テント日誌7月23日裁判傍聴記…第7回公判傍聴記4

経産省前テントひろば1047日 商業用原発停止308日

第7回公判傍聴記4

「風鈴をつけたくなるよね。」抗議パラソルの女性とそんなおしゃべりするくらい夏本番直前の太陽が照りつけていた。僕が今回初めて傍聴に来たのは、原発を廃止したい一心だけからではない。実は、化粧品サプリメントのDHCが、その会長の政治と金の関係を批判した複数のブログを名誉棄損で個別に訴えるという事件が起こり、そのうちの一つ『澤藤統一郎の憲法日記』ではこのスラップ訴訟に反撃するための弁護団が結成され、弁護士ではない僕もその支援運動に参加することにした。だから、同じように、テントひろばという表現の自由をつぶそうとする国家によるスラップが許せないのだ。

幸運にも抽選に当って中に入った。冒頭、傍聴の注意事項にかんして「笑ってしまうのはどうですか」という被告の質問に、裁判長は困ったような顔をしながらも「審理に差し支えなければ」とにこやかに答えていた。早く結審して判決を出せという原告の要求(第三回公判)には従わずに、この日も被告の意見陳述に多くの時間を割き、占有事実の認否をしぶる原告にたいして文書を出すよう注文するなど丁寧に審理を進めながら、決して上から目線ではない村上正敏裁判長の態度には好感がもてた。

初めての裁判傍聴だったので分からないことだらけだった。占有「権限」って何だろうと思って、後で調べたら占有「権原」のことだった。字が違う。「ある法律行為または事実行為を正当とする法律上の原因」のことだという。そして「占有の場合には、占有を正当とする権利にもとづかないときにもその権利は保護され、占有するに至ったすべての原因が権原となることに注意が必要である」とある(不動産用語集)。ああ、それで被告は、どうしてテントが立てられるにいたったのか、その理由を長々と述べているのかと思った(まあ、弁護団の人に聞いてみたわけではないので、僕の独り合点かもしれないが)。

もう一つ不思議だったのは、被告ばかりがしゃべって、原告がほとんど沈黙していること。なぜだろう。被告側は、毎回いくつもの原発批判の意見陳述をしているみたいだ。これにたいして原告は何の反論も意見も言わない。これは、原告が、被告のこの種の陳述を「原告の主張に対する法律上の主張ではない」として初回から異議を唱えているので、その後も無視を決め込んでいるのだろう。傍聴人たちの思いをしゃべってくれる代理人には拍手が起るけれど、この種のスピーチは、法廷じゃなくても、集会やデモでいつでも聴けることだ。ましてや、原告代理人にとっては蛙の面に小便だろう。原告との丁々発止の議論に勝つことを期待していた僕にとっては少々物足りないものだった。

もしかすると、審理で重要な出来事は、僕らの耳に心地よい雄弁とは別のところにあるのかもしれない。そう思ったのは、被告弁護人が第2第3テントの成立の経緯を説明して、被告2名がこれらのテントを支配しているわけではないことを述べたあとの、原告と被告の短いやり取りを聞いたときである。正確には思い出せないが、法廷で筆記したメモによるとおよそ次のようだった。

原告──被告は占有を否認するのか?
被告──第2第3については支配していない。第1は共同占有である。
原告──(発言内容を失念)
被告──原告の言う意味での占有ではない。
裁判長──ここ(準備書面)に書いてある20名とともに占有している?
被告──そうです。
原告──占有権原は主張するのか?
被告──主張する。
原告──いつまでに?
被告──占有事実の認否を待って主張する。
原告──合わせて主張できるのではないか?
被告──(占有事実の)認否・反論は原告がやるべき。
原告──もうすでにやっている。
裁判長──(原告にむかって)準備書面をお願いします。
原告──それは検討してから……。

「原告の言う意味での占有ではない」というのは、おそらく、先程述べた「占有権原」、つまり、賃貸契約などによる占有ではなく、占有するに至ったすべての原因による占有のことであろう。後半では、原告が占有事実の認否を書面で行なっていないことが明らかになった。おそらく、監視ビデオを出すと面倒なことになると思っているのだろう。原告は、早く結審しろと注文しておきながら、審理を遅らせているのは他ならぬ彼ら自身であることが暴露された瞬間だった。しかも、裁判長から書面を求められても「検討してから」と答える。原告代理人でありながら、省に持ち帰って上司に相談しなければ法廷で何も言えない。こういう無責任な態度は裁判官の心証に響くのではなかろうか。こういうやり取りがもっと見たかった。浅野弁護士は、報告会で、「なぜテントがあるのか(その法理)を組み立てるのはわれわれ弁護団の務め。しっかりやっていきたい」と抱負を述べた。期待しています。

本公判でも、被告側から本件訴訟が訴権の濫用にあたるとの陳述がなされた。毎回陳述しても終りにならないのは、日本には米国などのようなスラップ防止法がないからだ。あれば、国が国民の表現の自由を妨害するスラップ裁判など、とっくに門前払いされている。テントにしても上関にしても高江にしても、原発や米軍基地の是非をめぐる重要な公的議論が、どうして通行妨害や土地占有の瑣末な私的争議にすり替えられ、本当の問題が放置されねばならないのか。お金と時間と労力を無駄に費やして、裁判所だっていい迷惑だ。日本でもスラップ防止法を作るべきだ。

報告会では、福井地裁判決について河合弁護士の述べたことが興味深かった。樋口さん(裁判長)は賢い、科学論争の迷路に入らずに科学的だったと言うのである。例えば、基準地震動が700ガルであることが適当であるかどうかを論ずるのではなく、これまでに算出された基準地震動を超える地震が過去10年に5回もあったという事実をもって信頼に値しないと判断したことである。河合氏は、専門家の意見が分かれる科学論争に入り込むとキリがなく、多くの裁判所は結局権威に頼ってしまう、「僕らも反省させられた」「目を覚まされるところ大」だと語ったのであるが、われわれにとっても教えられるところ大である。

初回から傍聴してきた方の話によると、前回は都知事選の敗北もあって皆しょんぼりしていたという。今回は明らかに、5月21日の大飯原発差止めの福井地裁判決が大きな力になって勇気づけられている。また、当選確実視されていた原発容認の自公候補を卒原発候補が追い上げて破った7月13日の滋賀県知事選も大きい。人々がいかに一生懸命運動しても、選挙で政権を交代させなければ原発はなくならない。つぎの重要な選挙は、9月解散がなければ、次回公判から間もない10月26日の福島県知事選と11月16日の沖縄県知事選。勝たなくては。

報告会からの帰りに新宿に寄った。西口を出てルミネの角を曲がると、まだ明るい斜陽に照らされてあの歩道橋が見えた。梁の上に、めらめらとガソリンの炎に包まれる背広姿の影がいまも目に見えるような気がした。まるで何事もなかったように通りすぎる雑踏と幻影のギャップが、頭をくらくらさせた。僕は、ゆっくりと階段を昇り、あの人がどんな気持ちでここに来たのかを想像しながら、その歩道橋を一歩ずつ確かめるように往復してから駅に向かった。(了)

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 七夕祭り 8月2日(土)午後7時から約2時間
1) 講談「望郷桜」15ー20分
福島県双葉郡富岡町は昔から東北有数の桜の名所。しかし放射能に町を奪われ、人々は散り散りに避難していました。ところが埼玉県幸手市の権現堂公園には一本の富岡桜が育っていたのです。埼玉県内に避難している富岡町の人々が…
アマチュア講談師 甲斐織淳さん
3.11以来、田中正造の取材を始める。神田香織「チェルノブイリ」を聞いて入門、「田中正造伝」シリーズを自作自演で語る。
2) 音楽 浦邉力さん他の方々 約1時間半?
3) 飲食物: 素麺(新橋事務所で茹でて、冷やして持ってくるつもりです)、胡瓜、ほか。
リクエスト受け付け中。
4) 笹飾り 前日(8月1日)昼間に出します。金曜行動のみなさんにも見ていただき、短冊を書いていただくために。願い事を書くための短冊用紙は第1テント受付にお願いしてあります。 (H・Y)