はじめに
8月5日、1938年から1958年までに生まれた、ベルリン、ヴァイマル、エアフルト、ゲーラ、ライプツィヒ、ドレスデンに住む50人の市民がショルツ独首相に「平和を維持することに全力を尽くしてほしい」と嘆願する公開書簡を出した。彼らは書簡の中で、自分たちが体験した戦時中/戦後の苦しみを二度と自分たちの子どもたちや孫たちに味わわせたくないと、ショルツ首相に強く訴えている。
なぜ、第二次大戦後の79年という間、「もう二度と戦争をしない![Nie wieder Krieg!”」という教訓を心に深く刻み、平和を維持することに尽力してしてきたドイツであったはずなのに、今のドイツは、世界大戦の再発の可能性を深く懸念しなければならないような国に変貌してしまったのか?
それには様々なファクターがあると思う。 ファクターの一つは、ドイツがウクライナ紛争に巻き込まれ、ウクライナに兵器を供与していることである。最近、ドイツ政府は国家予算不足(事実上、火の車)のため、もうウクライナへの兵器供与は止めると述べた。しかし、米国のお叱りを受けたのか、その後、「いや、ドイツは今後も兵器の供与・援助金を続けるつもりだ」と、その発言を訂正している。 ちなみに、ドイツでは兵器を紛争地域に供給することは法律で禁止されているのである。しかし国内で、そうした政府の法律違反行為にチャレンジするような法律専門家はいない。
さらなるファクターの一つとして、書簡の中で50人のドイツ市民が言及しているように、7月のNATO首脳会議の傍らで、米国とドイツが20年以上中断していた米軍の長距離兵器を2026年から再びドイツに配備し始めていくと発表したことがある。それらの兵器の中には、射程2,000キロを大幅に超える標的を攻撃できるトマホーク・ミサイルや、まだ開発中の極超音速兵器も含まれるという。ドイツ政府は、これらの兵器の配備はロシアの脅威に対する抑止力となると主張しているが、ミサイルの発射権限は米軍にあり、これでは、ロシアからの先制攻撃や報復攻撃があった場合、ドイツにいる子どもたちばかりでなくすべての人々が標的にされてしまうと、反論する市民もいる。
私は、この50人のドイツ市民による書簡について独立系メディアを通して知った。彼らは、この書簡をドイツのマスメディアに送り、ぜひ公開してくださいとお願いしたのだが何れのメディアも取り上げてくれなかったようだ。
私は、ドイツには、戦争/戦後の苦難を体験されたが故に平和維持を心底から渇望し、ショルツ首相に書簡を書くという勇気ある行動をとられた、尊い方々が存在するということを、ぜひ皆さまに知っていただきたいと思い、この書簡を和訳させていただいた。
原文へのリンク:https://www.nachdenkseiten.de/?p=119807#h03
書簡原文へのリンク: http://www.wollekamm.de/
さらに、ドイツで第二次大戦/戦後を体験した子どもたち[Kriegskinder]の姿をとらえたイメージをご参照ください:
1945年、ベルリンの学校で:水のように薄められたオートミールの配給を待つ少年たち− 裸足の子もいる [Source: r/HistoryPorn]
ニュルンベルク 1946年、廃墟に立つ子どもたち
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名も無い市民たちからドイツ連邦首相にあてられた公開書簡
連邦首相府
オラフ・ショルツ連邦首相
Willy-Brandt-Straße 1
10557 Berlin
2024年8月5日 ヴァイマルにて
親愛なる連邦首相閣下、
私たちは、子ども時代に、第二次世界大戦終期に何ヶ月も続いた飢餓や、その後の苦難の年月を体験した世代の一員として、あなたに書簡を書いています。 いまだに、私たちの目には、自分たちの父親や、手足を切断された多くの男たちの姿が浮かび上がります。私たちは、「戦場に残されたままとなってしまった」父親を持つ、遊び仲間のことを思い浮かべます。 私たちは街の廃墟で遊んだことや、戦争と避難の生活に追われたがために精神的外傷を負った両親の姿を想い出します。 私たちは恐れています!
私たちは、世界大戦が再び発することによって、私たちの子どもたちや孫たちが身体障害者となって帰還することや、もう二度と帰還することができなくなってしまうこと、そして、今度は再び、彼らの子どもたちや孫たちが爆弾穴で遊ぶようになることを恐れています。私たちは我が国のことを恐れているのです! 私たちは、「二度と戦争をしない!」という不可欠な主義とともに育ってきました。 この格律は、「冷戦」中の危機をはらんだ脅威の中で、平和を維持するための外交努力へと導くものとなりました。
首相閣下、あなたはドイツが戦争に巻き込まれないようにするために全力を尽くすということを約束されました。 私たちは、あなたがこれまでタウルス空中発射巡航ミサイルの供給に反対し、約束を守ってこられたことを高く評価しています。しかし今、ロシアに対する脅威として、米国からの「遠方に達する射程距離の兵器システム【訳注:トムホーク巡航ミサイル】」が、 ー 連邦議会によって決定されることもなく、ドイツ国民に尋ねることもなくー ドイツに 配備されようとしています。 これにはNATOによる決定さえもないのです。 必要な軍備管理の代わりに、今や、ドイツがヨーロッパにおける戦争の中心舞台となる危険性を孕んだ、新たな軍備競争が始まろうとしています。
あなたが、社会民主党(SPD)の政治家として、この非常に危険な米国の決定に賛成していることに、私たちは唖然としています。 私たちは、ヴィリー・ブラントの平和維持路線に戻るようにと、あなたにお願い申し上げます。ウクライナや世界中で起きている殺戮を終わらせるために、あらゆる外交手段を駆使してください。 利害の均衡を重要視し、世界大戦へと導く可能性のあるドイツ兵器の供給を禁止し、米国の長距離ミサイルの配備を阻止してください!
平和の首相となってくださるよう、お願い申し上げます!
敬具
ヴォルフガング・カメレル(76歳)編集者、ヴァイマル
書簡に署名した人たち:1938年から1958年までに生まれた、50人のヴァイマル、ベルリン、エアフルト、ゲーラ、ライプツィヒ、ドレスデンの市民たち
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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