緊迫するアラブ世界。リビアでは民主蜂起によって窮地に立たされた最高指導者カダフィ大佐が、ブラックアフリカン系の傭兵を使って、民衆を殺戮しているという報道がされている。戦闘機や武装ヘリコプターが無差別に民衆を攻撃しているということから、カダフィ大佐が、最後まで戦うという方針を固めていると思われる。1月20日、カダフィ大佐の次男であるセイフイスラム氏は、リビア国営テレビに出演した。「最後の兵士、最後の弾まで戦う」と述べ、「われわれはチュニジアやエジプトとは違う」と強気の態度を示した。独裁者の息子は出来が悪いというのが相場になっているが、セイフイスラム氏は、日本の外交官や石油企業関係者から、「良く出来た息子であり、カダフィ大佐の後継者になる人物」と評価されていた。その後は、セイフイスラム氏が述べた展開になっている。
おそくらくカダフィ大佐はハマー事件シリアのアサド前大統領(現大統領の父親で故人)のように数万人の国民を殺害したとしても権力の座にとどまりたい意向だろう。
1982年シリアの都市・ハマーでムスリム同胞団が蜂起した。シリア軍は人口35万人のハマーを包囲して、戦闘機、武装ヘリ、戦車、砲兵を動員して、民衆を虐殺した。殺された多くの人が女性や子どもで、その数2万人から4万人といわれる。生き残ったものも軍や警察に捕まり、残酷な拷問を受けて処刑された。
そうした行為にもかかわらず、アサド大統領は死ぬまで政権の座にいただけでなく、息子に政権を継承させることにも成功した。
カダフィ大佐もアサドの成功例を思い浮かべているのではないか。
しかし、1982年と異なり、今は衛星テレビ、インターネット、グーグル、フェイスブック、スマートフォンの時代である。カダフィ大佐が命令した民衆への殺害行為は瞬時世界に知られる。
すでに軍隊の一部は民衆への発砲にためらい、戦闘機が海外に亡命する動きもある。
リビアは他のアラブ世界と同様に部族社会である。有力部族が反政府活動に参加しているという報道がある。最後はカダフィ大佐が政権を維持できなくなる、という見方が日本のマスコミの間でもコンセンサスになっている。
ただ、気になるのは米国ABCテレビで、女性レポーターが、「米国はリビアに基盤を持っていないので、何もできない」と語ったことだ。
筆者には「リビアに介入しない」という政策をアナウンスメントしたように聞こえた。
米国を中心とする国際社会の動向によっては、カダフィ大佐が民衆を鎮圧して、生き残る可能性も捨てきれいない。
こうした緊迫した情勢の中、ヌルディーン・ハシェッド駐日チュニジア前大使が、2月21日、都内で講演した。講演の内容は多彩で討論も白熱した。その中でも注目される点は、以下の点である。
1 チュニジアにつぃて
2004年に起きたウクライナの「オレンジ革命」は、米国からの資金援助によってなされたことは明白であるが、チュニジアの「ジャスミン革命」は、若者の自発的行動によって実現された。米国が資金援助した形跡はない。ムスリム同胞団など既成のイスラーム組織も不意を突かれた。
チュニジアは4人に1人がスマートフォンを持っている。世界でも普及率の高いほうの国である。こうしたインフラが革命を成功させた。チュニジア革命は世界を塗り替える出来事だ。
2 リビアについて
独裁者は終焉の時期を迎えている。カダフィ政権が崩壊することは間違いない。イランにも革命が波及するだろう。
3 中国について
中国でも若者が声を挙げている。私は5年以内にチュニジアで起きたことが、中国でも起こると思う。20年前にすでに天安門事件が起きている。
4 日本について
中国はアフリカで影響力を強めるという戦略的野心があるが、日本にはそうした野心を世界のどの国にも抱いていない。世界でそうした信頼を得ている国は日本とスカンジナビア諸国しかない。日本はいますぐチュニジアに支援の手を差し伸べてほしい。
前大使の父親はチュニジアの労働組合運動の指導者だった。前大使は1944年の生まれだが、父親は1952年に暗殺されたという。1976年に32歳で知事、1985年には労働大臣になったエリートである。
「民衆は独裁者を倒したが、アラビニズム(イスラーム復興主義のことか?)、トロツキズム、コミュニズムに支配されたくないと思っている。ライオンから逃れながら、今度は虎に支配されることは避けたいと思っている」と述べている。
前大使はマルクス主義の概念フレームワークを使用して、聴衆からの質問に答えたことから、マルクス主義の知識があると筆者は受け止めた。
ジャスミン革命が最後は中国に波及する(ウーロン茶革命?)という大胆な預言が印象的である。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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