ドイツ連邦議会選挙が終わって:連立政権形成に向けて政党間の交渉が進行中

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選挙キャンペーンが始まった時点では、あまりパッとしなかったショルツ氏が、キャンペーンが進行していくうちに支持者を増やしていった一つの要因は、ベアボック氏とラシェット氏が失態を演じたのに対して、ショルツ氏には、そうした際立った失敗が見られなかった、という冴えない事実にある。

 《ベアボック氏とラシェット氏が演じた失態》

▷ ベアボック氏の場合

ベアボック氏は緑の党を代表する女性の首相候補者として華々しくスタートした。彼女は、40歳というフレッシュな首相候補者ということでメディアの注目を集め、人気も上昇していった。しかし6月になって、ベアボック氏が自分自身の経歴を詐称していたことが明らかになった。それと同時に、緑の党の支持率は下降し始めた。

さらに、ベアボック氏が出版した「Jetzt: Wie wir unser Land erneuern (今:私たちはどのようにしてドイツを再生させるか – 仮訳)」と題された本に問題が生じた:

彼女が、他人の書いたテキストを“Copy&Paste”して、それをそのまま自分の著書に掲載していたことが明るみになったのだ。オンライン・メディア “Der Tagesspiegel” によれば、ベアボック氏の著書の中に、盗用(Copy & Paste)されたテキストが、少なくとも29箇所あるという。 すなわち、ベアボック氏は、他人が書いた文章をそっくりそのまま引用していたのにもかかわらず、それらを引用文として紹介せず、引用文のソースや著者の名前を明記することを怠ったのである。こうして、首相候補者・ベアボック氏に対する市民の信頼度は減少し、緑の党の支持率は下降していった。

▷ ラシェット氏の場合

ベアボック氏の支持率が下がると、今度はCDUのラシェット氏の人気が上昇し始めた。

ところが、ラシェット氏は首相候補者として致命的とも言える失態を演じたのである:

7月17日、ラシェット氏は、ドイツ西部で起こった大洪水で多くの死者を出し、甚大な被害を被った被災地を訪問していた。 その際、シュタインマイヤー大統領が取材していた記者団に向かい、大洪水の被災者たちに同情の念を示しながら話をしていた時だった。その後ろの方で、周囲の人たちと談話しながらニタニタ笑っているラッシェット氏の姿があったのである。そしてビデオ・カメラは、その瞬間を見逃すことなく、しっかりととらえていたのだった。「ラシェット氏が笑ったのは不謹慎な振る舞いだ」との批判がメディアやソーシャルメディアの間で飛び交った。あるメディアは、この、ラシェット氏の笑う瞬間をとらえた写真を「致命的な写真 (Ein fatales Bild)」と呼んだ。

事実、この笑いは、首相候補者としてのラシェット氏にとって致命的なダメージとなった。その後、CDU/CSUの支持率は下降していった。

▷ CDU/CSU支持率が下降したその他の要因

CDU/CSUの支持率が下がった要因として他に挙げられるのは、”マスク・スキャンダル”である:

3月、シュパーン独保健相がマスク調達で利益供与していた疑いが浮かび上がった。シュパーン氏の夫*が幹部を務める企業に昨春、保健省がマスクを大量発注したことが発覚したのだった。〔*注:シュパーン保健相はCDU所属の政治家で、同性結婚している]

さらに、CDU/CSUに属する連邦議会議員が医療マスク調達に絡んで多額の賄賂を受け取っていたことが明らかになったのである。

《社会民主党が躍進した要因は?》

今回の選挙で社会民主党が、僅差ではあったが勝利したひとつの要因として考えられるのは、党内の分派が団結してショルツ氏を支えたことである。とりわけ、中道左派のショルツ氏が、左派のサスキア・エスケン共同党首とノールベルト・ヴァルターボルハンス共同党首の支持を得ることができたのはショルツ氏にとって大きなプラスとなった。

さらに、社会民主党の公約である「最低賃金の引き上げ」が、多くの人々にアピールしたようだ。10月7日に、政治的見解や選挙関連の世論調査に携わっている ”Infratest dimap“ が行った世論調査 “DeutschlandTrends (ドイツの傾向) ”によると:

「回答者の74%が、最低賃金(時給)を12ユーロ(約1,565円 ) に引き上げることに賛同している」という。ちなみに、現在、ドイツの最低賃金は時給9.6ユーロ ( 約 1,254円 ) である。

 連立政権形成に向けて政党間の交渉が進行中

現在、社会民主党 (SPD) 、緑の党 (Die Grünen)、自由民主党 (FDP)が連立政権の交渉を進めている。この交渉がどのように展開しているのか、どのような結論をもたらすのか、わからない。

その他の可能性としては:CDU/CSU、緑の党、自民党が連立政権を組むこと、これが成り立たなかったら、社民党、CDU/CSU、緑の党の連立政権も考えられる。

前述した10月7日の世論調査 “DeutschlandTrends“によると:

回答者の 63%が、社会民主党が政権を率いることを望んでいる、という。さらに、53%が社民党、緑の党、自民党の連立政権を望み、25%がCDU/CSU、緑の党、自民党の連立政権を望んでいるとのこと。

いずれにしても、連立政権形成の交渉で切り札を握る、有利な立場にあるのは、緑の党と自民党のようである。社民党もCDU/CSUも両党の合意がなかったら連立政権を樹立させることはできないのだから。そういった意味で、今回の選挙の”真の勝利者”は緑の党と自民党である、と言えるのではないだろうか。

以上

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【*注】ドイツ連邦議会選挙の結果数値はWikipedia ”Bundestagswahl 2021“を参照しました: https://de.wikipedia.org/wiki/Bundestagswahl_2021

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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