新型コロナウイルスの蔓延防止のため、フランスでは3月半ばと日本よりひと月近く早く外出制限命令が出されました。必需品の食品などの買い物やどうしても必要な用事以外は、市民は自宅で過ごす毎日を余儀なくされています。首都パリは市の人口は約200万人、郊外も入れるとおよそ1200万人が暮らしています。
パリで暮らす脳科学者で、国立研究機関CNRSやパスツール研究所で研究チームを率いてきたフランソワ・トロンシュさんは先月(3月)、自ら、COVID-19(新型コロナウイルス)にかかってしまったそうです。
Q まずは新型コロナウイルスをめぐるパリの状況など教えていただけますか?
「新型コロナウイルスに感染しているのはパリでは10%以下です。病院に行くのは呼吸障害が出た人々に限られています。私自身も先月、かかってしまったのですが、自宅にいました」
(※10%はパリの都市圏で換算すると120万人くらいで、感染者数は首都圏でそれ以下だという。つまり、トロンシュさんの証言を信頼するなら、新型コロナウイルスの検査キットで感染が実際に確認された人数と、実際に感染しているであろう人々の数は基本的に関係がないことを示しているものと推定される。フランス全体では感染が検査で確認されたのが約12万人で、死者数は現在22234人)
Q この感染者の割合がパリの住民の10%未満ということですが、それでもこの数字は高くないですか?
「いえ、そんなに高い数字ではないんです。実際、予測として5月半ばには8%から12%の感染率になると見込まれていたんです。私たちはもっと高く想定していたのですが、外出自粛を徹底したことでこれでも低くなったんです。ですからおそらく今は10%を少し切っていると思えます。パリの首都圏(人口約1200万人)で言えば新型コロナウイルスの感染者数は100万人を少しだけ上回るくらいの人数ではないでしょうか」
(※マクロン大統領は3月17日から15日間の外出禁止令を出した。医療などのよほどの事情か、生活必需品の購入以外は外出を禁止したのである。そして4月13日にこの措置を5月11日まで継続することを決めた。施行前夜の3月16日、マクロン大統領はTVで企業や自営業者などにこの措置によって経済破綻はさせないとして、零細業者や非正規雇用者も含めた多くの人々への支援金や税の猶予、貸付への政府保証など、多様な経済支援の手段を発表した)
Q すでに3月にご自身もこれに感染した、ということですが、トロンシュさんはすでにこの新型ウイルスの抗体をお持ちということになりますか?
「そこはわかりません。病院にいる患者を除けば、新型ウイルスの検査を受けられるのはこの病気の治療に携わっている医療関係者のみだからです。というのも検査機器が不足しているんです。ただ、私の場合、新型コロナウイルスに感染したことは明らかだと思っています。1週間目は激しい頭痛とだるさに襲われ、筋肉も痛みました。そして、5日間、39度から40度の熱が続きました。呼吸も困難でした。そして2週間、とても激しい疲労があったんです。これはインフルエンザとは違います。」
Q 一度罹患して治ると、抗体ができて大丈夫になるのですか?
「いえ、明らかに2回、感染してしまうケースが報告されています。もっともそれは確認が必要ではありますが。推測としては、おそらく抗体は作られても、再感染を阻止するほど有効ではないのではないか、ということが考えられます」
Q 新型コロナウイルスに感染した場合、抗体は作られるのでしょうか?
「通常は抗体が作られます。しかし、いまの検査キット(serodiagnostic detection kits)での抗体検査ではたとえ抗体ができていても、それを検知できないケースが多数あるのです。そのため、抗体ができていても、抗体がないと判定され得るわけですよ。もっと情報がなければ確認できないので、抗体の有無を確かめるには、ウイルスのRNAを探知するRT-qPCR(リアルタイムqPCR)を備える必要があります」
トロンシュさんによると、このような自宅療養の経験は多くの人が共有しているのだそうです。そして、抗体についても、まだまだわかっていないことがたくさんあることがわかります。
※フランスの感染状況を知らせるサイト
https://mapthenews.maps.arcgis.com/apps/opsdashboard/index.html?fbclid=IwAR1pj22cTWDSRoBhovbWpI9oxr4VTWZs966S7x8XLAXQ4r2TQXzkt7kuPlg#/5df19abcf8714bc590a3b143e14a548c
村上良太
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion9690:200427〕