2018年9月14日
8月31日放送のテレビ朝日「報道ステーション」が、塚原千恵子氏側から提供された録音データを、相手方(宮川紗江選手)の事前の確認・了解なしに放送したのは宮川選手の人権を侵す恐れがあると同時に、公平公正な番組編集に反し、放送倫理を背く疑いがあると考え、今日、大学教員(元・現)、弁護士ら8名の連名で、BPO(放送倫理・番組向上機構)に対して審議を求める要望書を送った。
あわせて、この要望書をテレビ朝日内の放送番組審議会と日本体操協会にも送った。要望書の全文は以下のとおり。URLは、
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/bpoate_tereasa_rokuon.pdf
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2018年9月14日
BPO放送倫理検証委員会 御中
テレビ朝日が塚原千恵子氏側から提供を受けた音声
データを放送した件について審議を求める要望書
(現/元)大学教員・弁護士・ジャーナリスト有志
(有志名簿は後掲)
目下、女子体操界でのコーチの暴力問題、日本体操協会の一部幹部による選手へのパワハラ問題が大きな社会問題になっています。これについて、8月31日に放送されたテレビ朝日「報道ステーション」(以下「番組」と略す)は、放送の中で、宮川紗江選手からパワハラを受けたと告発された塚原千恵子氏の代理人弁護士から提供を受けたとして、7月16日に塚原千恵子氏が録音したとされる、宮川選手との会話の音声データを2分23秒にわたって放送しました。
しかし、私たちは、このようなテレビ朝日の番組制作は、以下のような理由から、放送倫理上、大きな問題があると考え、貴委員会に審議を要望いたします。
(1)力の上で優位な立場にある塚原千恵子氏が、弱い立場にある宮川紗江選手の了解なしに録音した音声データを、宮川選手の事前の確認なり了解なしに、一方的に放送したのは、宮川選手の人権を侵す恐れがあると同時に、かりに違法とまで言えないにしても、放送倫理上も慎重な配慮を欠くものである。
(2)塚原氏の代理人弁護士は、録音を提供した目的は、「塚本千恵子氏の話し方が高圧的でなかったことを知ってもらうため」と説明
したが、この説明は次の理由から説得力に欠けている。
① そもそも、社会常識から、録音をした塚本千恵子氏が録音中、自分に不利な発言(この場合は高圧的と受け取られるような口調の発言)をするとは考えられない。また、放送された音声データは会話全体のごく一部と考えられるから、メディアに提供した音声が塚原氏の主張に沿った内容であるのは当然で、利害関係者が自ら選択した音声データを提供しても、公正な証拠価値とは言い難い。番組は、このように客観性・公平性に疑問が持たれる音声データを無造作に使った点で、放送倫理上、重大な瑕疵がある。
② 宮川選手が高圧的で恐怖を覚えたと訴えたのは7月15日のやりとりの場での塚原氏の発言であるが、番組が流したのは翌16日の2人のやりとりの一部である。16日のやり取りは、前日、塚原千恵子氏が宮川選手に対して言った発言(「あなたの家族は宗教みたい」、「2020に参加しないと協会として協力できない」、「オリンピックにも出られなくなるわよ」等々)にショックを受け、一睡もできなかった宮川選手が合宿参加を止めて家に帰りたいと申し出たのを塚原氏が引き留めるやりとりである。
したがって、宮川選手が訴えたパワハラの有無を検証するには7月15日のやりとりが焦点になるはずだから、番組が流した音声データは、塚原氏の代理人弁護士が説明する目的と齟齬がある。こうした齟齬を十分吟味することなく、一方の当事者の言い分をそのまま受けて提供された音声データを流したのは、番組編集上の自主自律の欠如を意味し、放送倫理上、極めて問題があった。
(参考)
「放送は、意見の分かれている問題については、できる限り多くの角度から論点を明らかにし、公正を保持しなければならない。」
(NHK・民放連「放送倫理基本綱領」)
「(34) 取材・編集にあたっては、一方に偏るなど、視聴者に誤解を与えないように注意する。」(「日本民間放送連盟 放送基準」)
(3)そもそも論から言うと、8月29日の記者会見で宮川選手が訴えた塚原夫妻によるパワハラとは、話し方が高圧的だったというのは副次的な問題で、重要なことは「言うことを聞かなければ、オリンピックに出られなくなる」等と宮川選手が受け取った塚原千恵子氏の発言の中身である。さらに、宮川選手が挙げたパワハラとは、義務ではなかった2020強化プロジェクトに宮川選手が加わらなかった(他にも多くの選手が加わっていなかった)というだけで、ナショナル選手であるにもかかわらず、ナショナルトレーニングセンター(NTC)の使用を制限されたり、2年連続で海外遠征から外されたりし、あげくはオリンピック選考にも影響するかのような発言があったという、より具体的な問題であり、女子体操強化本部長という地位を濫用した差別扱いだった。
にもかかわらず、番組がこうしたパワハラの核心部分に口を閉ざしたまま、話し方が高圧的だったかどうかに焦点を当てようとする塚原氏側の言い分に沿って、それを立証するために塚原氏側から提唱された音声データを流したのは、自主自立、公平公正な番組編集の原則に反するものだった。
以上のような私たちの要望とその理由を慎重に検討いただき、標題の件について慎重に審議されるよう、貴委員会に求めます。
以上
有志申立人
浮田 哲(羽衣国際大学教授)
右崎正博(獨協大学名誉教授)
澤藤統一郎(弁護士)
杉浦ひとみ(弁護士)
醍醐 聰(東京大学名誉教授)
浪本勝年(立正大学名誉教授)
根本 仁(「NHKとメディアを語ろう・
福島」代表)
湯山哲守(京都大学元講師)
初出:醍醐聡のブログから許可を得て転載
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion7996:180914〕