京都の同志社大学で11月8日(土)と9日(日)に開催されたロシア・東欧学会大会で「ウクライナ侵攻後にロシアから移動したタタール人は何をもたらしたか―アルマトゥのタタール人社会に見る危機、移動、記憶」研究等々の生々しい現地調査報告にあふれる若手研究者達のエネルギーに感心しつつ、東京に戻った。
「ちきゅう座」ネットを開くと、再び「抽象」の世界に引き戻された。「ブルマン!だよね」氏による「スタディルーム」11月8日と9日の論稿によってである。
11月8日の論稿で「ハロッド中立という“整いすぎた抽象”は、……」とある。Y=F(L、K)なる労働、資本、生産関数レベルの分析は、ハロッド中立であれ、ソロー中立であれ、ヒックス中立であれ、すべて“整いすぎた抽象”であろう。その中でハロッド中立型技術進歩の理解が「カルドアの定型化された事実」に適合したわけである。
丸山の仮定とか丸山・岩田氏解釈とか言われるが、ハロッド中立型技術進歩は、現在のところ、マクロ経済学が経済成長論で技術進歩を取り扱う際に、教科書において100%採用する定説だ。初級はともかく、中級と上級ではそうである。例えば、二神孝一・堀敬一『マクロ経済学』(有斐閣、2009年)、三野和男『マクロ経済学』(培風館、2013年)、デビッド・ローマー『上級マクロ経済学〔原著第3版〕』(訳者・堀/岩成/南条、日本評論社、2010年)、R.J.バロー/X.サラ-イ-マーティン『内生的経済成長論1〔第2版〕』(訳者・大住圭介、九州大学出版会、2006年)等々。
但し、私=岩田の見る所、力能増強労働a₍t₎L(教科書では効率労働)と力能増強資本b₍t₎K₍t₎の両者を明示した上で、b₍t₎ではなく、a₍t₎を採用せねばならぬと数式証明を銘記している教科書は『内生的経済成長論1〔第2版〕』だけのようである。その106ページから109ページに「技術進歩が労働増加的(岩田の言う労働力能増強と同意)でなければならないということの証明」が数学的になされている。その証明は、ロバート M.ソロー教授の証明と同じである。
私=岩田は、これをa₍t₎によるb₍t₎の吸収であると前稿で表現した。「ブルマン!だよね」氏は、11月8日の論稿で「数学的便宜に基づく変数整理にすぎない。」と説明なく一蹴する。証明者ソロー教授は、自分の証明を「変数整理にすぎない。」と酷評されてどう思うであろうか。心配だ。その同じ「ブルマン!だよね」氏は、「ソロー成長会計の核心はむしろ、長期成長の主要因は、資本でも労働でもなく、TFP(全要素生産性)の上昇であるという点にある。」と書く。全くその通りだ。だからこそ、成長会計の創始者ソロー教授は、ソロー残差≒TFPのかなりの部分を経済理論的に説明するツールとしてハロッド中立型技術進歩係数a₍t₎を採用し、自分の名前で呼ばれるソロー中立型技術進歩係数b₍t₎を棄却したのである。
要するに、ソロー残差、TFP、そしてa₍t₎(A₍t₎)は、岩田流に表現すれば三位一体である。これに関しては、例えば、二神孝一・堀敬一著の前掲教科書の第8章「経済成長の理論1:ソロー・モデル」「8.4.1 成長会計」(pp.203-206)で簡潔明瞭な説明がある。
「ブルマン!だよね」氏の言うAI技術に起因する現在進行中の経済実態変容、カルドア的事実のゆらぎについては、着目して行きたい。乞う御教示!
令和7年11月12日(水)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔study1368:251113〕












