不世出の詩人谷川俊太郎逝く

現在、4回に分かれて「吉本隆明生誕100年祭」のシンポジウムが開催されているので、吉本隆明を語ろうと筆を取ろうとしたら、悲しい報が入った。谷川俊太郎が老衰で、92歳で逝去したとの事である。そう・・・あの詩集「20億年光年の孤独」の作者である。そして、吉本隆明は谷川俊太郎の事を、日本で最高の詩人であると称賛していたのである。あの、他人を殆ど褒めた事の無い吉本が最高の賛辞を行っていたのである。・・・詩人谷川俊太郎を‼
そこで、小生は谷川俊太郎と知り合いであった訳ではないが、少し自分との有形無形のある関係を述べてみたい。私は2005年12月に北軽井沢に「市井庵」と言う『ダーチャ』*1を造った。当時、西宮市に住んでいたので、連休に市井庵に通っているうちに下記のような「詩」を創った。この詩は市井庵をバックに2017年元旦の賀状で送ったので、御存知の方もいるかも知れない。

『高原の5月』

落葉の定まらぬ   樹海の一面に
含羞に膨らんだ   点在の白綿を視た
そう あれが こぶしの花だ

遠く高原の夕日は  浅間の山稜を 古城のように照らす
高原の5月は 少しずつ
落葉の海を 淡緑に代えてゆく

この樹海が 紺碧に 変わる時
人はひとつ 年輪を 刻む

2016年5月 市井庵於

これを賀状で送った時、賛否両論があって、何を言いたいか良く解らないという人群が少なからず存在していた。その後、谷川俊太郎の詩がある新聞に掲載されていたのを見たら、「高原の5月」ならぬ「5月の高原」と言う詩があった。当時の記憶はぼんやりしているが、確か「20億光年の孤独」に内包されていると思う。この谷川の詩を送ったら、ごちゃごちゃ言っていた人群は黙ってしまった。

市井庵は標高1130mの所にあるので、柿、竹,シュロは育たない。真夏でもクーラーは必要ないが、冬は▲20℃位になるので薪ストーブが無いと凍える。
市井庵から北東へ4km位(車で10分、歩いて30分)位の所に『大学村』がある。
ここに童話作家の岸田衿子氏が住んでいた。衿子は岸田国士の長女であり岸田今日子は妹である。
衿子は谷川俊太郎と1954年に結婚し1956年に離婚している。その後田村隆一とも結婚しているので恋多き女だったかも知れない。その結婚時代に谷川俊太郎は大学村に住んでいたのである。衿子は死ぬまで(2011年4月7日)大学村に住んでいた。
同域であるので、小生とも賀状のやり取りや行き交いは少なからず有った。

日本で一番最初のカラー映画、高峰秀子主演の『カルメン故郷に帰る』は北軽井沢が舞台である。大学村は北軽井沢駅から徒歩10分で行ける。
妹の岸田今日子は劇団『雲』に属していたので色んな文化人や芸能人が沢山集まっていた。
このことは姉妹の本『二人の山小屋』に詳しい。是非、拝読して欲しい。
その中で、三島由紀夫の言った言葉が面白い。三島はソファーにふんぞり返りながら「白樺の向
うに銀座が有ったらいいなぁ‼」と、恨めしそうに語ったそうである。

吉本隆明100年祭の11/19(火)の3回目シンポジウム「吉本隆明と60年安保闘争・全共闘」では司会を含めて6人の発表者がいたが、谷川俊太郎の逝去をアドリブでも出すべきであったのに、誰一人触れることなく原稿を棒読みし、単なるフラットな評論と経歴のなぞりでは、吉本が本質的に追及した「大衆の原像」や「市井の生活」からは、ほど遠くリアリティーは全く感じられなかった。あるのは、乾いた認識論的な知識の披露のみであった‼

ここでは、谷川俊太郎さんへのご冥福を心よりのお祈りと致します。・・・・・合掌
・・・・死んだ男の残したもの・・・・を聞きながら

高原の5月市井庵原稿IMG_20241123_0001のサムネイル*1:ダーチャとは?
モスコーに焼却プラントの完成検査と運転指導で滞在した時、覚え実感した言葉である。
モスコー市(モスクワ州ではない)は小さく東京23区程度の面積しかない。そこに1000万人が住んでいるので世界一の人口密度と言える。そして1軒家は1軒も無く総て20階程度の共同住宅である。労働者国家であるので週休2日は完全に守られている。土、日は国家に与えられた土地を郊外に借りて素朴な仮住まいを造り、多くの民衆がそこで野菜や穀物を造りながら生活をする。その仮住いをロシア語で『ダーチャ』と言う。
直訳ではダーチャ=別荘となっているが、自給の生活を主体とするので少し違うと思う。
34年前の事であるが、この様な生活が“豊かさ”の内実と感じたので19年前に北軽井沢に『ダーチャ』を創った訳である。事情があって売ったり買い戻したりしたが、今は家人の都合で現地に行くことが出来ないので人に貸している。
2024年11月20日

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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