編集部:注
筆者からの依頼により、冒頭のブロックからリンクまで差し替えました。(5月31日)
先週末に欧州では欧州議会議員の選挙が加盟国で行われました。フランスでも74議席の割り当てをめぐって行われました。マリーヌ・ルペン党首が率いる国民連合とマクロン大統領が率いる共和国前進のグループがほぼ同率で並び、そのうしろに緑の党などの環境政党グループ、右翼政党の共和党のグループ、左翼政党の服従しないフランス、社会党のグループという結果となりました。これを見ても2017年まで与党だった社会党の凋落ぶりは著しいです。マクロン新党に現在も票を奪われていることが如実に見えます。一方、緑の党と環境政党のグループが3位に浮上しています。前回から議席を7つ増やたのです。これは以下の欧州連合の選挙の公式サイト(5月31日現在)を参照したもの。
https://graphics.france24.com/results-european-elections-2019/
今回の選挙でジャン=リュク・メランションが率いる「服従しないフランス」から6人の欧州議会議員が誕生しましたが、その中に筆者にとっては忘れがたい名前がありました。レイラ・シェイビ氏です。大学時代から社会運動に取り組んできたシェイビ氏が力を入れていたのが住宅問題でした。不動産価格の高騰が、ただでさえ非正規雇用が増え、低所得・不安定に陥っている多くの人々を圧迫し、そこに人間関係などの不幸が重なると、SDFという定住所のない人に転落することにもつながっているのです。住宅価格はシラク大統領の時代から2012年に社会党のオランド大統領が誕生するまで右肩上がりに上がっていました。
レイラ・シェイビ氏は以前、「黒い木曜日」(Jeudi Noir)という市民グループを結成して、パリを含めたあちこちの都市の空きビルを実力で占拠し、そこから不動産投機の問題をメディアに訴える、という過激な手段も辞しませんでした。そうした運動の結果、住宅問題は次第に大衆に認識されるようになりました。日本でもホームレスは少なくありませんが、空き家も大量に存在します。フランスも同様のようです。シェイビ氏は新たな住宅建設も含めて、住宅をめぐる社会の不整合を是正しようとしています。住宅は人々の暮らしの最も大切な基盤であり、それは人権なのだというのがシェイビ氏の信念です。住宅が得られなかったら、住宅から追い出されてしまったら、正規雇用も、教育を受けることもできなくなるのです。そして健康も害してしまいます。2017年に大統領選挙が行われたとき、服従しないフランスに参加した彼女は、ジャン=リュク・メランション候補から住宅問題を担当するスポークスマンに抜擢されました。メディアでメランション候補の住宅政策について語ったのです。メランション候補はシェイビ氏が長年、この問題に取り組んでいるのをよく知っていたのです。
チュニジア人の父を持つシェイビ氏は過去3回、議員に立候補しました。国会議員選挙、地方議員選挙、国会議員選挙と3回選挙に破れてきて、今回は4度目の挑戦。ついに初当選を飾りました。途中、失意から政治から遠ざかっていた時期もありました。欧州議会議員の選挙は比例代表制なので、政党グループの得票数によって議席が配分されますが、シェイビ氏は服従しないフランスのグループの選挙リストの3番手になっていましたので、当選したのです。先述の通り、服従しないフランスは6人分の議席を得ました。服従しないフランスは住宅問題も掲げていますが、自由貿易協定の問題点も指摘していて、グローバリズムの見直しを訴えている政党でもあります。
レイラ・シェイビ氏はパリで始まった「立ち上がる夜」(Nuit Debout)という運動に2016年春に参加していました。この運動はパリの共和国広場に人々が夜ごとに集まり、政治から社会問題さらにはジェンダーや芸術まで100ものサークルに分かれて情報を分かち合い、語り合う運動でした。選挙での敗北で失意に陥り政治から遠ざかっていたシェイビ氏を再び、政治に目を向けさせたのがこの「立ち上がる夜」という市民の運動でした。というのも、「立ち上がる夜」は市民が政治に参加する回路を模索していた運動だったのです。シェイビ氏はこの時、住宅問題を話し合う市民グループを作り、なんとそこにはSDFと呼ばれるホームレスの人々自身も討論に参加していたのです。「立ち上がる夜」は機能不全になったフランス議会への異議申し立てでもありましたから、こうした市民運動を経て、ようやく議会に足場を築いたシェイビ氏が今後、どう運動で得たものを議会政治の場で生かしていくのかは注目していきたいと思っています。
添付の写真は「レイラ・シェイビ氏の当選確定の知らせ」です。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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