京都新聞社説:「再稼働はリスク大きい」「これほどの巨費を投じてまで電力各社が原発にこだわるのはなぜなのか、理解に苦しむ。」「「国がつぶれるかもしれないようなリスク」(菅元首相)を背負うべきではあるまい」

「浜岡原発4号機(静岡県御前崎市)の再稼働に向け、中部電力は新規制基準に適合しているかどうか確認する審査を原子力規制委員会に申請した。申請済みの原発は電力8社で10原発17基、投じる対策費は計1兆8千億円にもなる。

これほどの巨費を投じてまで電力各社が原発にこだわるのはなぜなのか、理解に苦しむ。この資金を再生可能エネルギーや火力発電の効率化に投資するほうが、よほど前向きではないのか。」

浜岡原発  再稼働はリスク大きい
http://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20140217_2.html

浜岡原発4号機(静岡県御前崎市)の再稼働に向け、中部電力は新規制基準に適合しているかどうか確認する審査を原子力規制委員会に申請した。申請済みの原発は電力8社で10原発17基、投じる対策費は計1兆8千億円にもなる。

これほどの巨費を投じてまで電力各社が原発にこだわるのはなぜなのか、理解に苦しむ。この資金を再生可能エネルギーや火力発電の効率化に投資するほうが、よほど前向きではないのか。

火力発電の燃料費がかさみ、電力各社の経営が苦しいのは確かだろう。しかし、福島第1原発の被害実態を見れば、電力会社の経営上の必要性は原発を再稼働させる十分な理由にならない。

とりわけ浜岡原発は、福島の事故を受け、当時の菅直人首相が異例の直接要請で運転を停止させた経緯がある。政府が「30年以内の発生確率は70%」と予測する南海トラフ巨大地震の震源域の真上に位置するからだ。深刻な事故を起こせば、大動脈である東海道新幹線や東名高速道路が通行不能になり、影響は計り知れない。

中部電は地震規模をマグニチュード(M)9・1、揺れ(基準地震動)を最大2000ガル、津波を最大21・1メートルと想定し、防波壁の建設やフィルター付きベント(換気)装置の設置などの対策を申請書に盛り込んだ。来年秋までに完成させる計画という。規制委の審査では、こうした想定が妥当かどうかが焦点になりそうだ。

昨年7月から続いている規制委の安全性審査は当初、半年程度かかると予想されていた。しかし田中俊一委員長は「年度内には終わらない」と軌道修正し、冷房使用で電力需要が増える夏場の再稼働には審査が間に合いそうにない。電力会社や経済界、政治の思惑に引きずられず、慎重かつ冷静に審査を進める姿勢を評価したい。

重要なことは、東日本大震災と巨大津波がそうだったように想定外が起きうることだ。机上計算で「安全」でも、事故のリスクは消せない。「国がつぶれるかもしれないようなリスク」(菅元首相)を背負うべきではあるまい。

安倍晋三政権は、原発を「重要なベース電源」とするエネルギー基本計画を近く閣議決定する構えだ。将来の原発依存縮小を唱えてはいるが、原発容認こそ政府の本音だと受けとらざるをえない。

原発ごとに老朽化の度合いや地震・津波のリスクに大きな差がある。安倍首相が脱原発依存を口にするなら、検討すべきは再稼働ではなく、どの原発から、どういう手順で廃炉にしていくかだ。浜岡はその第1号にふさわしい。

[京都新聞 2014年02月17日掲載]