ルネサンス研究所10月定例研究会のお知らせ

著者: 中村勝己 なかむらかつみ : 大学教員
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今回は、山谷など寄せ場労働運動や沖縄連帯闘争などを果敢に闘った活動家=思想家の船本洲治の遺稿集『黙って野たれ死ぬな』の新編集版が刊行されたことを記念して、21世紀の現在に船本洲治を再読することの意義について、報告者の友常勉さんに語ってもらうことにしました。6月定例研究会の小美濃彰さんの報告で指摘されたような、「プロレタリアにさえなれない人々(寄せ場のバタヤ稼業)の運動の組織者としての梶大介」という問題を今日に引きつけて考えるならば、今まさに労働市場の非正規化の拡大により「プロレタリア未満」とも呼べるような、低賃金・不安定・長時間の労働に従事する人々が増えています。元来プロレタリアとは、古代ローマ時代の貧困市民階級、すなわち生産手段である農地を持たないために他人の農場で雇われるしかない無産者を指した。ただしプロレタリアにはもう一つの意味がありました。それは、「子供以外の財産をもたない者」ということです。これを21世紀の日本社会の現状に引きつけて考えるなら、貧困や将来不安のために子供を作り育てられないカップルや未婚・単身生活者は、実は「プロレタリアにさえなれない」存在なのだということになります。そうした階級が膨大に生み出されつつある今日、寄せ場労働運動を通じて下層労働者の組織化と闘争の拡大をめざした船本のアクチュアリティ(今日的重要性)が見えてくる。また、そうした「プロレタリア未満」の階級が民族排外主義に容易に絡め取られる危険をもつことも船本は指摘しています(『新版 黙って野たれ死ぬな』第3部「政治は人々を崇高にし醜悪にもする」196-200頁)。これは在日外国人や沖縄の闘い、そして差別を告発する女性たちにヘイトスピーチが向けられる今日の状況にも残念ながら当てはまることではないでしょうか。このように、船本の思想と行動は、21世紀の日本社会の腐朽と国家の治安機構・戦争機関としての突出を鋭く照らし出していると言えるのです。多くの会員の来場と議論への参加を呼びかけます(文責・ルネ研運営委員会)。

 

テーマ:船本洲治『新版 黙って野たれ死ぬな』(共和国、2018年)を読む

 

日 時:10月8日(月)18:05開場(直前まで授業が入っています)18:30開始~21:00終了予定

 

会 場:専修大学神田校舎 1号館 4階 44教室

 

資料代:500円

 

報告者:友常勉(東京外国語大学)

 

概 要

旧版の『船本洲治遺稿集 黙って野たれ死ぬな』は、山谷での皇誠会・金町戦の渦中の1985年に刊行された。表紙カバーと本体表紙に印刷された「イショ」、カバー裏の年表、スローガンごとの編集は、あきらかに政治的な組織化を意識して編集された構成であった。これに対してこのほど共和国から出版された新版の船本洲治『黙って野たれ死ぬな』(2018年)は、1968年から1975年まで、年代ごとのまとまりで配列され、旧版のいくつかの誤りを訂正して刊行された。年代順で読むことが可能になったテキストから、船本が発したメッセージの変化をたどることができる。それは例えば、寄せ場に言葉をもって登場したその時点で、ほぼ完全に把握されていた下層社会論、S闘争論、流動的下層労働者論という高度な理論武装を出発点とし、現闘委・釜共闘という実践におけるピークを経て、「事実行為」を遂行する「現にあるところの党」という、偶然性へ投企する存在論的な実践の立場へのシフトである。それはまた焼身決起への道筋でもあった。報告の目的のひとつは、こうした推移をたどることである。さらに、現闘委が残したビラを通して、70年代寄せ場の闘いの表現についても紹介することで、船本が(あるいは山岡強一が)表現してきた寄せ場の闘いについて、必ずしも船本に還元されない可能性の裾野を考えてみたい。友常勉