経産省前テントひろば963日目 商業用原発停止227日
裁判傍聴記(五) 裁判のために上京しながら思ったことども
前略。久方ぶりに経産省前テントひろばの第6回口頭弁論を傍聴するために、23日早朝テントを訪ねました。懐かしい江戸下町の歯切れのいい、しかし、高齢のせいで、ぬくもりとあじわいのある声になって、「よお! 飯があるぞ、食えよ!」と迎えてくれたのは、Kさんでした。このテントで出会った畏兄のYOSさんに導かれて、東京霞ヶ関から福井県大飯町、北九州がれき焼却阻止・監視テント、そして、放射性廃棄物広域瓦礫焼却阻止・大阪市庁舎前監視テントとテンテンといたしましたが、なんと、現在は、愛媛県は伊方原発監視小屋(?)「伊方の家」に間欠的に、それでも、ながながとお世話になって、やはり、東京のテントの勇士、Y・Tさんのご指導を頂いている次第です。
テント・ジプシーもマンション住まいとなって、面映ゆい次第です。昨今、「伊方の家」では、ふたりそれぞれ、替え歌を創作する、屋根のあるすまいならではの文化空間となっていますが、シラフで歌うYさんのアリアは、鬼気迫るものがあります。「山は避難できますか? 海は避難できますか?」と現在、8割がたの完成度です。オリジナルは、さだまさしの「防人の詩」というそうで、この古代性を現代にワープさせた現代民俗歌謡の傑作となりそうです。井戸川前双葉町長にも、予告編が、愛媛県松山市で、披露され、愛媛新聞にも、この30日、目立たず紹介されているのです。知られざるテント・ジプシー・ミュージシャンのくまも、まっさおの迫真の芸です。歌は、訴えるのに通ずるので、この効能を最大限に生かしたいのですが、それこそ、百の、千の耳にとって、どうか、というのは、難しい問題です。ヒットは、金(鐘)のためにあるのではないはずなのですが、じっくり、ひとの声を聞くゆとりのようなものは、闘争現場では、なかなか。このふたり、伊方町長選挙が、実権派原発財テク推進派現役町長の勝利になったのを見届けて、一端、Yさんは東京へ、くまは大阪へ帰りました。一層のファイトを胸に秘めて…
ここで、四国住民8割の原発不快、不安の統計に挑戦するような選挙結果が、伊方原発立地町住民からでたことを、大塚久雄―山村貴輝さんに学びつつ総括分析しなければなりませんが、原発事業の不安・不快の根絶よりも、経済成長神話にいとも容易にからめとられるこの日常の惰性態こそ恐ろしい。まさしく、ハンナ・アーレントをモデルにした映画のなかでの「命令に従順な、ごく平凡な男(ナチス宣伝相)こそ、最も罪深い存在となる。人間の本質は、善だが、全体主義が、この根底を破壊するのだ」という言葉。このスクリーンから提供されたメッセージをくまは、伊方町長選挙で、再確認させられました。一方、このところ、伊方町での講演会やらで、家郷をうしなった福島県双葉町の元町長は、クマの言葉のふしぶしに、いらだちを隠さない。「きみもなんにもしらないね。きみだから、私はいうよ。まったく、双葉町のことをわかっていないね、双葉町のひとびとをわかっていないね」 それこそ、平凡なくまは、経産省前テントひろばを出て、小さい遍歴を重ねて、この深淵の感触を衝撃的に味わいつつあるわけですが・・・そして、ドストエフスキーの「罪と罰」の巻頭、主人公のラスコリニコフに語りかける酔漢マルメラードフの言葉。「学生さん、行き場がないということがどういうことか、わかりますか? さあ、ほんとうのはなしをしましょう、ほんとうのはなしを聞いてください!」
井戸川前町長の声に、マルメラードフの言葉が重なる。行き場がなく、ジャコランタンのように世界をうろついているのは、安倍首相だろう。井戸川さんは、29日の講演のあと病院に行かねばならないとわれわれに伝えた。「胸が痛くて、頭が痛くて、ふらふらしているんです」。大阪へもどって、テント応援団関西ニュースの原稿を送ってくださったM・Kさんは、署名用紙をもって、台湾へゆかねばならないと伝えてくれた。「日の丸原発」の建設凍結・解体運動と連帯するためだった。
ほんとうのことをいうことが、テントという形をとり、長い裁判のなかでの堅苦しい法律用語のやりとりになり…端的に言って、政治権力は犯罪を犯し、企業資本は、それに共犯して民衆を半殺しにしている体制は、旧日帝の軍事体制と位相的に変わらない。敵を殺せぬものは、味方に処刑される…これが軍事体制の本質的テロルの構造であろう。金をかしてくれた老いた弱者を殺してしまう、貧乏学生を生んでいるのは、母親ではなく、帝国の悪政にほかならなかった。人は、二度うまれる。一度は、母から。二度目は、環境から。ラスコリニコフは、なぜ、この悪政と闘わなかったのか? 彼の怒りの攻撃衝動のはけ口は、弱い女性の老婆だけだった。かれが滅ぼせるのは、弱い老いた女性だけだった。原発立地は、この老婆に似ている。
台湾の原発立地には、「ここが、日帝軍の侵略・侵入の場所」という記念碑があるそうです。経産省と文科省とあらゆる核開発の悪と白昼堂々闘うテントは、新しい時代のあるべきヒーローだと思います。それにしても、渕上さんは、ちと、やつれていましたが、心配です? テントを現場で支えるみなさんも、どうぞ、ご健勝にて! 1000日記念祭には、必ず、また、お伺いします。明日から、放射性廃棄物瓦礫焼却阻止などで不当弾圧されている韓基大さんの公判が始まります。双葉町前町長の強制避難のお話は、まったく、在日棄民政策の悪しき反復です。草々
もはやない家郷をきくや 卯月尽 のうみ