ドイツ緑の党の躍進に寄与したスウェーデン少女とドイツ青年の訴え

欧州議会選挙で躍進したドイツの緑の党 (Bündis 90/Die Grünen)

5月26日にドイツで行われた欧州議会選挙で緑の党が躍進したことは、もうすでに多くの方々がご存知のことだろう。選挙結果をざっと見てみると:キリスト教民主同盟(CDU)は、得票率においては、相変わらず首位を占めたのだが、今回の選挙で得た得票率は22.6%と、前回の2014年選挙と比べると【マイナス7.4ポイント】という冴えない結果であった。さらに、今まで長年の間、第2位にランキングしてきた社会民主党(SPD)が第3位に落ち込み、彼らが得た得票率は15.8%と、前回選挙に比べて【マイナス11.5ポイント】という惨敗ぶりであった。そして、ドイツ社会民主党を追い越して第2位に躍り出たのが、ドイツ緑の党 (Die Grünen) であった。緑の党が獲得した得票率は20.5%、前回選挙に比べて【プラス9.8ポイント】という躍進ぶりを示している。(参照:下のPDF「2019年欧州議会選挙結果ー党派別の獲得得票率と前回選挙との比較」)

そして、選挙から3ヶ月ほど経った今も、緑の党の人気は上昇中であり、“Infratest dimap“インスティチュート“が行った8月1日付の世論調査によると、緑の党の支持率が26%と、CDU/CSUの支持率・26%と肩を並べて、第1位にランキングしている。

 

その背景と要因

今回の欧州議会選挙における緑の党(派)の進出は、ドイツばかりでなくEU全体のトレンドとなった。(EU全体の選挙結果:緑の党派の得票獲得率は2014年の選挙結果と比べてプラス3.19ポイント)

その要因の一つとして挙げられるのが、環境問題、とくに地球温暖化問題〈*注1〉を深刻に懸念するヨーロッパ市民が増えてきていることである。

 

《 ファクター No.1: スウェーデンの少女・グレタ・トゥーンベリ さん 》

気候問題を懸念する人々が増加してきている背景には、「地球温暖化問題を深刻な危機として捉え、訴えていかなければならない」と、たったひとりで立ち上がり、抗議行動を起こしたスエーデンの16歳の少女・グレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)さんの存在がある。グレタさんは、2018年の夏にスウェーデンで起こった記録的な熱波と山林火災を重大な気候危機として受けとめ、その年の8月20日、9月9日に行われる総選挙まで学校に通わないと決心し、スーウェーデン国会の前で座り込みを始めた。彼女は政府に「パリ協定を遵守する意味で二酸化炭素排出を削減すること」を要求した。総選挙が終わった後も、彼女は引き続き毎週金曜日に学校ストライキする抗議行動を続行した。

そして、彼女がパイオニアとなって始まった「気候変動問題のための学校ストライク」運動の波は、 ”#Fridays For Future”として世界中の学校の生徒たち/若者たちの間で広がっている。〈*注2〉

グレタさんは述べる:「多くの人々は『気候変動問題』とは単なる意見にすぎない、と言っていますが、そうではありません。『気候変動問題』は『事実』なのです」と。 〈*注3〉

CC BY-SA 4.0 ストックホルム、2018年8月:スウェーデン国会の前で、抗議するグレタ・トゥーンベリさん(当時15歳)。彼女が掲げるプラカードには「気候変動問題のための学校ストライク (Skolstrejk för klimatet)」と書かれてある。

 

欧州議会選挙直前の金曜日にヨーロッパ各地で実施された学校ストライク ~

CC BY-SA 4.0  5月24日にドイツのライプツィヒで行われた”Fridays For Future”デモ

〈生徒たちが掲げるバナーには「わたしたちは学校をサボっているのではない。(気候問題)と闘っているのだ (Wir schwänzen nicht, wir kämpfen)」と書かれてある。〉

2019年の欧州議会選挙を寸前に控えた5月24日の金曜日、ヨーロッパ各地の学校の生徒たちが連帯し「気候変動の危機」を訴える「Fridays for Future – 学校ストライク」を一斉に行った。学校ストライクの目的は:まだ投票権を有しない生徒たちが、これから欧州議会選挙の投票に臨む大人たちに「気候変動・地球温暖化によって深刻なインパクトをもっとも受けるのは、まだ投票する権利を持っていない、わたしたち若い世代であり、その後の世代である。今こそ、わたしたちも大人もこの問題に真剣に取り組むべきである。『気候変動の危機』を有権者たちは『緊急問題』として捉え、よく考えた上で、この『緊急問題』に真剣に取り組んでくれる(と思われる)政党に投票してほしい」と、訴えることであった。その日には、わたしの住む小さなコミュニティーでも、およそ800人の生徒たちが「気候変動の危機」を訴える学校ストライクを行った。

スウェーデンの少女が、たったひとりで始めた「気候問題にチャレンジする抗議運動」がヨーロッパ市民の間でも共感を呼び、勢いを増し、世界的なムーブメントへと発展していっている。

このムーブメントが、今回の欧州議会選挙における”緑の党派” の進出に寄与した要因となっていることは否定できない事実である。

 

《 ファクター No.2: ドイツのYoutuber・レゾ 氏 》

5月26日の欧州議会選挙の2日ほど前だったと思う。連れ合いから「これ絶対にみるべき!」とのメッセージ付きで、「die Zerstörung der CDU (CDUの破壊)」と題されたYoutubeビデオのリンクが送られてきた。早速、リンクをクリックしてみたところ、驚いたことに、その時点で、このビデオを観た人の数が何と「7百万人以上」と、なっていた。ちなみに、その後、視聴者の数はさらに増え、現時点で、1500万人以上と表示されている。〈*ビデオ「CDUの破壊」(独語)へのリンク:https://www.youtube.com/watch?v=4Y1lZQsyuSQ

「CDUの破壊」ビデオは、5月26日にドイツで行われる欧州議会選挙の一週間とちょっと前の5月18日にYoutubeに公開された。この公開日のタイミングは、明らかに、「このビデオで、これから欧州議会選挙で投票しようとする有権者の投票行動にできるだけ大きなインパクトをもたらしたい」との製作者の目論みがあったことを示唆している。

そして、彼らが目論んだ通り、このYoutubeビデオは、選挙前には、すでに7百万人以上の視聴者を獲得し、メルケル政権批判の旋風を吹きまくり、CDUを慌てふためかせたのだった。南ドイツ新聞オンラインの報道によると、CDUは「CDUの破壊」に反論するビデオを製作したのだが、それを公開することは止めて、その代わりに抗議文を書いたPDFをネットに公表した、という。「CDUの破壊」は、CDU側に反論の余地を与えなかったのである。

「Die Zerstörung der CDU (CDUの破壊)」のプレゼンターは、レゾ(Rezo)と呼ばれる、若者の間で人気のあるユーチューバーで、髪をブルーに染めた26歳の青年である。

CC BY 3.0  ドイツのYoutube・レゾ氏

レゾ氏は、「CDUの破壊」というショッキングなタイトルについて、こう説明している:「『CDUの破壊 』とは、自分が能動的にCDUを破壊するということではない。CDUの政治姿勢やCDUがこれまで打ってきた政策が、CDUの評判を破壊し、選挙結果にも影響を及ぼすことになるのだから、結局のところ、CDUは、自分たちが蒔いてきた種で自分たちの政党を破壊することになるのだ」と。

さらに彼は、ユーモアと皮肉を混えながら、熱を込めた口調で、「メルケル政権が、これまで(14年間)に行ってきた政治のどこに問題があるのか」を具体的に指摘する。〈*注4〉 レゾ氏のアーギュメントは、実際のデータ・記録・録画をベースにしているので説得力がある。

レゾ氏が指摘するキーポイントは:

★ メルケル政権の統治下において、所得格差/収入不平等がますます拡大され、社会的流動性が減退した。

★   ドイツ政権はアメリカに従属している:ドイツ西南部にあるラムシュタイン米空軍基地を中近東に向けて発射させる無人戦闘攻撃機(ドローン)の中継地として使わせている。これは国際法違反である。

★ 「メルケル首相の虚言」を2002年と2016年のビデオ録画を見せることで証明: 2002年、当時ドイツ連邦議会議員だったアンゲラ・メルケルはイラク戦争を支持することを言明した。にもかかわらず、2016年7月の記者会見でメルケル首相は、「わたしは絶対に戦争を支持しません。わたしはイラク戦争にも反対したのですから」と虚言した。

★   メルケル政権は、地球温暖化の最大要因となっている「石炭による発電」の停止を2038年までになしとげる、と決定したが、これではあまりにも遅すぎる。地球温暖化問題は緊急問題なのである。ドイツ政府は地球温暖化を防止するために真剣に取り組んでいない。

★   メルケル政権は、地球温暖化・気候変動を防止するために最も効果的な対策である「再生可能エネルギーの促進」を故意にサボタージュしている:政府が打ち出した政策のために、太陽光発電などの再生可能エネルギー産業が破壊され、およそ8万人の人々が職を失った。一方、メルケル政権は、「石炭産業に従事する約2万人が職を失うのを防ぐために、石炭発電をすぐに停止することはできない」と主張している。

★  ビデオの終わりにレゾ氏は、緑の党か左翼党に投票することを薦めている。

レゾ氏は、55分間のビデオの中で、とくに「地球温暖化問題」の緊急性を指摘している。彼は、ドイツのニュース週刊誌 デア・シュピーゲル(der Spiegel)とのインタビューで「僕と16歳の気候問題活動家のグレタ・トゥーンベリさんは、気候問題にチャレンジする新世代アクティビストのリーダーです」と語った、という。

ドイツ公共放送局”tagesschau“が公表した欧州議会選挙に関するデータは、今回の選挙で緑の党に投票した有権者の34%が、18歳から24歳までの最も若い年齢層であったことを示している。また、緑の党投票者の83%が、18歳から44歳までの年齢グループに属している。(参照:下のPDF「年齢層別にみた緑の党投票者の割合」)すなわち、今回の選挙で緑の党を支持したのは、圧倒的に若い人が多かったのである。

おそらく、レゾ氏のフレッシュでシャープな与党批判が、多くの若者たちの思考を促し、環境意識をさらに高めさせ、政治参加することの重要性を認識させることになったのだろう。今回のドイツにおける欧州議会選挙の投票率が61%と、前回の選挙の投票率(48.1%)よりも12.9パーセントポイント高かったことも、人々の政治参加意識が高まったことを示唆している。

こうして、欧州議会選挙の一週間とちょっと前という、タイミングを見計らって、ネットに公開されたレゾ氏の「CDUの破壊」ビデオが、欧州議会選挙における有権者の投票行動にインパクトを与え、「CDUや社民党の後退」や「緑の党の進出」に寄与する要因となったことは、疑いのない事実である。 

今、気候問題は重大な政治問題に

「わたしたち若い世代は緊急に気候問題に取り組まなければならない!」と、訴えるグレタさんの心からの叫びに共鳴し、行動する若者たちが次々に現れ、気候問題は、環境意識の高いドイツ市民にとって、重大な政治問題となった。「緑の党だったら環境保護のために闘ってくれるに違いない」と、人々は期待を懐き、緑の党に投票したのだった。それだからこそ、緑の党は躍進することができたのである。欧州選挙における進出は、緑の党にとって「棚からぼたもち」のようなものだったのだ。

緑の党は、この事実を謙虚に受けとめ、環境問題に真剣に取り組み、若者たちの期待に応えていかねばならない。そして、ドイツ市民は、緑の党が、これから、 ”口先だけでなく実際に”、どのような政策を打ち出していくのか、彼らの動きをしっかりと監視していくべきである。

PS ここで、この原稿を書き終えようとしていたところ、あるニュースが目に入った。フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトングの オンライン記事によると:ドイツ連邦議会・緑の党議員であるケルスティン・アンドレア 女史がドイツ・エネルギー産業連合( Energiewirtschaftsverband)の会長に就任した、とのことである。環境/気候問題を解決するために、今後、エネルギー産業と立ち向かっていかねばならないはずの緑の党の政治家が、エネルギー産業のロビイストとなったのである!!! Is there any hope ???

以上

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〈*注1〉地球温暖化:地球温暖化の原因となっているガスには様々なものがある。なかでも二酸化

炭素はもっとも温暖化への影響度が大きいガスである。産業革命以降、化石燃料の使用が増え、その結果、大気中の二酸化炭素の濃度も増加している。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書(2014)では、このままでは 2100年の平均気温は、温室効果ガスの排出量が最も多い、最悪のシナリオの場合には最大4.8℃上昇すると発表した。[ ソース:全国地球温暖化防止活動推進センター   ]     さらに、IPCCの第4次評価報告書の第2作業部会(WGII)は、地球温暖化が、気温や水温を変化させ、海水面上昇、降水量の変化やそのパターン変化を引き起こし、洪水や旱魃、猛暑やハリケーンなどの激しい異常気象を増加・増強させ、生物種の大規模な絶滅を引き起こす可能性があることを指摘している。

〈*注2〉”#School Strike for Climate“/ ”#Fridays for Future“ :グレタ・トゥーンベルさんが創始者となって国際的に広まった学校の生徒たちによる運動。生徒たちは(主に金曜日に)学校に出席しないで、地球温暖化と気候変動を防ぐためのアクションを要求する抗議運動に参加している。[ソース:Wikipedia ]

〈*注3〉グレタさんのコメント「気候変動は意見ではなく事実である」: ソース:英国のTV番組Channel 4 ニュース でのインタビュー

〈*注4〉「CDUの破壊」:レゾ氏は「CDUの破壊」と呼んでいるが、レゾ氏の批判対象は、CDU(ドイツ・キリスト教民主同盟)だけでなく、CDUと与党を組むCDUの姉妹政党・CSU(キリスト教社会同盟)及びSPD(ドイツ社会民主党)も含まれる。

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参考資料:

–       2014年欧州議会選挙結果:   https://election-results.eu/european-results/2014-2019/constitutive-session/

–       2019年欧州議会選挙結果:   https://election-results.eu/european-results/2019-2024/

–     Frankfurter Allgemeine Zeitung記事:https://www.faz.net/aktuell/wirtschaft/die-gruenen-kerstin-andreae-wechselt-zum-energieverband-bdew-16318891.html

https://chikyuza.net/wp-content/uploads/2019/08/73c66c66c2b3df4d75757e719f9dcd94-1.pdf

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/

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