ドイツから…最終処分をめぐる情報~高レベル放射性廃棄物最終処分場問題:第一歩は最終処分場選定のための法律制定から

原発から生じる高レベル放射性廃棄物の最終処分場については、2022年までに全原発の廃止を決めたドイツでも未解決の問題だ。4月9日にアルトマイヤー連邦環境相が最終処分場決定のための連邦・州政府、連邦議会・連邦参議院との間で成立した合意を発表した。このニュースについては日本でもいくつかのメディアで報道されたので、すでにご存知の方もおられるだろう。ここではこの合意に含まれる問題点を取りあげてみよう。

ドイツで核廃棄物の最終処理場というと必ずゴアレーベンという地名があがる。西ドイツ時代、1977年にニーダーザクセン州リュヒョウ・ダンネンベルク郡ゴアレーベンが地質学的、政治的理由で最終処分地に選ばれた。地質学的には、旧西ドイツの中で唯一、最終処分場に適すると思われる良質の岩塩層が存在しているのがニーダーザクセン州だったのだ。当時のアルブレヒト州首相(CDU=保守)は連邦政府から提案された候補地のうち、旧東ドイツとの国境から5キロのゴアレーベンを選んだ。同村は人口700人(当時)、農業と観光以外には産業がなく、失業率も全国平均を上回っていたため、抵抗が少ないと見たのである(ところが反対闘争は今も続いている!)。1981年にドイツ核燃料再処理会社の申請に対して州議会が中間貯蔵施設の建設を認可した。

連邦政府は1980年からゴアレーベンで試掘調査を開始した。探査を進めるうちに、深度850mの岩塩層への地下水浸潤の疑いも提起され、反対運動が激化。2011年11月にレトゲン連邦環境相(当時)は同地を最終処分地とする計画を白紙化するとの決定を余儀なくされた。

これを受けて改めて最終処分場の選定をするための模索が続けられてきたが、去る4月9日にアルトマイヤー連邦環境相はドイツ連邦政府や州政府代表、主要4政党代表などとの合意に達したとして、以下の点をあげた。

★  2031までに最終処分場建設の場所を決定する(決定は連邦議会、連邦参議院が行う)

★  環境団体や宗教組織の代表など24人の専門家委員会を作り、2015年末までに候補地を選ぶ基準を設定する。

★  最終処理分場を選定するための新たな法律7月5日までに連邦議会と連邦参議院で審議・決議する。

候補地については白紙の状態から検討するとしたが、ゴアレーベンは除外されていない。探査費用は電力会社が負担することとした。

しかし、この合意がスムーズに実現するかどうかは楽観出来ない。主な争点として以下の点があげられる(シュピーゲル・オンライン 2013.5.17付)。

<中間貯蔵施設>今後,英仏から戻って来る予定のカストーア(高レベル放射能廃棄物特殊容器)26個の部分的受け入れを表明しているのは社民党・緑の党が連立与党であるシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州、バーデン・ヴュルテンブルク州のみ。もう1州、引き受けてくれる州が必要であるが、ヘッセン、バイエルン(保守政権)は拒否している。この点が解決されないと合意出来ないと社民党、緑の党は表明(現在ドイツで原発が稼働しているのはこの4州のみ)。

<費用負担>放射性廃棄物を発生させ、ゴアレーベンで共同で中間貯蔵施設を運営してきた巨大電力企業はこれまでのやり方から離れることを拒否してきた。その理由として、ゴアレーベンとの協定と、他の場所にある中間貯蔵施設に送る場合に生じる費用をあげている。アルトマイヤー環境相はその費用は電力会社が負担すべきであると考えているが、彼の意見を貫くことが出来るか。連邦緑の党議員団団長のユルゲン・トリティンは「今後、ゴアレーベンに放射性廃棄物が送り込まれないよう、法律で禁じるべきである」と言っている。

<タイム・スケジュール>法律草案では最終処分場の選定は2031年までに終了していなくてはならないとされているが、ニーダーザクセン州環境相ヴェンツェルは「短かすぎる」と懸念を表明している。選定期限が近づくと、これまでに探査がかなり進んでいるゴアレーベンに決められてしまうのではないか、と考えているのだ。

専門委員会:社会の各界を代表する24名の専門委員は2015年までに最終処分場選定の基礎となる条件をあげなければならない。そのように大事な委員会であるが、誰が委員になるのか、まだ全く不明である。

委員会の半数は連邦・州レベルの党代表者で占められるが、残りの半数は科学者、環境団体、産業界、労働組合、教会などの代表者が考えられていた。環境団体は2団体の参加が想定されていた。自然保護団体グリーンピースはそのひとつとして有力視されていた。しかし、グリーンピースはこの構想でゴアレーベンが除外されていないことに批判的である。グリーンピースは「高レベル放射線廃棄物を地下で100万年も貯蔵するという最終処分場のやり方自体が問題」と確信しているからだ。結局、グリーンピースは委員会への不参加を表明した(taz 5月17日)。

ニーダーザクセン州東部のリュヒョウ・ダンネンベルクで反原子力運動を主導しているヴォルフガング・エームケ(日本にも来たことがある)は、計画されている委員会には一般市民社会の意向を取り入れようとする姿勢が見られないと批判した(dw、5月17日)。

すでに6月5日に第一回の会合が持たれたが、以上のような争点をアルトマイヤー連邦環境相が破綻なくクリアすることが出来るのか、楽観を許さない情勢である。果たして無事に7月5日の法案提出という第一歩に到達出来るのか、今後の動きにも注目して行こうと思う。

(注)ドイツは州が連合してつくる連邦制国家であり、各州はそれぞれ州首相、州政府をもつ。原子力に関する事項は本来連邦に属すが、「連邦委任行政」と呼ばれる制度によって、州に委任される形となる。ただし、州は、行政事務の執行に際して連邦の監督官庁の指示に従うことが必要とされている。 高レベル放射性廃棄物の処分場についても、その許認可当局は州の管轄官庁となる。ゴアレーベンで言えば、ニーダーザクセン州の環境省が許認可を行うこととなる。さらに、処分場の建設・操業については、BfS(連邦放射線防護庁)が監督を行うことになっている。(T.A)

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