テント日誌6月26日 経産省前テントひろば655日目~そんな場所はあるのか…

テントひろばにやってくる道はそれぞれであろうが、私は大体のところ地下鉄である。それも千代田線が多い。改札口を出て地上に出るエレベーターを使うことが多いのだが、その手前に掲示板があって、「東京には 心が澄みきる 場所があります」というコピーが張り付けてある。なかなか洒落たコピーだと時々、目にとめる。テントひろばは心の澄みきる場所だよね、と独りごとが口にもれそうになるのだけれど、そんな場所なんてあるのか、と思いなおす。心の澄みきる場所といわないまでも、心が落ち着く場所だってないのだ。かつて高村智恵子は『東京には空がない』と呟いたが、心はなにか言い知れない不安におおわれていて落ち着く場所はないのだ。どこかしつくりこないというか、自分の場所も先も見えないということにあって政治もまたそれを象徴している。

テントに足を運ぶたびにこの執着は何かという自問をしているのだが、「権力と闘う快楽」を捨てられないのだというのが、今のその答えだ。これが心の澄みきることになるといいのだが逆に悩みを深まるだけだ。でも、悩みや混迷の意識から逃れられないというのが現在という時を生きている証なのだとも思う。

原発再稼働の動きが伝えられる。メディアもそれを疑いもせず、報道をするようになってきている。これは何故だ。何でこんな風に事態は進展するのか。考えれば考えるほど疑問は深まるばかりだ。科学のこと。その社会化のこと、既得権益のこと、日本の社会のこと、権力のこと、人々の意識のこと、一つ一つの問いかけが生まれ、答えのないままに疑念は深まる。納得する答えは出てこない。それが現状だが、問いから逃れようもない。

深夜に雨に煙る街をテントから眺めていると、どこか心が落ち着く気もする。信号機の発する青と赤の色が雨に濡れた道に鮮やかに反射している。反射しているというよりは、染み込んでいるというべきか。ブルーや赤の美しさと言うか、心に染みるような色合いに引き寄せられている。その交互に反射するようなきらめきを眺めていると心の無心状態になる。歌も口をついてである。自然にある種の回想に耽っていることもあるが、やはり、頭を離れないのはテントというよりは脱―反原発運動の今後のことだ。

こういう持久戦的な闘いの中で、私たちは様々な疑念に答え、自己問答を繰り返して行くしかないのであるが、一番の気になるのは運動がある種の停滞の様相を呈する時期をどう対応するのか、ということだ。この運動は持久力を持っており、裾野の広げてはいる。だが、全体的に見れば、運動はやはり停滞傾向にあり、それぞれが危機感を抱いていると思う。脱原発―反原発の運動は長い射程を持たざる得ない闘いであるし、先の見通しも描きにくい。そうであれば運動の波に心を動かされなくてもよいのかもしれない。一喜一憂しなくてもよいといえる。だが、運動が生きものであるように、人間の心は運動の動きにいろいろと反応する。それも当然のことだ。それで運動が停滞や孤立気味に感じられたときに、どうするかが問われもする。

多分、このとき自己の思想力が試されるように出てくるところがあるが、自己の内に向かって急進化するのではなく、心を開いて行くことが必要となるのではないか。運動に無関心のひと、離れてあるひと、批判的な人に批判や、敵対心を強めるのではなく、そこにある人のことを考え、その考えに向かっていくことである。敵体感ではなく、自分と違う考えに意識的に心を向け、接近することだ。自分を恃むのではなく、逆にあらねばならない。自分の考えに対象的になり、自由になっていくことと自分と違う考えに心を開いて行くことは同じである。

これは考え方であるが、脱原発―反原発の運動が自然な段階から意識的(自覚的)になった段階として大事なところではないか。これまでの多くの運動が停滞や孤立の時期に取ってきた傾向に陥らないことが、脱―反原発運動に要請されているのであり、自分たちの外にあるものに目を向け、自分たちを開いて行くことが大事ではないか。老婆心のようなことを言ってしまったが、自戒しているところでありそんな風に読んで欲しい。 (M/O)

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