マーク・モラノ著『「地球温暖化」の不都合な真実』を判読してみた 

著者: 合澤 清 あいざわきよし : ちきゅう座会員
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『「地球温暖化」の不都合な真実』マーク・モラノ著 渡辺正訳(日本評論社2019)

*以下の文章中の下線部、及びゴチック部は全て論者のものであることをお断りします。

まえがき

この本にはトリックが仕掛けられている。外見的には「地球温暖化=CO2」説に対する反証である。もちろん、専門的な理論対立を詳細に紹介・展開したものではない。それでは高踏的過ぎて素人の読者には到底ついていけない。ここでは、「かくかくしかじかの人たち」が反対を唱えているぞ、という専門家たちの紹介を主にして、その反証の裏付けデータ(このデータが正しいかどうか、疑えばきりがないのだが)を例示して見せる。もちろん、「地球温暖化=CO2」説論者のデータはオミットされている。いわば、例証主義(自分に都合のよいデータのみを採用する)である。しかし、この例証主義という批判は、あるいは対立する両陣営それぞれに当てはまるものなのかもしれない。いずれにせよこの限りでは、科学者間の理論見解の対立ということで決着をつけてもらう以外にないではないか、と思われがちである。だがしかし、「地球温暖化問題」が、異常気象や人類の生存問題などに関わるかもしれぬとなると、そんなことで済ますわけにはいかない。

そこで国連が1988年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)なるものを立ち上げ、グローバル規模で気候変動に対処しようということになった。国連の公式機関の呼びかけであり、どの地域も気候変動のもたらす影響をそれなりに受けているため、国単位のカンパによる巨額の資金が集められ、それを運営する巨大な組織がつくられた。実はこの著者の真の狙いはここからにある(そのための仕掛けが「地球温暖化=CO2」批判である)。

資本主義体制下にあっては至極ありがちな出来事なのだが、この巨額の資金目当てに、富と栄達(地位や名声や権力など)にありつこうと大勢が群がり集まってきた。企業、メディア、研究者等々。そこには生態学者のパトリック・ムーアが指摘するように、「最近の研究者は、何か気候変動に引っかけたことを言わないかぎり、研究費を稼ぎにくくなっていますね。」 (p.134)という現状もあるらしい。

そして、なかにはナオミ・クラインが『ショック・ドクトリン』で暴露しているような、環境保護運動を食いものにしようとする連中もいる。運動内部(被災者や途上国住民に対する支援団体内部)に腐敗・堕落がみられる。「NGOスタッフの『自堕落な』暮らしぶり…高級ホテル、ビーチに面したコテージ、そして最大の非難が集中するのはまっ白い新車のSUVだ」。

だが、ここまでの話の推移から考えれば、どうも問題の深層は既成組織の在り方、あるいは現存の「社会システム」にあるのではないだろうか、と思えてくる。

しかしこの後に続く展開から、モラノの仕掛けた罠(トリック)とは、実はこの問題を自分たち流の方向で処理したい意向らしいということが判ってくる。「自分たち流の方向」とは何か? 先取りして言えば、新自由主義政策をとること、ドナルド・トランプに倣うことである。それは、最終の20章が「救いの光」というトランプ礼賛になっていることで明かされる。(悪い冗談ではないのか?)

1.地球温暖化の原因を「二酸化炭素CO2」濃度にばかり求めるのは間違いだ、は一応首肯できる

「まえがき」で著者モラノは大層威勢良く、次のようにアジっている。

≫人間の出す二酸化炭素CO2が地球を暖め、とんでもない状況を生む…という人為的温暖化のホラー話が1980年代にいきなり登場し、1990年ごろから世界規模の「大問題」にされてきたのはご存じの通りです。けれど、狂乱めいた騒ぎになる前から、フレッド・シンガーやリチャード・リンゼン、ビル・グレイ、パット(パトリック)・マイケルなど名だたる気象学者が、政治家と御用学者、大手メディア、国連組織の繰り出す温暖化脅威論に戦いを挑んでいたのも御存じでしょうか?(p.001)≪

つまり、地球温暖化の原因を「二酸化炭素CO2」濃度にばかり求めるのは間違いだ、というわけである。成程、この本を読んでいると、気象学者や地球物理学者などの専門家の証言として、地球が寒冷化したり、温暖化したりすることには様々な要因が考えられていて、どれか一つをとって、「これがその原因だ」と決めつけるわけにはいかない、ということにはかなりの説得性があるようだ。

1970年代に「寒冷化は20世紀の農業生産を減らす」という地球寒冷化騒ぎがあったことの真逆が今起こっているのだ。

そこで思い出したのが、かなり前のこと(確か1960年代後半頃だったと思うが)、東京大学の教授で物理学関係の研究をされていた、著名な学者で竹内均という人がいた。この方が、当時の月刊雑誌『経済評論』に書いた論文に「宇宙船地球号はどこに向かうか」(少々記憶があいまいで、正確なタイトルではない)というのがあり、その中で、地上で放出される輻射熱(車や工場などから絶えず放出されている)が、地球を取り巻くオゾン層を破壊し、太陽光線中の紫外線の照射線量を強めたり、地上の温暖化を促進したりしている、と警告していたことである。因みに、竹内の主張は、地球上の化石燃料が涸渇することの危機を心配するよりも、放射熱による熱公害を心配すべきだ、というものだった。

その後も「オゾン層破壊」は、世界的に大問題化され、家電製品、とくに冷蔵庫や空調に使われていたフロンガスが禁止され、別のガスに代替されたり、あるいは蛍光灯に充てんされていたガスも「危険物質扱い」されるようなことすらあった。

これらの問題はその後、どのように展開されたのだろうか…? この本の中では、この「オゾン層破壊」も、人口爆発、森林破壊、資源枯渇などとともにホラー話とされている(p.213)。

今となっては、少し勘ぐりたくなる(「ゲスの勘繰り」かもしれないが)。「フロンガス」騒動の時期が、冷蔵庫や空調メーカーの「新機種製造」の時期と重なっていて、うまくそれらの「買い替え販売作戦」に乗せられたのではないだろうか?と。ついでに勘ぐれば、今日のEV車への半ば強制的な(法規制などの)変更はどうか、とも言いたくなるのだが。

この本の中には、「地球温暖化の主要因としての二酸化炭素CO2」説への専門家の反対意見が驚くほど多く集められている。恐らく、著者マーク・モラノ一人だけではこれだけの目配りはできないだろう。彼は周囲に多くの情報スタッフを抱えているものと思われる。それは、p.234で、「私のブログを支援する『建設的な明日委員会』が1億2000万円」を集めている(どこからこれだけの資金を?)、と書かれていることからも推測できる。

無数の情報の中には、不確かなものも多々含まれているかもしれないし、またそれらの情報の処理の仕方(発表する際の鋏の入れ方)によって、「イエス」にも「ノー」にも分類しうる。注意を喚起したいのは、モラノは産業化によってもたらされる「公害問題」(これも立派な環境問題である)には一切触れていない、ということだ。

ここではとりあえず、この本で引用されている二つの意見を紹介しておきたい。

≫NASA大気部門のジョン・S・テオン博士が、2009年に書いている。…「気候が変動しているかどうかも、人間活動が気候にどれほど影響するかも未知数…というのがNASAの公式見解。…≪(pp.35-6)

≫元サッチャー首相の科学顧問クリストファー・モンクトン卿は米国議会公聴会で「温暖化というノン・プロブレムに立ち向かうベストな態度は、『何もしない勇気』をもつことですよ」。(p.295)≪

言うまでもないが、前者は「気候変動問題」はまだ未知の研究課題であると言っているのに対して、後者は、それはわれわれにも地球にも何の影響もないと言ってのけている。

2.「すべては疑いうる」(カール・マルクス)

誤解されないよう、最初にお断りしておきたい。この本では「地球温暖化=二酸化炭素CO2悪玉説」論者が持ち出した例が反駁されている。「すべては疑いうる」という格言をもちだしたのは、モラノの肩をもって、これまでの環境危機論がすべてホラー話だと言おうとしているわけではない。全てを疑い、疑うことをも疑う、徹底的な懐疑、いわば「絶望への道」(ヘーゲル)にまで一旦突き進んでみようという意味である。

以下の(3)において、フリーマン・ダイソンがいみじくも述べているように、「CO2と気候の関係はほとんどわかっていません」。反証さえも、新たなデータの中でまた覆されることにもなりかねない。「絶対的に客観的な科学的事実」なんてものはあり得ないのだ。科学的事実も絶えずイデオロギーに結びついている。だから絶えず「懐疑」が生まれうる。

≫英国の科学者フィリップ・ストットは、科学の話で「合意」は有害だと説く。「科学は合意で前に進んだりしません。まして政治がらみの合意など言語道断。歴史を振り返ると、合意の弊害はガリレオで明らかでしょう。ずっと後の20世紀初頭でも、実に85%の科学者が優勢学を信じていましたよ。科学の研究では懐疑こそ命なのです」。(p.041)≪

CO2悪玉説への反対論者の名を縷々列挙してから、モラノは環境保護論者が実例として持ち出した温暖化諸現象の虚偽を暴き、それらを次のように実例をあげて断罪してみせる。

(1)≫アマゾン熱帯雨林の破壊はウソだと暴くドキュメンタリーは2000年に(私が)制作した。…2009年にはニューヨークタイムズ紙が、私の取材結果と似たトーンの特集記事で、アマゾンでは耕地がどんどん自然に帰り、森が拡大していると報じた。年ごとの伐採面積1ヘクタール当たり、15ヘクタール超の森が新しく生まれているという。何故か? 住民が沼地やジャングルに別れを告げ、町に移っていくからだ。同紙は書いた。「そんな二次林が南米やアジアの熱帯地方に増殖中。増殖のペースは速いため、環境運動のシンボルだった『原始林の保全』が本当に必要なのか…。(p.015)≪

(2)≫デンマーク・オルフス大学の研究者による2006年の論文は、「グリーンランドの氷河は過去100年間ずっと縮小中だから、人為的CO2とは関係ない」と結論。…2016年のサイエンス誌論文も、グリーンランドの内陸氷河は減っていないと断じた。(p.079)≪

≫気候科学誌の論文によると、2000~08年の9年間に南極の海氷は年率1.4% で増え続け、2014年は、1979年以降の衛星観測時代で最大になった。(p.070)≪

≫2013年のネイチャー誌論文によると、東南極の氷河は1990年から増え続けている。2012年には極地研究家ハインリッヒ・ミラーが、南極は「少なくとも過去30年、冷え続けてきた」と書く。(p.072)≪

≫NASAは、2017年の(海氷面積の)極小値が「衛星時代を通じ8番目に小さい」と見る。(p.076)≪

(3)≫元ペンシルベニア大学のロバート・ギーゲンガックは、「CO2が地球の気温を左右した地質学的証拠」は一切ないと断言する。(p.130)≪

≫アインシュタインの後継者と目されるプリンストン大学の物理学者フリーマン・ダイソンは、2015年に「…国連の気候条約に意味はない。環境問題と温暖化はまるで別物。汚染なら手は打てる。温暖化に打つ手はない。」「CO2と気候の関係はほとんどわかっていません。『判った』という専門家も多いが、そんなはずはない。植物の生育を促すCO2は、食糧生産にも野生生物にもかけがえのない物質。そんなCO2を減らそうと思う人は狂っています。今大気に増えるCO2は、地球の緑化をどんどん進めているんですよ。」「気候学者が気候を理解しているとは思えない。彼らが振りかざす気候モデルは、『調整因子』だらけ。」(p.131)≪

3.マーク・モラノは「CO2と気候温暖化には直接の関係は無い」ということだけを言いたいのか?―いや、そうではない!

「まえがき」で既にふれたことをここでは繰り返したくないので、モラノの批判の「真意」がどこにあるのか、ということを直截考えてみたいと思う。

モラノたちの主張は非常に簡単明瞭である。国連のIPCCあたりが集める巨額の金を「無駄な環境保護」運動などに使い捨てするよりも、開発事業(石油の採掘、オイルシェールやオイルサンドの開発、パイプライン建設など)に投資すべきである。

地球環境は放っていても変わらない。『何もしない勇気』をもつことが大事だ。

国家や国連に何もさせないためトランプは獅子奮迅している。ただし、民間企業の(特に石油会社の)開発化計画は積極的に推進するという。

2017年3月28日、トランプ政権はEPA(環境保護庁)の規制を撤廃(p.174)

2017年6月、トランプはパリ協定からの離脱を宣言。(p.224)

≫2017年にトランプ政権は、…石炭業界の息の根を止めかかっていたEPAのクリーン電力計画も廃止への手続きを始め、キーストン・パイプライン建設計画にゴーサインを出した。(p.289)≪

≫温暖化研究の守備範囲は広く、政府機関のほぼ全部に及ぶ。2013年度の温暖化がらみ研究費を議会調査局が見積もったところ、2008~2013年度の6年間に18の研究機関が7兆7000億円を使っていた(実体はずっと多いはず)。トランプ政権の行政管理予算局長ミック・マルバニーが2017年、「前政権の怪しい仕事」を一掃したと胸を張る。(p.230)≪

資本主義社会における営利追求(商売)に節操を求めても無駄である。かつて公害を垂れ流しながら、その対策費用を一円たりとも出すのを惜しんでいた企業が、「反公害」企業に衣替えをして、また儲けようとする。

著者モラノもそのことにはうすうす気づいているようだ。こんな言葉を引用している。

≫オタワ大学の環境研究者、デニス・ランコート元教授は「地球を壊すのは、権力と利益を求める資本家や巨大企業と、そのカルテルです。地球温暖化の神話は、醜い心を包み隠す似非看板だといえましょう。恐怖をあおる人々は、黒い意図を包み隠す『オブラート』に利用されているわけですね」(p.135)≪

しかしその一方で、途上国に「『気候正義』と称してCO2排出」規制を強要するのは、途上国経済の発展を妨げる「大犯罪」である、と言う。

≫今の先進国は、化石資源を活用したからこそ貧困から抜け出した。そんな先進国がアジアやアフリカ、南米に住む数10億の民に化石資源を使うなと命じる。白色人種が有色人種に「生活水準をあげるな」と叫ぶので、人種差別とみてもいい。(p.274)≪

CIAが支援する多国籍企業が、アジェンデ政権をクーデターで倒し、チリに公害と民衆の再極貧生活を招き入れたことはすっかり忘れられている。また、「アパルトヘイト」を失くしたと言われる南アフリカで、新たな形での人種差別と、極端な格差が外国資本(多国籍企業)=自由市場化によって生み出されているという現実も無視されている。

何もしない方が良いのか、それとも産業化すべきなのか? 産業化すれば、そこには必ず「公害」と「貧富の格差」が生み出される。まさかモラノは北京市内の有名な「大気汚染」(中国産業化の落とし子)を礼賛しているのではあるまいし、「人体に無害だから」放っておけと考えているのでもないだろう。

にもかかわらず、彼は途上国の発展は先進国の協力によって産業化を進める以外にないという。しかも公害の垂れ流しを防ぐために、「世界の富を再分配し、富裕国から貧困国にお金を流したい」そのために環境保護資金を使いたい(富の再分配論)、という意見には共産主義的だ、と「断固反対」なのである。

「気候変動を防ぐには資本主義の変革が必須だ。富と技術の再分配で不公平を減らすしかない」というナオミ・クラインも、彼にとっては、環境保護を巧みに利用する「利用主義者」と映るようだ。彼が称賛するのは、トランプと、チェコの元大統領ウォーツラフ・クラウスの次の言葉だ。

≫「…環境主義を広めたい連中は、自由や民主主義や、自由市場、繁栄が嫌いなのだと思う。…環境主義というイデオロギーは、人間の自由で自発的な発展を、中央集権型のグローバル統治で抑え込もうとするのだ」「環境運動も『温暖化との戦い』も、本音は世界の経済システムの変革にあります。共産主義社会に生きた私どもが何十年も求め、夢にまで見続けた自由市場システムを壊そうという話なのですね」。(pp.224-5)≪

先に「権力と利益を求める資本家や巨大企業と、そのカルテル」が桎梏になっていると言っていたのではなかったのか?

否、彼の真意は「環境保護などに回す巨費があるなら、それを産業開発に回すべきであり、自由市場をさらに拡大すべきである」という点にこそあるのだ。14章のタイトルに掲げられた「黒い謀略」とは彼自身の本音を指している。

彼は言う、≫もし人類が温暖化の危機に直面しているなら、化石資源の利用を禁止・縮小するのではなく、自由市場と起業家精神を呼びさまし、効率的で安価な新技術を見つけよう。(p.298)≪

「温暖化の危機はない」と断言しているその当人が、「もし人類が温暖化の危機に直面しているなら」というのはどうしても理解しかねる。「温暖化の危機があるのか、ないのか」、本人もいまだに迷っているとしか解し得ない。

彼やトランプが推奨する「民営化」(新自由主義政策の目玉)とは、一例を出せば、先ごろ、コロナ蔓延の最中に東京都議会に提出された「都立および公社病院の独立行政法人化=民営化」のことだ。つまり、貧窮者に安価に医療を提供する公立病院を「不採算部門」として切り捨てることである。トランプや新自由主義に関しての議論は本稿の範囲を超える。

そこで、モラノが「不倶戴天の敵」と思っているらしいナオミ・クラインからの引用でこの小論をひとまず擱筆する(『Noでは足りない トランプ・ショックに対処する方法』ナオミ・クライン著岩波書店2018)。

≫トランプの出現は、私達の文化が非常に長い間語り続けてきた多くの危険な物語の行き着いた先―論理的な帰結―に他ならない。(p.311)≪

≫一つ明らかなのは、私有財産が未曾有の規模に膨れ上がった時代に公的資金が不足しているなどというのは、捏造された危機に他ならないということだ。(p.329)≪

2022年2月24日記

 

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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