万8千回分、3月に11万4千回分。ファイザーへの需要は巨大で、これ以上調達し難い。1月中にロシアと中国のワクチンが入って来る。ワクチン接種所に三種のワクチンをすべてそろえられないから、どれか特定のワクチンを希望する者は待ってもらうしかない。大統領と首相の間で個人的了解として、二人は夫々別々のワクチンを接種することに決めた。――(2020年12月25日)
――三日前に始まったファイザー・ワクチンの接種継続中。ファイザー・ワクチンは、来年1月に5万回分、第1四半期に29万回分、全部で34万回分。――(2020年12月27日)
――アメリカの映画監督オリヴァー・ストーン(74歳)がロシアで撮影中に十日前にロシアのワクチンを接種。――(2020年12月29日)
新年になって、近所のある店の女主人がコロナを心配して、ワクチンを期待しているのを知って、私は何の気なしに、ヨーロッパの小国セルビアでは去年末にワクチンを打ち始めていますよ、と上記の事情を語った。女主人曰く、「アメリカに十分コロナ・ワクチンが行き渡ってから、日本人の番になるのが自然、当然だと思って、私達は待っていた。それなのに、EUの外の小さな国に日本(アメリカと仲が良い:岩田補足)よりも先にワクチンを供給するなんて、日本は軽く見られたものだ。」
たしかに、セルビアは、アメリカにかわいがられ、愛されている国ではない。セルビア人の心の故里であるコソヴォを1999年NATO大空爆によってもぎとられ、コソヴォの国家独立を承認せよ、さもなくば、EU加盟は不可能だぞ、と北米西欧からおどされても、断固として首をたてにふらない。軍事的には武装中立路線をとって、NATOに加盟しない。セルビアの周囲の国々はすべてNATOである。但し、ボスニア・ヘルツェゴヴィナBiHはまだNATOではないが、それもBiH内のセルビア人(セルプスカ)共和国が反対しているからだ。ロシアとも中国とも独立国同士の礼儀で友好的である。米国とセルビアの関係がこのような質のものであるにもかかわらず、米国は、EU外のセルビアに素早くコロナ・ワクチンを供給した。何故か。
日本では、ロシア・ワクチンや中国ワクチンの早期輸入なんて誰も口にしない。さりとて自力開発に国の全力をあげる雰囲気はなく、アメリカ頼みが主流のようである。せめて、日本の政官は、イギリスなみのスピードでファイザー・ワクチンの安全性を検査・確認したうえ、一月の段階でコロナ患者に直接に接触する医療従事者・介護労働者に接種する分だけでも調達しようと努力しなかったのだろうか。そうすれば、彼等のストレスもかなり軽くなり、社会一般の気持もやわらいだことであろう。努力したが、アメリカから待てと言われたのか。
ところで、セルビアの首相と大統領の間で二人は同じワクチンを接種しないと約束した。すでに、首相はアメリカのワクチンを先月24日に打ってもらった。とすると、大統領はロシアか中国のワクチンと言うことになる。大統領がロシアのワクチンを接種した場合、中国のワクチンをはじめに誰がうつのか。国会議長か。中国のシノファルム・ワクチン100万回分、1月16日ベオグラード空港に到着。国際社会において中小国が実質的な独立を堅持するためには、Stateman政治家はここまで配慮しなければならない。セルビアのリベラル市民主義は、こんな気苦労をするよりも、北米西欧の軍事同盟に入って、気楽な一辺倒生活をおくろうと主張する。我が祖国日本は大国にもかかわらず、気楽な小国路線を選んですでに久しい。
令和3年正月17日(日)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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