今回もおかしい死刑存廃の世論調査

2015年1月31日

前回の調査(質問形式)について感じた疑問
昨日、内閣府大臣官房政府広報室は「基本法制度に関する世論調査」の一環として昨年11月に行った「死刑制度に対する意識調査」の結果の概要を公表した。
「基本法制度に関する世論調査 2. 死刑制度に対する意識」
「調査結果の概要」(2015年1月26日 内閣府大臣官房政府広報室)
http://survey.gov-online.go.jp/h26/h26-houseido/2-2.html

これに先立ち、NHKは1月24日夜のニュースで、新聞各紙は1月25日の朝刊で、「死刑制度を容認80%」(朝日新聞)、「死刑『容認』80%、高水準を維持」などの見出しで調査結果の要旨を伝えた。

こうした死刑制度の存廃に関する政府の世論調査は1956年以降これまでに9回実施されているが、私がこれに関心を持ったのは、2012年3月29日、3人の死刑囚に対する死刑が執行されたことを伝えた同夜のニュース番組で2009年に内閣府が行った死刑制度の存廃に関する世論調査の概要が紹介されたのを視たのがきっかけだった。
その折、私は、NHKのニュース番組の画面に、「どんな場合でも死刑は廃止すべきである」が5.7%だったのに対して、「死刑を容認する国民は約85%」という字幕が出、そのすぐ後で、この約85%という数字は「場合によっては死刑もやむを得ない」という問いに対する肯定の回答だったことを示す字幕が出たのを視て驚いた。「場合によっては」という条件がついた死刑肯定を「死刑容認」と括ってしまってよいのか、「場合によっては」という条件を、なぜ「死刑存続」の方にだけ付けて、死刑廃止の方には付けないのか(「場合によっては死刑もやむを得ない」という選択肢を設けるなら、それと対称的に、「場合によっては死刑を廃止してもよい」という選択肢を設けるべきではないか)という疑問がよぎったからである。

そこで、改めて内閣府政府広報室が公表したこの世論調査の結果の概要を見ると、「場合によっては死刑もやむを得ない」に肯定の回答をした人に対して次のような追加質問がされ、その回答結果が掲記さていることが分かった。

d. 将来も死刑を廃止しない。(60.8%)
e. 状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい。(34.2%)
f. わからない。(5%)

となると、世論調査の結果は次のように集約するのが的確ではないか、というのが私の感想だった。

*将来とも死刑を存続させせるべきである。(52.6%)
(注)0.856×0.608=0.526
*現在はやむを得ないが、将来、状況が変われば廃止してもよい。
(29.3%)
(注)0.856×0.342=0.293

*どんな場合でも廃止すべきである。(5.7%)
*わからない、一概にいえない。(8.7%)
(注)1-0.856-0.057=0.087

このような資料分析とそれをもとに、その日のうちにこのブログに論評記事をアップした。
「死刑制度に関する内閣府の誤導的世論調査、それを受け売りしたメディ
   アの報道」(2012年3月30日)
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/post-34ef.html

また、翌4月1日にはNHKニュース番組制作担当へ次のような意見を送った。
 「死刑支持は85.6%ではなく、52.6%と伝えるべき~NHKに意見を提出
     ~」(2012年4月1日)
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/856526nhk-88b7.html

このような経緯があったので、今回の世論調査について正式の公表前に報道された「死刑容認80%」という調査結果の詳細ならびに質問形式の変化の有無に強い関心を持った。

今回の質問正式と回答結果は
今回の質問正式と回答結果の詳細は前記の内閣府政府広報室の発表記事で示されている。その要点を再掲すると次のとおりである。(アルファベットは醍醐が追加)

1. 死刑制度の存廃(該当者総数1,826人)
a. 死刑は廃止すべきである(9.7%)
b. 死刑もやむを得ない(80.3%)
c. わからない・一概に言えない(9.9%)
2. 即時死刑廃止か、いずれ死刑廃止か
(1で「死刑は廃止すべきである」と答えた者に)
d. すぐに、全面的に廃止する(43.3%)
e. だんだん死刑を減らしていき、いずれ全面的に廃止する(54.5%)
f. わからない(2.2%)
3. 将来も死刑存置か
(1で死刑制度について「死刑もやむを得ない」と答えた者に)
j. 将来も死刑を廃止しない(57.5%)
k. 状況が変われば、将来的には死刑を廃止してもよい(40.5%)
l . わからない(2.0%)
4. 終身刑を導入した場合の私刑制度の存廃
(注:すべての調査対象者に対して)
m. 死刑を廃止する方がよい(37.7%)
n . 死刑を廃止しない方がよい(51.5%)
o . わからない・一概に言えない(10.8%)

誘導的な文言は消えたかに見えるが
ここから、「死刑容認80%」という報道の見出しは質問1に対してbを選択した人が80.3%だったことを捉えたものだったことがわかる。ただし、前回2009(平成21)年の調査と比べ、「死刑容認」が5.3ポイント減少し、「死刑廃止」が4ポイント増えている。
ここで注意したいのは、質問1(しばしば「主質問」と呼ばれる)の死刑容認の選択肢から「場合によっては」という文言が削除されていることである。これは日弁連の意見書や国会での質疑で、死刑廃止の選択肢には「どんな場合でも」という強い意思を想定した文言が付けられていたのに対し、死刑容認の選択肢には「場合によっては」という緩やかな意思を想定した文言が付けられ、死刑容認への回答を誘導しがちな形式になっているとの指摘を受けた見直しと言われている。
(注)日本弁護士連合会が2013年11月22日に発表した「死刑制度に関する
    政府の世論調査に対する意見書」の全文は次のとおり。
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2013/opi nion_131122_4.pdf

こうした見直しによって、「死刑容認」と「死刑廃止」の選択肢の表現の非対称性が幾分緩和されたことは確かだ。しかし、対称的な質問形式というなら、冒頭の質問を「死刑は廃止すべきである」、「死刑は存続させるべきである」とするのがすっきりした文言であり、「死刑廃止」の選択肢の方は「べきである」という強い意思を想定し、「死刑存続」の選択肢の方は 「やむを得ない」という柔軟な意思を想定させる文言を使ったのは見直しの不徹底を物語っている。とりわけ、婉曲で温和な意思や考えに支持が集まりやすい日本人の気質を前提にすると、質問1の文言にはなお見直しの余地があると考えられる。

条件次第で「死刑廃止」に転じる意見も「死刑容認」と括ってよいのか
しかし、今回の世論調査にはもっと大きな問題がある。「死刑もやむを得ない」という選択肢を設けることによって、条件次第で「死刑廃止」に転じる意見まで「死刑容認」と括ってよいのかというのがそれである。
今回の世論調査でも質問1(主質問)に続くサブ・クエッションの一つとして、「死刑は廃止すべきである」と答えた人に対して、「即時死刑廃止か、いずれ廃止か」という質問が設けたれた。回答結果は先に再掲したように、即時廃止か漸進的かで意見が分かれているが、「死刑廃止」の考えはこのサブ・クエッションへの回答でも揺らいでいない。では、「死刑存続」の方はどうか?
サブ・クエッションとして設けられた「将来も死刑存置か」という問いには、「死刑存続」論者のうちの40.5%が「状況が変われば、将来的には死刑を廃止してもよい」を選び、「将来も死刑を廃止しない」を選んだ人は57.5%にとどまっている。

集計結果の組み替え~世論をより的確に表すために~
とすれば、死刑制度の存廃をめぐる世論は次のようにまとめるのが実態にもっとも忠実な集計になると考えられる。

①将来とも死刑を存続させる(46.2%)
(注)0.803×0.575=0.462
②当面は存続、将来、状況が変われば廃止してもよい(32.5%)
(注)0.803×0.405=0.325
③当面は存続、その先どうすべきかはわからない(1.6%)
(注)0.803×0.020=0.016
④だんだん死刑を減らしていき、いずれ全面的に廃止する(5.3%)
(注)0.097×0.545=0.053
⑤すぐに全面的に廃止する(4.2%)
(注)0.097×0.433=0.042
⑥廃止すべきだが、すぐにか、段階的にか、はわからない(0.2%)
(注)0.097×0.022=0.002
⑦(存廃の是非は)わからない・一概に言えない(9.9%)

ここで、死刑の存廃に関する世論を二者択一的に分類しようとすると、②③の扱い方が問題になる。これらを存続に加えれば、死刑制度を支持する回答は一部の新聞報道の見出しに付けられたように80.3%となり、圧倒的国民が死刑の存続を支持しているという解釈になる。
他方、③はともかく②を「死刑廃止を支持する回答」とみなすと、死刑存続は46.2%、死刑廃止は42.2%(=32.5+5.3+4.2+0.2)となり、存廃の意見分布は接近する。

初出:醍醐聰のブログより許可を得て転載

記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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