ドナウ氾濫、ポケットベル、中国融資 ハンガリーの奇妙な登場

ドナウ川の氾濫が話題になる一方で、レバノンのヒズボラを狙った爆発テロに使われたポケットベルを製造販売したのがハンガリーの会社だと報道されるなど、ハンガリーをめぐるニュースが続いています。
ドナウ川の水位は土曜日に最高位に達しますが、ハンガリーの天候は良く、来週以降、徐々に水位が下がると予想されています。確かにドナウベント周辺の洪水は大きな被害をもたらしていますが、ブダペストの状況は1997年の洪水ほどに水位は上がっていません。1997年の洪水では、もう少しで街中に水が漏れだすほどに水位が上昇しました。現在のブダペスト市内の水位は、当時に比べてかなり低いレベルに落ち着いています。土曜日に最高水位に達して、そこから徐々に水位が下がると予想されています。
オルバン首相は外遊をすべてキャンセルし、陣頭指揮をとっています。他の野党の政治家も、ここぞとばかりに土嚢を作る作業に加わり、アピールしています。EU議長国でハンガリーに対する難問が山積みになっているにもかかわらず、オルバン首相は外遊を止めて国内にとどまる姿勢を示しているのは、政権への批判が強まっていることと無関係ではありません。
最新の世論調査(Median, 9月11日)では、回答した有権者の過半を超える人が「政権交代を望む」と回答しています。過半数を超える人が、ハンガリーが進んでいる道は好ましくないと回答し、好ましいと答えた人はおよそ3割です。また、オルバン率いるFidesz(青年民主同盟)と、オルバン独裁への反乱の先頭に立つマジャール率いるTisza(ア音源と自由の党)の支持率は43%対39%と接近しています。旧来の野党支持層が政権交代可能なTiszaを支持するようになっており、他の野党の支持率は低迷しています。ブダペストでのTisza党支持率はFideszを圧倒しており、特に50歳以下の若い層のTisza党支持が明確になっています。EUに背を向け、ロシアや中国に接近する方向が国を危うくさせると考える若者が多いという現実を示しています。
EU輪番議長国として外遊成果を誇っていたオルバンですが、国内の権力基盤を固める必要性に迫られ、ドナウ川洪水防衛のために連日奮闘する姿を見せることが必要だと判断したようです。
レバノンにポケットベルを輸出したのは、ブダペスト市内に事務所があるBAC Consulting Ltd.とされていますが、2022年に設立されたこの会社は製造設備をもっておらず、ペーパーカンパニーのようです。会社代表も常時ハンガリーにおらず、スペインで生活しているようです。この代表は、「台湾の会社と業務提携しているのは事実だが、ハンガリーの会社は商品製造を行っておらず、仲介業務を行っている会社」だと述べています。他方、ハンガリーの会社はブルガリアの会社Norta Global Ltd.に商品の輸出を代行させたと報道されていますが、このブルガリアの会社(所有者はノルウェー人)もまた2022年に設立された会社で、ハンガリーの会社と同様に、取引の仲介を行う会社で、製造会社ではないとされています。実際、ブルガリア当局の発表では、この会社に取引実態はないが、6000万ドルのお金がハンガリーの銀行に送金された事実を確認したと報道されています。
ここから明らかなのは、イスラエル(モサド)が東欧諸国にダミー会社を設立して、イスラエル自身がどこかで製造したポケットベルをこれらに会社を通して流通させるように仕組んだらしいということです。これら二つの会社はともに2年前に設立されていることから、ポケットベルを使った爆発の計画はこの前後から計画されたものでしょう。ブルガリアの会社の代表者になっているノルウェー人は行方が分からなくなっていると報道されています。
オルバン政権が親ロシア・親中国姿勢を明確に打ち出してから、ハンガリーではロシアや中国のスパイや秘密警察が闊歩しているようです。オルバン首相は親ネタニヤフを公言しています。実際、数年前にハンガリー政府はイスラエルの会社が製造した携帯電話スパイウェアを購入し、反政府系の人々の会話を盗聴していたことが暴露されました。イスラエルのモサドが暗躍する背景にはオルバン政権の親イスラエル政策があります。こうして、今、ハンガリーはスパイが跋扈するスパイ天国になりました。以前はウィーンが諜報最前線でしたが、現在はブダペストがその役割を果たしています。
ハンガリーは7月末に、中国(中国復興銀行、中国輸出入銀行、中国銀行)からの借入金のうち、10億ユーロを引き出したと報道されています。これによって、ハンガリーの政府債務に占める対外債務は30%に達しました。ハンガリーはさらに中国からの融資を受けるために、9月初めにナジ・マルトン経済大臣が中国を訪問し、協議を行いました。
現在建設中のブダぺストーベオグラード間の鉄道近代化プロジェクトには中国からの借入金7000億Ftが使われていますが、ハンガリー側の建設はオルバンが手厚く保護しているメーサーロシュ一族(関連企業)が一手に引き受けています。また、オルバンの父親が経営する砂利採取販売会社はこの鉄道建設に必要な砂利を納入しています。国が巨額の借金を背負いながら、他方でオルバンやメーサーロシュの一族が経営する会社が事業利益を手に入れるという露骨なインサイダー事業が進行しています。若者の多数が憂慮するのは当然でしょう。
さすがに、厚顔無恥なオルバンも、せめて、ドナウ川氾濫阻止の陣頭指揮に立っていることを支持者に見せなければ、権力基盤が危うくなると考えているのでしょう。トランプ再選を願ってアメリカまで出向いたが、再選確実の予想が曇り出したので、国内権力基盤を固めることに精出すことが肝要だと考えたのでしょう。権力維持が最大目標のオルバンは、人一倍、情勢変化に敏感なのです。     (2024年9月21日)

初出:「リベラル21」2024.09.27より許可を得て転載
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