ヴァイマルのフリードリッヒ・シラーの家を訪れて

7月10日、私はテューリンゲン州のヴァイマルにある、フリードリッヒ・フォン・シラー(Friedrich von Schiller)が1802年から1805年まで住んでいたという「ヴァイマルのシラーの家(Schillerhaus)」を訪れた。 シラーは、1802年3月、このヴァイマルの家をイギリス人の著述家/翻訳家、Charles Mellish of Blythから購入し、同年4月29日、家族と共にそこに移り住むことになった。Charles Mellish of Blythがどのような人物であったのか分からないが、貧困で悩むことが多かったシラーが、自分の家を持てることになったのだから、シラーにとって、これは大変に喜ばしいことだったに違いない。 しかし、ヴァイマルの家に移り住んでから僅か3年後、1805年5月9日にシラーは結核のため、45歳の若さで他界してしまう。1790年にシャルロッテ(Charlotte von Lengefeld)と結婚してから一年後に、病に臥し、長年病と闘ってきたシラーだったが、終に病魔には勝つことができなかった。 シラーの家は三階建ての意外に大きな家だった。召使いの寝室もある。各部屋ごとの案内をしてくれるオーディオ・ガイドを耳にあてながら部屋を観て回った。 召使いの部屋 写真:Karl-Heinz Meurer 2009年5月9日撮影

その中で特に印象に残っているのは、書斎と寝室を兼ねたシラーの部屋の中に独り佇んだ時だった。シラーはその部屋の片隅に置かれたベッドの中で息を引き取ったのだという。彼が執筆するときに使ったという机の上には、シラーの未完成に終わった作品「*Demetrius」の原稿(フォトコピーされたものと思う )が置かれてある。シラーの死後、この書きかけの原稿が机の上に残されていたのが見つかったのだという。幸いにもちょうどその時、(シラーの家の中は他にも学生のグループや観光者でゴタゴタしていたのだが) 部屋の中にいたのは私一人だけだったので、彼の肉筆にじっと見入れる余裕を持つことができた。彼の筆体は流れるようで、小文字と大文字ののバランスが見事にとれていて、とても美しかった。そして、力強さもあった。それは、恰もシラーが自分の書く一字一字、一言一言に、自己の魂を込めて書いたような力強さであった。

写真:Deutsche Fotothek

写真:Deutsche Fotothek

私はシラーのエキスパートではないが、シラーという人間に惹かれている。その切っ掛けとなったのが、何年か前に古本屋で5ユーロで手に入れた「Unsterbliche Hoffnung (不滅なる希望-仮訳  )」と題された小さな本である。この本はWolfgang Krausという人によって編纂され1952年にオーストリアで出版された。本の中身は、Kraus氏が抜粋したシラーのポジティヴな、時にはユーモラスな響きさえもある言葉で詰まっている。本のタイトルが語っているように、シラーは常に不滅なる希望を持ちつづけていった人間であった、とWolfgang Kraus氏は私たちに伝えたかったのだろうと思う。気が沈んでいるとき、私はこの小さな本を手に取ってページをめくり、シラーの智慧を求めることもある。彼の希望に溢れた言葉が少しは自分を勇気づけてくれるような気がするからである。

シラーの詩「希望(Hoffnung)」( 一部):

Die Hoffnung führt ihn ins Leben ein,

Sie umflattert den fröhlichen Knaben,

Den Jüngling locket ihr Zauberschein,

Sie wird mit dem Greis nicht begraben,

Denn beschließt er im Grabe den müden Lauf,

Noch am Grabe pflanzt er – die Hoffnung auf.

希望が人間に この世の生を与え、

希望が朗らかな子供のまわりにはためき、

希望の魔法の光が青年を引きつけ、

老人になっても希望は埋められはしない。

なぜなら老人は墓で疲れた生を終える時にも、

まだ墓の傍に─希望を植え込むのだからだ (石井不二雄訳)

私は、いつか再びシラーの家を訪れてみたいと思っている。暖かい春に再訪するのが好いかもしれない。 以上 ~~~~~~~~~~~ *Demetrius:シラーがーモスクワ国家のツァーリ偽のドミトリー一世をモデルにした未完成の戯曲 偽ドミトリー一世Wikipediaへのリンク: http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%81%BD%E3%83%89%E3%83%9F%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC1%E4%B8%96

ヴァイマルのシラーハウス

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/ 〔opinion1412:130813〕