ロシア「解体!」とプーチン「裁判!」――染谷武彦氏の書評を読んで――

「評論・紹介・意見」欄において染谷武彦が塩原著『ウクライナ・ゲート』を評する一文の中で、「ネオコンの究極目標はロシア連邦を解体に導き、プーチン大統領を第2のミロシェビッチとばかりに、ウクライナ戦犯として国際法廷に立たせることあたりに落ち着くのではないか。」と想像力を逞しうしている。

氏の想像の第一は、ロシア連邦の解体である。これに関しては、私も「ちきゅう座」で2014年3月、4月、5月に小文で触れている。ここではロシア解体論を示す新材料を紹介する。

ヴィリ・ヴィムメルは、ドイツのコール内閣国防省内議会国家書記、OECE副議長をつとめた人物である。彼は言う。――ロシアがターゲットだ。元アメリカ国務長官オルブライトは、大変に親しい紳士ヨシカ・フイッシャー(元ドイツ外相)に魅惑するように「ロシアは、独り占めするにふさわしくない程に大量の資源を自由にしている。」と語った。――(ベオグラードの週刊誌『ペチャト』2014年8月8日)

ジヴァディン・ヨヴァノヴィチは、社会主義ユーゴスラヴィア解体後にセルビアとモンテネグロがつくった新ユーゴスラヴィアの外相をつとめた人物である。彼は言う。――ユーゴスラヴィア、チェコスロヴァキア、ソ連邦、スーダン、イラク、リビア等の解体だけでは、彼等にとって不十分だ。オルブライトはロシアの自然資源は国際的資源であって、一つの国に所属するものではない、とかつて語った。私は覚えているが、プーチン大統領は、ある時、そんなメッセージに答えて、「それならどうぞ!私達はあなた方をお待ちしています。」と言った。――(『ペチャト』2014年9月12日)

想像の第二は、プーチン戦犯論である。

下斗米伸夫は、「今回のウクライナ危機でも、アメリカはソフト・パワーを中心に行使している。・・・『プーチンはヒトラー』とばかりにロシアを非難する情報戦を展開した。」(『プーチンはアジアをめざす』NHK出版、2014年、p.28)と書いている。アメリカだけでなく、チャールズ英皇太子もプーチンをヒトラーになぞらえた。私達日本人は、アメリカの情報戦が抗争する二者の外にいる第三者を自分の味方にしようとする目的で行うものとばかり思い込んでしまうかもしれないが、真の目的は、ロシア内部に存在する親欧米勢力、いわゆるロシア・リベラル派を鼓舞激励し、安心感を与える所にある。プーチン体制の打倒に頑張って下さい。あなた方ロシア・リベラルを尊敬しており、二階に上げて梯子をはずすようなことは決してありません。心配しないで下さい。私達米英人はプーチンと妥協するようなことをして、あなた方を裏切ることはありません。だって、相手はヒトラーなのですから。
先に引用した文章に続けて、下斗米は、「スターリンでないところがミソだ。スターリンの場合、欧米世論に訴えるには説明が必要だからだ。」と書く。私=岩田も「スターリンでないところがミソだ。」と思う。しかし、理由が違う。米英は、ルーズベルトとチャーチルは、ソ連、スターリンと同盟して、ヒトラーとたたかったのだ。プーチン=スターリンのキャンペーンであれば、ロシア国内の親欧米派を完全に安心させて打倒プーチン運動へ駆り立てる事はできまい。「ロシアをプーチンから救い出そう! 中国との条約をすべて破棄しよう!」がロシア・リベラルのスローガンのようである。
下斗米が説く如く、本当にプーチンが『アジアをめざす』とすれば、ヨーロッパ人に「ロシアはヨーロッパと言うよりアジア的だ。」と言われ続け、トルコ並にもヨーロッパの一部としてあつかってもらえないでいることにコムプレクスをいだくロシア内親欧米派は、「こんな奴が国のトップだから、私達はヨーロッパ人からアジア人的だと言われ続けるのだ。」と何か過激な行動に出るかも知れない。
プーチン=ヒトラー論に立脚する限り、仮にロシア・リベラルが勝利を収めることになるならば、相当に低い確率であったとしても、そうなるならば、プーチンを国際戦犯法廷、いわば第二のニュールンベルグ裁判に差し出すことにならざるを得まい。
プーチン自身もプーチン=ヒトラー論の論理必然的帰結を合理的に予想できるから、抗争を妥協の方向を持って行き難くなる。

平成26年12月23日

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion5084:141225〕