<以下は、東北関東大震災に関するテレビ報道番組を視た私の感想・意見である。これを今日、一視聴者の意見としてNHKにFAXで送った。>
マイクを向ける相手がずれている
東日本大震災の被災地では今、難を免れた約45万人の人々が真冬並みの気候の中、厳しい避難生活を強いられている。とりわけ、燃料不足は深刻で、自分たちの暖をとる燃料はもとより、多くの遺体を火葬する燃料も当てがなく、被災者からは「支援はいつ来るのか」、「きょうは運よくボランティアの支援が届いた。行政からの支援は一滴もない。定期的補給がなく不安だ」という悲痛な声が上がっているという(「時事通信」3月16日(水)、17時23分配信)。
そのような現実の最中、競うように避難所に駆け付けたテレビ・レポーターたちは、疲れ切った表情の被災者にマイクを向け、異口同音に「今、一番必要なものは何ですか?」と問い掛けている。それには決まったように、「薬、食べ物、暖房、水・・・・」といった答えが返される。こういう場面を何度、テレビの画面で視たことか。
被災者が何を一番必要としているかを知ること、伝えることは、救援を効果的なものにする上で重要な情報であり、報道である。しかし、大地震から5日目が過ぎようとする今の時点で、多くの報道を通して被災者が何を求めているか歴然としている今なお、定番のように、同じ問いかけをするレポーターの「空気が読めない」鈍感さが情けなく思えてならない。私が被災者だったら、レポーターにこう言い返すに違いない。
「マイクを向ける相手がずれていませんか? 私たちは散々同じ問いかけを受け、その都度、同じ答えをいやというほどお返ししました。今、急を要するのは被災者に向かって『何を必要としていますか?』と問うことではなく、被災者が一刻を争うように求めているものがなぜ避難所に届かないのかを、救援する側に問うことです!」
燃料を一滴でも早く
南相馬市の病院の医師はマイクに向かって、もはや医薬品が尽きた。一刻も早くここへ運んでほしいと訴えていた。同市の市長も懇願するように一刻も早い救助を求めていることを国に伝えてほしいとレポーターに訴えていた。
青森県の三村申吾知事は16日、被災地・東北地方を代表して首相官邸や経済産業省、農林水産省を訪ね、重油やガソリン、灯油などの石油燃料を一滴でも早く被災地へ供給するよう要請していた。そして、輸送のルートとして被害が小さかった青森港まで大型船で燃料を運び、北からタンクローリーなどで被害の大きい宮城、岩手の両県に輸送することを提案していた(sankeibiz、2011.3.16、17.07)。
つまり、今、被災者救援で焦眉の問題は、「被災者は何を求めているのか」ではなく(そんなことはとっくに分かっている)、「被災者が切望している物資が被災者のもとに届かないのは、なにがネックになっているからなのか」を至急、明らかにすることである。届けるべき物資が足りていないのか? 物資は調達されているが、約2,500に上るといわれる避難場所がマッピングされていないからなのか? あるいは、輸送ルートが確保されていないからなのか、その場合、陸路が遮断されているからか?それとも空輸の手段、ルートが確保されていないからか? ・・・・こうしたネックとなっているものを地域ごとに具体的に明らかにし、それを取り除く作業を組織的に進めることこそ、今、急を要するのである。
寒気に覆われ、衛生状態が日増しに悪化する環境の下、1日おにぎり一個が珍しくないというという厳しい状況では、かろうじて生き延びた人々、とりわけ病弱の高齢者、ミルクを切らした赤子が体力消耗により避難所で衰弱死に追いやられる事態も生まれかねない。こうした痛ましい事態をなんとしても避け、救える命を救う努力が一刻を争うタイミングで求められている。
メディアの非当事者原則と報道による被災者支援は両立する
メディアは現実に直接関与する当事者ではなく、現実をリアルに伝える観察者であることを私も承知している。問題はその観察の眼光を何に向けるのかである。被災者の疲労困憊した表情と肉声を伝えること自体が被災者に「寄り添うこと」だと思い込むとしたら、それは安直な心情に過ぎない。被災者支援にとって、「今」、「焦眉の問題は何なのか」という鋭利な視点ーーーこれこそ、今、大震災報道に携わる人々に強く求められている。
折しも、今日(3月16日)の夕刻あたりから、このような視点に沿った救援の動き、それを伝える報道が目に留まるようになった。
NHK On Lineは19時のニュースで「救援物資 輸送ルート確保急ぐ」というタイトルで、東北地方の太平洋側の海沿いの道路や鉄道が各地で寸断された状況の中、国土交通省が東北地方の内陸部や日本海側から被災地に救援物資などを送るルートの確保を急いでいると伝えた。「道路」では、内陸部を走っている東北自動車道を緊急交通路に指定するとともに、通行できる車両を救援物資を運ぶトラックなどに限定したこと、高速道路以外では、首都圏から東北地方の内陸部を南北に結ぶ国道4号線を背骨として、そこから東側にある太平洋側の各都市と結ぶルートの復旧を急いでいること、16日は新たに岩手県の陸前高田市に入るルートが確保されたことを伝えた。
「鉄道」に関しては、東京から新潟などを経由し、日本海側のルートで新潟から山形と通って青森や北海道を結ぶJR貨物を使って支援物資を運ぶこと、このルートでは、コンテナに救援物資を積載するとともに、一度に大量のガソリンを輸送できる「タンク貨車」で輸送し、途中からトラックやタンクローリーで太平洋側の被災地に届けることを国交省が検討していると伝えた。
また、「空路」では、現在使用できる空港のうち、花巻と山形、福島の各空港で24時間態勢で航空機による救援物資の輸送が行われているという。
ただし、これらはいわば、動脈に当たる輸送ルートである。問題は、その先、つまり、各ターミナルに集結された物資を今なお孤立した避難地まで輸送する足まわりをどのように確保するのかである。特に、倒壊した建物や流木などによって陸路が遮られたところで、空路の輸送ルートを国など救援する側はどのように確保しようとしているのかーーーこの点を追跡する調査報道が求められている。
このような報道こそ、メディアが非当事者原則を堅持しながらも、過酷な苦難を強いられた被災者の切迫した求めに応える役割を果たすものといえる
初出:「醍醐聡のブログ」より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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