ドイツの電力料金上昇の原因は本当に脱原発➞再生エネ促進にあるのか?(1)

「日本のメディアは昨年から、ドイツが脱原発に踏み切ったため、ドイツの電力料金が跳ね上がったと報道していますよ」と、ある日本の方が教えて下さいました。それで、ネットサーチをしてみたのですが確かに、そのような記事がありました、ありました。:
例えば...①産経ニュース(2012年11月4日付)‐ヘッドライン 「『脱原発ドイツ』の失敗 料金上昇 ツケは国民に」: (http://sankei.jp.msn.com/life/news/121104/trd12110412380003-n1.htm
②読売社説(2013年1月16日付)‐ヘッドライン「ドイツ『脱原発』再生エネ普及に高いハードル」 -:(注:リンクは削除されている。).....風力や太陽光など再生可能エネルギーの本格的普及へハードルは高い。日本はドイツの試行錯誤に学ばねばならない。 ...... ドイツは、2022年までの原子力発電所全廃を決め、「脱原発」を打ち出した。代替電力として再生エネに期待をかけている。 ......... 問題は、買い取り費用を上乗せするため、電気料金の引き上げに歯止めがかからない点にある。.........アルトマイヤー独環境相は昨年10月、固定価格買い取り制度の欠点を認め、 再生エネ政策を抜本的に見直す方針を表明した。制度は大きな岐路に立たされている。 ......などです。

ドイツでもメディアが「国内の電力料金上昇」について論評したり報道したりしています。そして最近になって、「電力料金上昇にブレーキを!それには再生可能エネルギー助成金を削減!」と、盛んに叫びだしたのがアルトマイヤー連邦環境大臣です。緑の党や環境保護団体は「エネルギー転換」の重要性を唱え、アルトマイヤーの助成金削減案に対して反対の意を示しています。今年の9月には連邦議会選挙がありますが、その選挙戦の争点が「エネルギー」になることは、いずれにせよ間違いないようです。

果たして本当に、ドイツにおける電力料金上昇が再生可能エネルギー促進のコスト高に起因するものなのか?-筆者は、メディア、環境保護 団体からの情報・資料を手がかりに「ドイツの電力料金上昇の実態」を探っていきたいと思っております。

アルトマイヤー連邦環境大臣ドイツにおける電力料金上昇の責任は再生可能エネルギー助成金にある!
数日前、ドイツの反原発団体「.ausgestrahlt」から送られてきた「2012年-何が我々を行動させたか」と題されたパンフレットに目を通していましたところ、「Twitter-Welle(Twitterの波)」と呼ばれる記事に目が留まりました。記事には、彼等のTwitterアクションについて簡単に報告されていました。:

「2012年6月、何百人ものTwitterユーザーがペーター・アルトマイヤー環境相にTweet し、『未だに稼動中の9基の原発が、これからも我々を危険に曝していくではないか』と警告した。:

-『.ausgestrahlt』のあるアクティビストからのTweet: 『親愛なるペーター・アルトマイヤー環境大臣、どうして貴方は私をこれから10年もの間、ズーパー・ガウ(想定可能な超大規模の事故)の危険に曝したいのですか?(ドイツの脱原発は2022年に完了の予定)』

-アルトマイヤー環境相からの返答Tweet: 『ズーパー・ガウについてTweetしたきた全ての諸君へ: 私は2022年までにエネルギー転換を為し遂げようと全力を挙げて仕事をしているのだ。君達のアクションはエネルギー転換にとって何の役にも立たない。』 」

さて、本当にアルトマイヤー氏は、彼がTweetで断言したように、エネルギー転換を為し遂げるために全力を挙げて仕事をしているのでしょうか?
これには大いに疑問の余地があると私は思います。。何故なら彼は、「ドイツの電力料金上昇の責任は再生可能エネルギー促進にある」として、ドイツにおけるエネルギー転換をスローダウンさせようとしているからです。エネルギー転換が遅くなれば、脱原発への進行スピードが緩まり、それだけ現在ドイツで稼動中の9基の原発の稼 動期間寿命が延びることにな ります。これは原子力産業・電力会社にとっては恰好のグッドニュー スとなります。

ペーター・アルトマイヤー環境相 (写真 : dpa, Marcus Brandt)

現在、ドイツでは、アルトマイヤー環境相(CDU党‐ドイツキリスト教民主同盟)が「電力料金上昇にブレーキを!」と謳われたキャンペーンを掲げながら、威勢よく闊歩しています。彼の言い分は、「電力料金上昇にブレーキをかけるための解決法」は→ 「再生可能エネルギー開発の援助金(買取り固定価格)を削減すること」にあるとしています。彼はロェスラー産業相(FDP党-自由民主党)の賛同も得ることに成功し、アルトマイヤー&ロェスラー団結のキャンペーンチームを結成しました。

このような「グリーンエネルギー助成金をカットし再生可能エネルギー開発をスローダウンしようと企む」アルトマイヤー環境相の提案を、ドイツの環境保護団体は厳しく批判しています。ドイツの環境保護団体のひとつであるBUND(ドイツのFrineds of the Earth )は下記のようなコメントをニュースレターに書いています。:

「ペーター・アルトマイヤー環境大臣はロェスラー産業大臣と、所謂「電力料金上昇にブレーキを!」に合意した。この提案は「電力料金上昇にブレーキを」との素晴らしい名称で売られているが、実際には再生可能エネルギーの助成金を削減し抑え付けることを目的としている。しかも、この事は前言の取り消しとなる。

これは、エネルギー転換と再生可能エネルギーの拡張、そして各々の地域で再生可能エネルギー開発を進めている市民に対する攻撃である。電力料金を値下げするための方法は、この「電力料金上昇にブレーキを」の提案以外にある。例えば、下がってきている電力取引価格を更に消費者まで廻すことで ある。電力料金上昇制 止のために再生可能エネルギーにブレーキをかけてはならない。

アルトマイヤーとロェスラーの計画の裏には何か別のものが潜んでいる。事実は、彼等が古くからのエネルギー産業の利益のために仕えていることである。何故なら、4つの大手電力会社は全ドイツの再生可能エネルギー発電設備の7%も所有していないからである。ドイツにある殆どの再生可能エネルギー発電設備が、地域の市民によって経営されている。繁栄する再生可能エネルギーの市民達が年老いたジャイアンツ電力会社からビジネスを奪い取ってしまっているのである。それだから、今すぐ再生可能エネルギー促進が弾圧されなければならないのである。」

更に、ドイツ経済研究インスティチュートのエネルギー専門家、ケムフェ ルト氏は 、「電力料金上昇の責任は政府の悪いマネジメントにある。何十年もの間、将来を見越したエネルギー政策が施行されなかった。」と、連邦政府に対してのクリティカルな見解を示しています。短い記事ですが「ディ・ヴェルト新聞オンライン」に彼女の論評が掲載されています。

原文へのリンク:http://www.welt.de/newsticker/news3/article113157471/DIW-Energieexpertin-Politik-verantwortlich-fuer-Strompreissteigerung.html

ディ・ヴェルト (Die Welt)新聞オンラインニュース(2013年1月27日付)

概説:ドイツ経済研究インスティチュート-DIWのエネルギー専門家:電力料金の上昇は政治に責任がある。「グリーン電力は何れにせよ財政的破綻をきたす原子力よりは安い。」

*ドイツ経済研究インスティチュート(DIW-Deutsches Institut für Wirtschaftsforschung)のエネルギー専門家であるクラウディア・ケムフェルト氏は電力料金上昇の責任は政治にあるとしている。彼女は「ビルト・アム・ゾンタグ(Bild am Sonntag)」新聞の「ゲスト論評」にこう書いている。:「ドイツ政府は、激しくなってきた「電力の闘争」を偽りや作り話によって煽り立てるのをやめるべきである。グリーン電力は、いずれにせよ財政的破綻をきたす原子力よりは安い上、ドイツの経済力への投資にもなる。」 彼女は更に:「電力料金が上がること。この責任は脱原発にあるのではなく、政府のマネジメントの悪さ、市場競争が余りにも少ないこと、電力会社の得る高利益、グリーン電力賦課金の消費者分担法が誤っていることにある。」とも述べている。

エネルギー専門家であるケムフェルト氏は、**原子力が嘗ては国によって財政援助されていたのだが、今日においては消費者が直接、グリーン電力のための援助金支払いをしなければならないということを指摘している。「何十年もの間、将来を見越したエネルギー政策が施行されなかった。」とケムフェルト氏は書いている。更に彼女は「このような自分達の失敗をカモフラージュするために、政府はグリーンエネルギーに罪を着せている。そして結果として生じたコストは、好都合にも消費者に負担させることにしている。」とも述べている。

「電力料金値上げにブレーキをかけることを可能にするためには:①市場競争の強化、②エネルギー転換をもっと効率よく管理すること、③税金(電力料金に加算される付加価値税と電力税)を下げることが必要である。」とケムフェルト氏は言う。

以上

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*ドイツ経済研究インスティチュート(DIW 《Deutsches Institut für Wirtschaftsforschung》):ベルリンにあるドイツで最大の経済研究機関。1925年にErnst Wagemannによって景気循環研究インスティチュート(Institut für Konjunkturforschung )として創立されたが、数年後に「ドイツ経済研究インスティチュート(Deutsches Institut für Wirtschaftsforschung)」と変名された。独立した研究機関として公共の利益を目的とし、経済学分野における応用研究や経済政策の助言を行っている。(インフォメーションーWikipediaより)

**実際には原子力は現在も、国(即ち税金)から財政援助を受けており、援助金額は消費者用の電力料金には含まれていない。国からの援助金によって、例えば①核廃棄物最終貯蔵施設探し及び設置のコスト(ドイツには所謂「核廃棄物最終貯蔵施設」はない。)、
②問題多きアッセ核廃棄物貯蔵施設のクリーンアップ・コスト③閉鎖された原子力発電所の廃炉コストなどが賄われることになる。

…..to be continued……(次回は、BUNDなどの資料を基にお話を進めていきたいと思っております。)

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye2202:20130304〕