この本の副題は「グローバルな社会的連帯経済をめざして」となっていますが、「社会的連帯経済」は近年、オルタナティブな互恵的な経済の在り方として世界的に注目され出しているものです。
著者の丸山茂樹氏は、協同組合運動に長年かかわってこられ、また韓国ソウル大学への留学や韓国聖公会大学の講師や韓国農漁村社会研究所の理事などをされている、韓国の現状や市民運動にも非常に詳しい方です。また東京グラムシ会の元代表もされ、グラムシ理論に精通されています。
この本では最初の部分で、「協同組合都市—ソウル」の実現を掲げた朴元淳ソウル市長の政策やそれを生み出した韓国の市民運動について、そして同市長などがイニシアティブをとって創立された「グローバル社会的経済フォーラム」(GSEF)の誕生とその発展について、関連の資料などを含めて詳しく説明しています。著者の丸山氏自身、有志とともに「ソウル宣言の会」を立ち上げ、このGSEFの活動をバックアップしてきました。
後半は、日本国内における先進事例の紹介で、東日本大震災に際して、漁船の壊滅的な被害に遭いながらも、残った漁船を共同利用して復興に取り組んだ岩手県宮古市の重茂(おもえ)漁協の取り組みや過疎地における潜在資源を活用した福井県池田町の事例、内発的な連帯による「地方創生」運動ともいえる山形県置賜自給圏推進機構の事例、生活クラブ生協の運動の中から生まれたワーカーズ・コレクティブの運動や福祉クラブ生協の事例などを具体的に紹介しています。また関連してアメリカのワーカーズ・コレクティブ運動や市民運動も紹介されています。
最後の部分は、市民社会とヘゲモニーの問題などグラムシ理論などを踏まえた理論的考察で、丸山氏の盟友である小原耕一氏による論文も収録されています。
最終章では「新しい世界変革は実践されつつある」と題して、「始まっている未来創造の営み」から「共通のプラットフォームとネットワークつくり」の必要性が説かれています。
「社会的連帯経済」といわれるような活動はこの本に紹介されたものだけでなく、日本国内も含めて、世界的にも多様に試みられていますが、この本で紹介された事例、GSEFの行政をも巻き込んだネットワークの紹介は非常に重要な意味があると思います。一読をお勧めします。