テント日誌12月7日 別版1裁判編 経産省前テントひろば817日目 商業用原発停止82日目…裁判方針の議論によせて

来年2月の第5回弁論に向けて、昨日の弁護団会議では今後の課題として、「A.占有主体の真実の、訴訟への、実体的・手続的反映」と「B.原発問題の深化」が提起され、議論が行われた。本件裁判における原告の主張は、国有地の占有者2名に退去を求め、使用料を支払えというものである。被告は、占有者は2名だけでなく、原告の主張は正当なものでないこと、経産省の管理に係る国有地を国民の多数人による使用は正当であること、を主張してきた。

ここでは、こんご具体的方針を検討するに際して、以下の経過を振り返り、再度の運動方針と裁判方針との整合性を図るために、いくつかの問題提起をしたい。

民主党政権下では、経産省で行われた記者会見での発言を見る限り、枝野は「テントの撤去と火気等の使用禁止を警告」し、「こうした危険な行為は放置をすることはできない」から、「担当部署より改めて文書を発出して、当省敷地からの退去とテント等の撤去を」要請するにとどまった。その際、記者の「仮に自主的に撤去しなかった場合、強制排除となれば、原発の問題、非常に厳しい、世論が微妙な中で、国民世論の反応、マスコミの反応も出てくると思う」が如何、と問われて、「政府の一員としては国有財産法と国有財産取扱規程に則って対応を法的にはしなければならない一方で、様々な状況を考慮して時間を掛けても自主的に退去していただきたい」と答えている(2012.1.24)。

その後、「税金で構成されている国有地の適正管理という観点から、適切な対応をとってまいりたいと、何か今後のことについて予断を与えるようなことは申し上げるべきではない」(2012.3.6)とか、「御意見、主義主張とは関係なく、国民の皆さんの税金を不当利得されているということは間違いありません。したがって、できるだけ速やかに、任意に退去していただきたいということは繰り返し求めていきたい」(2012.7.3)と言いつつ、記者が「法遵守というか、法をちゃんと守らせる立場として、これへの見通しを」、「放置しておく理由というのは何か」と迫られても、枝野は「なかなか現行法はこうした場合への迅速な対応を困難にしている仕組み」、「現行の法体系でなかなか簡単ではないのは法体系の問題」(2012.8.7)、「私も弁護士でありますが、弁護士の実務をやっている専門家等の意見も含めて、いろいろお聞きをしながら、」とか、「犯罪行為であるかどうかについて、いろいろな弁護士さんに御意見を伺って、」とかわしてきた。

本年、経産省が訴訟に踏み切る前年暮れに、経産大臣が民主党枝野から自民党茂木に代わると、1月25日に茂木大臣は「テントの不法占拠問題につきまして、深刻な問題」、「内々に対処の仕方、様々な角度から今検討」していると発言し、3月の仮処分申請後の記者会見では、「民事訴訟による解決が必要との判断をしたことから、まずは占有者を特定するための仮処分の申し立てを行った」。そして、5月にテントひろばが訴訟の取り下げを求めて署名を提出した後、「様々な国民の声を受け止めることは極めて重要」だが、「国有地を不法に占拠するといった行動については、決して容認されるものではない」とも発言している。

枝野はテントが「税金の不当利得」であるとは述べていたが、「法体系の問題」に問題があるとして、具体的な行動に踏み出さないでいた。すなわち、茂木のように「不法占拠問題」とは言ってこなかった。この違いは、国民の世論に対する政権党の姿勢から来ることは間違えないにしても、私たちは枝野が「政府の一員としては国有財産法と国有財産取扱規程に則って対応を法的にはしなければならない」といったときの「法体系」の問題にこだわって考えることが必要だろうと思う。

この点について、私は以前に本件裁判への参加を申立てるに際して、「国有地利用の意義と正当性」について以下のような陳述書を作成した。この陳述が法的にどの程度の意味をもつものかどうかは別として、今後の裁判では占有主体の実体的・手続的反映というとき、テントひろばはこれまでの800日以上の経産省との攻防を踏まえて、原発問題を全国民的課題であるとする視点を運動論的に提起して、国有地占有行為の正当性と結合して主張することが重要であると考える。

1.テントひろばは、国有地の正当な利用であって、「不法占拠」ではない。

原告提出の「要望書」と題する書面(甲第5号証)によると、一昨年9月のテント設置直後に、被告らは国有地使用の許諾を経済産業省に申し出ている。これに対して、経済産業省大臣官房情報システム厚生課厚生企画室長は、不許可通知書(甲第7号証)により不許可処分を行った。

その後、被告らは再審査請求を行ったが、本件訴訟に原告から提出された「裁決書」(甲第24号証)によれば、テントひろばは経済産業省所管国有財産取扱規程第16条第1項第3号ロ及びハ並びに第4号のいずれにも該当すると主張して、被告らの使用許可申請には理由がないとしたうえで、平成25年3月19日に請求棄却の採決を行った。

しかし、上記採決に記載された不許可の理由は、以下に述べるように不明確かつ不当なものであって、被告らによるテントひろばは国有地の正当な利用である。

第1に、経済産業省所管国有財産取扱規程第16条の根拠法令である国有財産法第18条第6項の規定の適用には、瑕疵がある。

具体的には、昭和33年1月7日付蔵管第1号通達として発出された「国の庁舎等の使用又は収益を許可する場合の取扱の基準について」(添付ファイル参照)において、国有財産法第18条第6項に規定する行政財産の使用又は収益の許可につき、国は許可を与える具体的な事例を列挙するとともに、当該列挙事例に該当しない場合であっても、財務省理財局長に協議して使用許可ができる旨規定されている。しかも、この通達の列挙事例には、「災害その他の緊急やむを得ない事態の発生により応急施設として短期間その用に供する場合」に使用収益を許可すべきとしている。さらに、上記基準の特例として、「この基準によることが著しく不適当又は困難と認められる特別の事情があるときは、財務省理財局長と協議して、特別の定をすることができる。」とする規定もある。

しかしながら、本件訴訟において原告提出の「裁決書」(甲第24号証)に記載された「採決の理由」には、上記通達について何らの言及もされていない。したがって、本件被告の再審査請求に対する棄却の採決書には重大な瑕疵があると言わざるをえない。

第2に、反原発テントによる国有地の利用は、正当防衛(民法720条①)であり、緊急避難(民法720条②)である。

すなわち、テントひろばに集う人々が経済産業省に対して継続して監視、抗議を行うことは、福島第一原子力発電所での核事故に起因する放射能汚染による、今以上の被害から国民を守るための正当行為である。また、国内の他の原子力発電所での運転が継続されていることから、再度の核事故による被害を未然に防止するための緊急避難である。さらには、別の原子力発電所の運転が再開されないように国民が直接にその意思を表示し、経済産業省に対して継続して監視、抗議をすることも不可欠である。

第3に、テントひろばは、核事故に対する抗議のための、正当な使用である。

テントひろばは、核事故に抗議するすべての国民に対して開かれている。しかも、国有地の利用により経済産業省および国は何らの損害を受けていない。したがって、被告らによる反原発テントひろばとしての土地(行政財産)の使用収益は、その公共性、公益性を生かしていることはあっても、公共性、公益性に反するものではない。

第4に、経済産業省はいまでも上記土地を適正に管理している。

昨年8月に経済産業省は、テントひろばの入口の近辺を24時間監視するカメラを2台設置した。また、テントひろばの周囲には金属の鎖(バリカー)を張り巡らしている。しかし、同敷地に設置された周辺省庁の案内地図掲載板の周囲には上記バリカーを張ることなく、その立ち入りについては規制を行っていない。

このように、本件訴訟の訴訟物である国有地については、経済産業省が適切に管理しており、その用途又は目的を妨げる状態にはなっていない。(O.E)