テント日誌特別版(7月22日)第2回口頭弁論を傍聴して(その1)

「脱原発といのちを守る裁判」第二回口頭弁論は7月22日に開かれました。今回は大法廷《103号》で開かれ多くの人が傍聴できました。とはいえ、当日傍聴に参加しようと集まられた方は326名でした。傍聴席は85しかありませんから、多くの方が傍聴できませんでした。法廷の様子や感想をお送りいたします。今回はその1回目です。

国側のずさんさが暴露された公判でした。

7月22日、経産省前テント立ち退き訴訟の第2回口頭弁論(東京地裁村上正敏裁判長)を傍聴しました。弁護団が要望した大法廷がかなえられ、地裁前に並んだ傍聴希望326名のうち、抽選で85名が傍聴できました。まず前回の「この裁判の訴えそのものが違法」という主張の続きを吉田弁護士が継続。川口弁護士は、第2テントが福島で被災した女性たちのよりどころでありながら、この方たちを被告にできなかった国の弱点と違法性を指摘しました。佐藤弁護士から戦争体験をもとに、宇都宮弁護士から総括的に違法性が主張されました。

この日のハイライトは、国が敷地占有の証拠とした3枚の写真が、被告正清太一さんとは別なAさんを取り違えていたことが明らかになったことです。傍聴席の最前列にいたAさんは写真と同じ帽子に鉢巻をして見せ、裁判長もその間違いを認めました。河合弘之弁護士は、「占有した人物が特定されておらず、訴訟そのものが成り立たない」と主張、訴訟の取り下げを求めました。裁判長から、この点で国側に、釈明と今後の裁判の方向性を示すよう求め、次回に持ち越されました。国の訴訟準備のずさんさが浮き彫りになり、さらに次回追い詰めることになります。さらに支援の輪を広げましょう。

≪文責・けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟)≫

1 東京地裁に328人大集合!

参院選投票日翌日の午後1時、晴天の東京地裁前には、再稼働反対!いのちと脱原発テントを守ろう!など、様々な旗が翻り、地裁前集会は熱気に包まれて行われました。被告とされている渕上さんや、福島から駆けつけた橋本あきさん、黒田節子さんが力強くアピール。テントひろばの重要性を訴えました。河合弁護士は「私たちは負けておるのではない、勝っているのだ。目前の結果に一喜一憂してはならない」と元気に呼びかけました。

その後、「東京地裁土地明渡し請求を却下せよ」という横断幕を掲げた福島の女性たち5人を先頭に、みんなで地裁構内へ入り、傍聴券抽選へ。前回(298人)を上回る328人が大集合し、そのうち、84人が傍聴券を得ました。

2 テントの意義〜違法なスラップ訴訟を却下せよ!


今回は東京地裁で一番大きい部屋の大法廷を、地裁への交渉で実現できました。1階103号法廷傍聴席は福島の女性たちを含むテント支援者で埋め尽くされ、記者席も、10席埋まっており、関心の高さを伺わせました。
(傍聴席1席が空いているという指摘が傍聴席からありましたが、裁判長はノーコメント。記者席も2席空席でした。

午後2時、開廷。最初に、被告側から前回途中で打ち切られた「本案前の意見陳述」の続きが行われました。いずれも、国による今回の裁判は違法なスラップ訴訟(嫌がらせ訴訟)であり、即刻却下されるべきであると訴えました。

陳述開始に当たり、一瀬弁護士は、テントが700日近く今も存続しているのは、数多くの人が自主運営しているからであることを、裁判長に強調しました。

吉田弁護士は、【原子力マネーによってマスコミも取り込まれ言論の世界が歪められてきた中、資力の乏しい市民が自由に立ち寄り、表現活動できるテントひろばは、表現の自由の拠点として重要である】と主張しました。「経産省はテントひろば側の敷地使用許可申請に対し「特定の団体には貸さない」とし、バリカーで囲い込んだり、監視カメラを設置したり、参加者に対し至近距離で執拗な撮影をしたりした。一方で、原子力事業者には様々な便宜を図り、自民党本部が40年にも渡って国有地を駐車場として不法使用していることには一切対応していません。自民党本部に比べて、テントひろばは比べものにならないほどごく一部の使用に過ぎないにもかかわらず。しかも、テントは大多数の人の健康と生命に関わる公共性と公益性の役目を果たしており、厚い保護を国によって与えるべき存在なのです。経産省は損害賠償請求していますが、その目的は損害の補填ではなく、表現活動の自由の萎縮を狙っているのです。」

全くその通りとの共感から、「そうだそうだ!」と傍聴席から声が上がりましたが、裁判長は「傍聴席では発言しないでください!」と直ちに止めました。(この後も度々、裁判長は傍聴席に上がる声を制止することになります。)

続いて、川口弁護士は、【第二テントの意義からみても、それをわざと無視した今回の訴訟は違法訴訟であり、訴権濫用である】と主張しました。
「第二テントは2年余り前の10月に福島の女性たちが経産省前座り込みで拠点として以来、福島の女性たちが生活再建等の情報交換・発信の拠点としており、それは経産省が誰よりも知っているはずです。それにもかかわらず、第一テントのみに訴訟を提起したのは、福島の女性たちを敵にして国民の憎悪の的となることを避けるためです。経産省は被告とされる2名だけを狙い撃ちしたことを恥ずべきです。」

浅野弁護士は、【テントひろばが実効性ある原発被害者支援や原発再稼働反対といった公的意見表明の場であることから、それを封じ込めようとする今回の訴訟はスラップ訴訟そのものである】と主張。「テントひろばの建っている敷地は、なんら経産省の具体的業務に使用されておらず、ベンチがあるなど元来市民の使用に供されていた土地。したがって、損害は生じていない」

長老の佐藤弁護士は、ご自分の体験を踏まえ【国策への異論を一切排除し戦争の惨禍を引き起こした戦前の反省の下、現行憲法で表現の自由が謳われたのであり、表現の自由の保障はそもそも権力批判の保障である】と主張。今回の裁判は政府の気に入らない表現を排除しようというもので、表現の自由を侵害するものであると述べました。

宇都宮弁護士は、これまでの弁護団の主張をまとめつつ、【司法の責任を追及】しました。
「東京電力福島第一原発事故原発の責任官庁である経済産業省の責任は重いものです。しかし、住民訴訟で住民側が勝ったのは、志賀原発差止め訴訟の金沢地裁判決と、もんじゅ訴訟第二審判決のみです。1998年にドイツ連邦裁判所は、地震が少ない国であるにもかかわらず、地震リスクを評価して、原発の稼働を認めない判決を出しています。司法は原発事故を防ぐことができたはずなのです。その点で、司法にも大きな責任があります。
最近では、自民党政調会長の暴言、復興庁幹部のツイッター上での中傷がありました。原発事故などなかったかのように、被害者が置き去りにされたままの現状に憤り、抗議の声をあげることは当然で、テントはその象徴なのです。裁判所は国民の権利を守る観点から判断してください。表現の自由は最も基本的かつ重要な人権であり、最大限尊重されるべきです。」
このあと、裁判史上、前代未聞の展開が!”

3 被告は別人!訴状の半分以上が虚偽!?


その後、大口弁護士が今後の訴訟進行について述べる前に、「なぜこの2人の被告なのか」求釈明をしたいと述べました。
(民事訴訟法上、当事者に直接問いを発して釈明を求める権利は裁判所にあります(釈明権)。そこで、相手方の主張に不明確な点がある場合、裁判所に釈明を求めてもらうよう、要求する必要があります(求釈明)。)

そこで河合弁護士が、訴状に添付された証拠(写真)を示しながら、「原告の国は、被告としている正清さんとAさんをとり違えている」ことを明らかにしました。すなわち、正清さんがテントを占有している証拠とされる写真に写っていたのは、正清さんではなく、別人のAさんだったのです。

河合弁護士が傍聴席の最前列に座ったAさんに立ってもらい、写真と同じように鉢巻をして帽子をかぶってもらって、写真に写っている人物が正清さんではなく、Aさんであることを示すと、傍聴席からは訴訟の前提となる重大なミスに、驚きの溜め息と失笑が漏れました。ふたりとも白髪という以外、一目で違う人物と判るのを、法廷内の全員が確認しました。

裁判長は、あたふたと「正清さんの顔はわかっている」と、Aさんに座るよう命じ法廷内での鉢巻等をとるように言いました。
そこで、大口弁護士が「人物特定に関する重要なことである」と念押し。
河合弁護士が「単に写真間違えの問題ではなく、原告側の提出している証拠はAさんを正清さんと取り違えた上での証拠であり、この証拠に基づいて訴状が作成されている。したがって、訴状の内容は基本的に全く間違っている。」と裁判長に迫りました。傍聴席からも野次が飛ぶと、裁判長は「何度言えばわかっていただけるのか、傍聴席では話さないでください!」と制止ました。

更に、国側は証拠として、複数人について「誰がいつ頃テントにいたか」という、出勤簿のようなものを作成し、それを証拠として訴状に添付し提出していましたが、そもそも被告を取り違えているので、それ自体、事実であるか非常に疑わしいことが、法廷であばかれました。

河合弁護士は「”出勤表”も詳細に確認したところ、訴状の半分が全く虚偽と確認できた。このままの訴訟進行は許されない。原告は訴えを取り下げるか、裁判所は原告に対し取り下げるよう、促して欲しい」と述べました。

そうだそうだと傍聴席から声が上がると、裁判長は顔を上気させながら机を小刻みにたたき、「今は審理中です。私も考えながら聞いていますから、傍聴席から発言があると神経集中して聞けないんですよ。やめてください!」と声を荒げました。

河合弁護士は、「詳細な求釈明書は用意してあるが、こんな誤った訴状に対して釈明を求めるのも意味がないから、裁判所から訴えを取り下げるように監督するよう検討して欲しい」と述べました。

これに対し、裁判長が国の代理人に、正清さんの占有の裏付けを整理するよう求めると、代理人は「検討します。(被告側から)書面で出してもらえればそれについて、認める、認めないなど、認否することができる。」と述べました。

原告が被告を取り違えたのに、それに対して答える前に被告が書面を出せ、とは酷い話です。河合弁護士も「原告としてやるべきことやってない。その前に答弁してください!」と述べました。

結局、被告のテント側は、確認のために口頭で述べた「原告側の被告取り違い」について書面で提出し、国側は、至急正清さんのテント占有事実を整理し、提出することになりました。

それにしても、原告代理人は被告の取り違えに気づいていたのでしょうか?

河合弁護士が、原告席に向かって「この書面を書いたハルさんはいますか?」と追及しましたが、原告側は誰も顔も動かさずシーンと黙り返っていました。

一瀬弁護士が「写真の間違いに今気づいたのか」と尋ねると、原告代理人は「回答する必要はないと思います。」と回答を避けました。
大口弁護士も「別人であることを認めているか」と問うと代理人は「私が書面を作ったわけではないので…」と、苦笑しながら、答えました。もう笑うしかなかったよう。
「今見て別人だと思うか」と問うと「その点も含めて検討します」と。ここまでお粗末な、いいかげんな訴状は聞いたことがありませんが、原告代理人もそうとは言えず、如何にも官僚という回答でした。

その間に、淵上さんが発言を求め、「監視カメラ映像の悪用について」も意見を述べました。
「経産省は、テント前でのテントへの威嚇・暴力行為などを撮影するために監視カメラを設置するとの説明をしていましたが、設置前にテントひろばとして参加者の肖像権侵害の危険があることを理由に、設置しないよう求める申入れをしていました。申入れは無視され、監視カメラは強行に設置されました。なおかつ、テント参加者の動向調査に使用されていたことが、国側の提出証拠で明らかになったのです。」 淵上さんはこの問題性を強く訴えましたが、裁判所はノーコメントでした。

最後に、一瀬弁護士が、今日も傍聴のために約330人が集まったことを述べ、次回も大法廷を使用することと、裁判長が傍聴席に向かって怒鳴ったことは在野法曹として見過ごせない、そういうことは謹んで欲しいと求めました。
これに対し、裁判長は、「大法廷使用についてこの場では明言できない。何度言っても聞いてもらえなかったので、大きな声を出さざるを得なかった」などと述べました。

午後3時、閉廷。閉廷後、ふつうなら裁判官たちは直ぐ席を立ちますが、裁判官3人と国の代理人たちは微動だにせず席に着いたままでした。「なんで?何か話し合うの?」と、聞こえよがしに囁く傍聴人たちの視線を受けながら、彼らは表情を硬くしていました。振り返る傍聴人たちを、さっさと速く部屋を出るよう裁判所職員は促し、法廷の扉はギイーと重い音を立て閉じられました。

次回裁判は9/12 (木)です。
次回も大法廷を使用できるよう、多くの方のご参集をお願いいたします。
脱原発の声をあげ続けましょう!みんなでテントを守りましょう!
(ひまわり)

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