耳慣れない言葉に出会ったとき、そこに時代の変化を感じとることがジャーナリストにとって重要でした。元朝日新聞記者として、このとき学んだことはいまでも大切にしています。
最近、出会った重要な言葉は「ディスインフォメーション」です。「フェイクニュース」とならんで英語文献に多く登場するようになった言葉です。もともとは「デズインフォルマーツィヤ」(дезинформация)というロシア語を英訳した言葉です。日本語で、「偽情報」と訳されたりしていますが、この翻訳は間違っています。この概念は情報の真偽だけにかかわるのでなく、「意図的で不正確な情報」という、情報の「正しさ」にかかわる概念として広範に理解すべきものなのです。
近年、より重要になっている概念であるにもかかわらず、ディスインフォメーションを論じた日本語の本がありません。そこで、わたしは400字換算380枚ほどの原稿を書き上げて、現在、出版社と出版に向けて協議中です。
このディスインフォメーションという視角から、今回の森友学園への国有地払い下げ問題を分析してみると、看過しえない重大事に気づきます。それは、安倍晋三首相がずっとディスインフォメーションを垂れ流しつづけているという問題です。その結果、日本の民主主義の屋台骨はすでに揺らいでいます。「意図的で不正確な情報」であるディスインフォメーションに基づいて、2017年10月に衆院選が行われてしまったからです。
わたしはその当時から安倍をDishonest Abeと呼ぶべきであり、Tシャツにこれを印刷してキャンペーンすべきだと書いたことがあります。そこで、この論考でも以下、Dishonest Abeと書くことにしましょう。やや感情的な議論になってしまうかもしれませんが、Dishonestな安倍を絶えず意識することでしか、かれの仕組んできたディスインフォメーションにはなかなか対抗できないからです。お許しください。なお、ここでの記述はすでにわたしの運営するサイト(http://www.21cryomakai.com/)で何度か取り上げたものに重複しています。関心のある方はこちらもぜひともお読みください(ここでの記述よりもずっと厳しく率直に書いています)。
Dishonest Abeによるディスインフォメーション
まず、Dishonest Abeが発したディスインフォメーション二つを確認しておきましょう。それは、2017年2月17日に衆議院予算委員会での民進党の福島伸享議員へのDishonest Abeの二度にわたる発言です。議事録にある安倍の言葉をそのまま引用してみましょう(日本のテレビ報道の多くが、安倍が複数回、同種の発言を繰り返していた事実を報道していません)。
「この事実については、事実というのはうちの妻が名誉校長になっているということについては承知をしておりますし、妻から森友学園の先生の教育に対する熱意はすばらしいという話を聞いております。
ただ、誤解を与えるような質問の構成なんですが、私や妻がこの認可あるいは国有地払い下げに、もちろん事務所も含めて、一切かかわっていないということは明確にさせていただきたいと思います。もしかかわっていたのであれば、これはもう私は総理大臣をやめるということでありますから、それははっきりと申し上げたい、このように思います。」
「繰り返しになりますが、私や妻が関係していたということになれば、まさに私は、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめるということははっきりと申し上げておきたい。全く関係ないということは申し上げておきたいと思いますし、そもそも、何かそういうことが動いているかのようなことを前提にお話をされると、この小学校に通う子供たちもいるんですから、こういうことはやはり慎重にちゃんとやっていただきたい、このように思います。」
この二つの発言はまさに「意図的で不正確な情報」であり、ディスインフォメーションそのものです。第一に、二度にわたって同じ趣旨の発言をしたこと、第二に、売り言葉に買い言葉といって感情の高ぶりのなかでの失言とは思えないことから、安倍が意図的に不正確な情報を国会の場で発したと推定できます。おそらくDishonest Abeは森友学園への国有地売却に少なくとも妻が「かかわっていた」ないし「関係していた」ことを知りながら、これを全否定することで、自らの潔白を強く印象づけようとしたのでしょう。あるいは、妻が「かかわっていた」ないし「関係していた」ことを知らないまま、とにかくこれを全否定することで、自らの潔白を強く印象づけようとしたのかもしれません。
なお、Dishonest Abeは2018年3月14日になっても、自分と妻が取引と無関係であると主張しています。しかし、これもディスインフォメーションです。「意図的で不正確な情報」そのものをいま現在も国会審議の場で垂れ流しているのです。
Dishonest Abeを追い詰めよ
Dishonest Abeを国会審議の場でぜひ、追い詰めてほしいと思います。そのためには、一年前の追及と大きく異なっている点について丁寧に問うが必要でしょう。
現時点で一年前と大きく異なっているのは、財務省の国会答弁がディスインフォメーションであっただけでなく、虚偽答弁であったことです。この新しい状況下で、財務省のいまの理財局長や近畿財務局長および過去の理財局長や財務局長に土地払い下げ取引に昭恵夫人が「一切かかわっていない」とか「全く関係ない」と言えるかを尋ねる必要があります。他方で、佐川宣寿や当時の財務局長に昭恵夫人部分の削除したものと削除前のものと違いを問い詰める必要があります。どちらの場合においても、改竄後の文書であれば、昭恵夫人が「一切かかわっていない」とか「全く関係ない」といえるかもしれませんが、後者であれば「一切かかわっていない」とか「全く関係ない」とはいえなくなると認めさせることがもっとも肝要なところです。
いずれの場合でも、昭恵夫人が「かかわっていた」、あるいは「関係していた」ことは確実であり、百歩譲っても、「全く関係ない」という情報は「不正確」であったことが改竄された文書と改竄前の文書を比較することでわかるはずです。この土地の貸付を認めるための「特例承認」の決裁文書のなかに安倍昭恵夫人の名前が三カ所あったのに、それをすべて削除する改竄が行われていたからです。夫人の取引への「関係」や「かかわり」を隠蔽するために改竄が行われたと考えるのが自然でしょう。ゆえに、安倍首相の発言はディスインフォメーションそのものといわなければなりません。
まあ、Dishonest Abeのことですから、ディスインフォメーションを流した事実をそう簡単には認めないでしょう。佐川を証人喚問しても、地検の捜査を理由に重要な話はしないでしょう。昭恵夫人は国会招致に応じないでしょう。そうであるならば、Dishonest Abeを証人喚問してはどうでしょうか。ここで紹介したことを同じことを聞くだけで十分です。「一切かかわっていない」とか「全く関係ない」という情報の根拠を徹底的に尋ねるのです。Dishonest Abeがどう詭弁を弄しても、第三者はそうは思わないという状況を提示して、なお「一切かかわっていない」とか「全く関係ない」といいつづけるのかも見どころですね。Dishonest AbeはDishonestゆえに、しらを切りつづけるでしょうが。
「安倍=プーチン」の怖さ
Dishonest Abeのディスインフォメーションは公文書改竄というかたちで近代国家の根幹を揺さぶりました。2018年3月15日発売の週刊文書によれば、今治市でも公文書が改竄されています。もうこの国では、なにを信用したらいいのかわからない状況になっています。おそらく加計学園に絡んでも公文書改竄が行われていたのではないかと思わざるをえません。最高権力者がディスインフォメーションを発信しただけで、つまり不正確な情報というだけでも、公文書を改竄してまで発信者を守ろうというのは独裁者に支配されると同じ構図です。法の遵守が徹底されていれば、改竄前の公文書を公開することでDishonest Abeのディスインフォメーションを白日のもとにさらすことができたのです。
ここで、ロシアのプーチンの話をしましょう。1999年当時、首相だったプーチンがとったのは、国内で連続爆破テロを起こし、それをチェチェンのテロリストのせいにして徹底的に弾圧することだったと強く疑われています。真偽はわかりませんが、「爆破テロはチェチェンのテロリストによる犯行だ」というプーチンの発言は「意図的で不正確な情報」と判断することはできます。なぜならリャザン市でのアパート爆破回避事件に連邦保安局(FSB)がかかわっていたことが事実としてわかっているからです。結局、プーチンはこのディスインフォメーションを流しつづけて、チェチェン弾圧を強め、国民の人気を集め、エリツィンに大統領後継者に任じられ、大統領選でも大勝しました。
日本では、Dishonest Abeがディスインフォメーションを流しつづけ、2017年10月には衆院選を実施しました。そして、自民党が圧勝し、憲法改正までが射程に入るようになっています。やり口はプーチンのそれときわめて似ています。国家のトップが「意図的で不正確な情報」を流しつづければ、それが虚偽であろうがなかろうが、そのディスインフォメーションが民主主義の大原則である相互信頼というバックグランドを破壊してしまうのです。そうであるならば、最高権力者がディスインフォメーションを垂れ流しつづけているという事実自体が厳しく批判されるべきでしょう。日本国のかたちを不正確な情報で変えようとしているのですから。
国会議員やマスメディアはDishonest Abeの正体を明らかにしてほしいと思います。国民を騙し、国民をなめ切った男、Dishonest Abeが政治家でありつつければ、それはプーチンの支配するロシアのように国家主導で国民の命さえ奪いかねない国に日本がなってしまうことにつながります。かれは言葉どおり、総理大臣も国会議員もやめるべきです、一刻も早く。
追伸 老婆心ながらもう一点だけ注意喚起しておきます。それは、今回の事件を通じて、いまなおDishonest Abeをかばったり、批判したりしない政治家や似非専門家がだれなのかをよく見ていていただきたいということです。芸能人がニュース番組の司会をするいまの現状を否定するつもりはありませんが、問題の本質を理解しないまま、電波を無駄にしている輩がだれかをよく見極めてほしいと思います。そして、だれが本質にまで迫ろうとしているかを見抜いてほしいと願っています。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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