2019年1月28日
泥沼の底が見えない統計法に違反した厚労省の「勤労統計調査」問題。調査に当たった特別監察委員会の調査自体の杜撰さ、厚労省丸抱えの調査の実態が次々に発覚している。
直近のニュースでは、厚労省の官房長が聞き取りに立ち会っていたという。
「厚労官房長同席、菅氏認める 麻生氏『それをやるかね』」
(『朝日新聞DIGITAL』2019年1月28日、11時24分)
https://www.asahi.com/articles/ASM1X3F4ZM1XUTFK007.html
この件で根本厚労相は25日、特別監察委員会に再調査を要請した。といっても、実態は報告書提出から3日後に再調査に追い込まれるという異例の事態。しかし、25日夜のNHKニュース7、ニュース・ウオッチ9の伝え方が醜かった。
そこで、関係資料を集め、検討してまとめた意見書を昨日、NHKの3つの部署(小池英夫報道局長、ニュース7担当、ニュース・ウオッチ9担当)宛てに発送した。以下、その全文を転載する。
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2019年1月27日
NHK報道局長 小池英夫 様
NHKニュース7 担当 御中
NHKニュース・ウオッチ9 担当 御中
1月25日のニュース7、ニュース・ウオッチ9における
不正統計調査問題の報道に関する意見
醍醐 聰
Ⅰ. 1月25日の番組で伝えられた項目(順序)と配分時間
ニュース7の項目、配分時間は次のとおりでした。
また、ニュース・ウオッチ9の項目(順序)は次のとおりでした。
①19歳、女子大生、行方不明 何が ②インフルエンザ流行拡大 ③ネット機器に国が無差別侵入 ④相模原傷害殺傷事件から明日で2年半 ⑤直木賞受賞 真藤順丈さんの描く沖縄 ⑥不適切な統計調査(47秒)
<以下省略>
ここ数日、厚労省の『毎月勤労統計』の不正調査問題と、その問題点を調査した特別監察委員会の調査報告に関して、与野党を問わず、疑問・批判の声が高まり、1月28日から始まる国会で最大の焦点になると見込まれています。3日前に提出された特別監察委員会の報告書に対しては、「身内からの聞き取り」という杜撰さに批判が相次ぎ、25日、衆参両院の閉会中審査を経て根本厚労相は、再調査を約束する事態に追い込まれました。
25日午後以降、テレビ各局、全国紙は不正統計調査の実態と国会の動きを大きく報道しましたが、この日のNHKニュース7は、上記のとおり、主な項目の放送が終わった6番目にようやく、この問題を取り上げましたが、配分時間わずか49秒の駆け足報道でした。
ニュース・ウオッチ9も、順序、配分時間ともにニュース7と同様で、不正統計調査問題はフラッシュの中でさらりと取り上げられただけでした。
Ⅱ. 意 見
(1) 3日後に開会が迫った国会の最大のテーマになると予想される不正統計調査問題に新たな動きがあった日のNHKの夜のゴールデンタイムのニュース番組において、この問題が、女子大生不明事件や特定のスポーツ選手の決勝戦を明日に控えた様子を伝えたあとで、配分時間もこれら2つの項目に充てた時間の3分の1以下、選抜高校野球の出場校決定のニュースに充てられた時間の2分の1以下という取り扱いは常軌を逸しています。
(2)問題は放送の順序、配分時間だけではありません。問題の伝え方にも見過ごせない瑕疵がありました。それは、「内部的な調査にとどまっている」という抽象的な指摘で済ませ、どこに、どういう杜撰さがあったのかという肝心の内容を伝えなかった点です。
1月25日の19時直前(18時45分)にNHK NEWS WEBにアップされた「不適切統計調査問題 特別監察委員会再調査へ 根本厚労相」というタイトルの記事
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190125/k10011790761000.html?utm_int=word_contents_list-items_004&word_result
は、その内容から判断して、ニュース7で放送された読み上げ原稿(元原稿)に当たるものと考えられます。
しかし、この元原稿にあった「課長級以下の職員のヒアリングは委員ではなく厚生労働省の職員が行っており」という部分がニュース7でもニュース・ウオッチ9でもカットされました。「内部的な調査にとどまっている」という指摘を伝えながら、その核心の一端といえる事実が元原稿にはあったにもかかわらず、番組の編集段階でカットされたのは視聴者に真相を伝える責務に背く作為と言って過言ではありません。
(3)さらに、元原稿でも、実際の番組でも、特別監察委員会がまとめたとされる調査報告書の素案を厚労省の職員が作っていたこと、厚労省が調査方法を変更した理由として東京都の担当部署からの要望を挙げたことに関して、当時の都の職員がそのような要望をした事実はないと証言している点にもまったく触れませんでした。「内部的な調査」「不適切な調査」と言いながら、その核心に当たるこうした具体的事実を一切伝えなかったのは、ニュース報道における重大な瑕疵または不作為です。
そうした事実は他の時間帯のニュースで伝えたとNHKは釈明するかもしれません。しかし、視聴者は、特に平日は、全ての時間帯のNHKニュースを視聴できるわけではありません。かりに他の時間帯のニュースで伝えられたとしても、視聴率が高い夜7時、9時のニュースで省いてよい理由にはまったくなりません。
(4)1月25日のニュース7とニュース・ウオッチ9は、特別監察委員会による調査の杜撰さを一切、伝えない一方で、「根本厚労大臣は“調査結果は十分だった”との認識を示したうえで、“いささかも疑念が生じることのないよう”ヒアリングをさらに行っていただくことになった“と述べ、疑念を払拭するため、特別監察委員会が再び調査を行う方針であることを明らかにしました」で結びました。
調査結果の杜撰さを裏付ける具体的事実を伝えない一方で、このような担当大臣の発言をおうむ返しに伝えるのは公正な報道から外れた番組編集であると同時に、特別監察委員会の調査は十分だったが、念のため、いささかの疑惑も払拭するよう,すすんで再調査を行うことにした、という厚労省の印象操作にNHKが加担し、拡散する政府広報と言って過言ではありません。
こうした編集がNHKの「自主的編集判断」というのなら、今のNHKは国策放送局と呼ぶのがふさわしい組織に堕落していると言って差し支えありません。
(5)NHK(をはじめとするメディア)に求められる報道機関として使命は、再調査というなら、最初の調査のどこを、どう改めるのか、「誰が」「誰に」「何を」聞き取る再調査なのか、再調査の報告書は素案の段階から、「誰が」「どういう手順で」まとめるのか、委員会の独立性を確保するため、どのような仕組み(委員の構成・補充、委員会ならびに議事録の公開)を採用するのかなどを、大臣会見の場で徹底的に質し、確認することです。視聴者が求めるのは、そうした質問力、自律的な調査・取材であり、これらに裏付けられた番組編集です。
こうした自律的な問題意識、調査報道を欠いた政府発表の受け売りでは、もはや視聴者の知る権利に応えるメディアとは言えず、政府に不都合な真実を覆い、政府の意向に沿った印象操作に加担する政府広報機関です。そのようなNHKは、組織の維持・運営の財源を視聴者に請求する正統性をもはや失っています。
以上
初出:醍醐總のブログから許可を得て転載
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye4563:190129〕